CB1000R ボルドーレッドメタリック/167万900円。CB1000R Black Editionも用意され、そちらは171万6000円《写真撮影 真弓悟史》

ネオクラシックか? ストリートファイターか? そのどちらの側面も持ち合わせている『CB1000R』。新しいホンダのCBのカタチとしてネオスポーツカフェコンセプトを掲げて2017年のEICMAに登場。2018年から日本でも発売された。

そもそもそれまでのCB1000R(国内販売はなかった)は、いわゆるストリートファイター色の強い個性的なスタイルを持っていたが、このモデルでオーセンティックなスタイルにリニューアル。CB1000Rだけでなく、『CB250R』や『CB125R』も同スタイルで登場し、新しいCBのカタチとして様々な思いが込められていた。

丸目ヘッドライトがネオクラシック路線にも感じさせるが、エンジンはスーパースポーツである『CBR1000RR』がベースで、ストリートファイターらしい強さと速さも持っている。CBという名前を継承するために「普遍」と「先進」、その両方が与えられ、ディテールを見ると色々な思いが交錯して完成したのがわかる。2021年には細部を変更するマイナーチェンジが行われ、それが今回紹介するCB1000Rである。

市街地に佇むCB1000Rは、ストリートファイター系にはない落ち着きがある。自己主張は控えめだが、モダンでダイナミックな存在感を放ち、コンパクト&ショートなボディに極太のラジアルタイヤがフィットし、逞しさと繊細さが共存する。近年のハイパーネイキッド系は威圧感のある個性的な顔が多いが、丸目ライトは僕の世代にはやはり安心感がある。

◆誰もが使えるもっとも身近な電子制御
跨ってキーをオンにするとカラフルなメーターが目に飛び込んでくる。雨が降っていたのでモードは「RAIN」でスタート。走り出すと、エンジンを抱いて走っているような感じ。CBR1000RRエンジンの存在感が強く、そこからは「これぞCB!」という主張も感じる。低速から豊かなトルクを発揮し、スロットルを大きく開けなくても、スルスルと加速していく。

走り出した瞬間から使えるアップ&ダウン対応のシフターのタッチも良好。極低速域でも使えるのが良いし、こういったウエット路面では特にリヤタイヤの駆動が途切れないから安心。クラッチレバーは発進時と停止時、さらに小回りの時以外に操作する必要はなく、とても快適。これは距離を走った時の左手の疲労感にかなり差が出るはずだ。またバンク中だろうが構わすギヤチェンジできる感覚は、誰もが使えるもっとも身近な電子制御と言ってもいいだろう。

路面コンディションが良くなったきたので「STANDARD」モードも試す。エンジンレスポンスがシャープになり、スロットル操作で車体姿勢をつくり出せる感覚が強まる。タコメーターが中速域を超えてもトルクの落ち込みがなく、パワーが湧き出すような感覚が気持ち良い。CBR1000RRのエンジンをベースに中速に振った味付けが施されているのだが、スロットルを開けるとそれは生命力を発散しているような伸びやかな印象になり、ホンダの4気筒らしくどこまでも滑らかに回転を上げていく。余力があるのに、その力を誇示せずに宿しているような感覚は、まさにCBだと思った。

◆スチールフレームが生み出す優しい乗り味
ストリートファイターというとレースを戦うスーパースポーツがベースになっていることが多く、強度の高いアルミフレームのバイクも多い。しかし、CB1000Rのベースはスーパースポーツではない。エンジンはCBR1000RR譲りだが、フレームはスチール製。CB1000Rのために専用設計され、これが新しいCBの乗り味を生んでいる。

よく動くサスペンションと併せて、市街地の速度域でも扱いやすい。こういったバイクは市街地で頑固な一面を持っていたりすることも多いが、CB1000Rは優しくて、Uターンなどの小回りも得意だ。矢継ぎ早にシフトアップして、市街地でも6速を頻繁に使い、豊かなトルクと軽快なハンドリングを堪能する。

またタイヤに注目すると、ミシュラン製のパワー5もしなやかな乗り心地に貢献。タイヤ自身の路面追従性が高く、ドライ路面はもちろん、ウエット路面や冷えた路面でも安心のグリップを約束。190サイズの後輪を履いているとは思えないほど軽快感がある。

◆CBの未来はどうなる?
久しぶりに乗ったCB1000Rは洗練されていた。気負うことなくジーンズとスニーカーで街を散策することもできるし、スポーティにワインディングも楽しめる。ストリートファイターでもネオクラシックでもない、ネオスポーツカフェコンセプトのCB1000Rは、カスタマーの自由な発想でつくり出す、いちばん型にはまらないCBなのかもしれないと思った。

ただ気になるのはCBの未来だ。ホンダはCB1000Rで新しいネイキッド流れをつくりたかった。しかし、販売台数を見るとカワサキの『Z900RS』やヤマハの『XSR900』のような時代の潮流には乗れていない。それだけCBの名は重たいし、難しいのだろう。CB1000Rは、今後どのようにCBの名を牽引していくのだろうか。いや、CB自体がどのように進化していくのだろう? 多くの人の思いが複雑に交錯しているだけに、これはとても難しいテーマだ。

CBに乗るたびにこんな思いが頭の中でグルグルとする僕は、心配しすぎなのだろうかーー。

■5つ星評価
パワーソース:★★★
ハンドリング:★★★
扱いやすさ:★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★

小川勤|モーターサイクルジャーナリスト
1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 2006年式のCBR1000RRのエンジンをベースに低中速寄りにチューン。スポーツバイクのエンジンとは思えないほどフレキシブルな味付けとなっている《写真撮影 真弓悟史》 身長165cmでもフィットするコンパクトな作り。CB1300シリーズの巨体を征服する走りとは対極にあるCBだ《写真撮影 真弓悟史》 複雑な造形のスチール製のタンク。よく見ると溶接箇所が見えないシームレスな仕上げで、これもホンダの技術力の高さ。容量は16リットル《写真撮影 真弓悟史》 足着き性と快適性を両立したシート。シートレールはアルミダイキャスト。ナンバーがないため、コンパクトな見た目を実現。シート高は830mm《写真撮影 真弓悟史》 丸型ヘッドライトのリム部分をポジションランプとしてデザイン《写真撮影 真弓悟史》 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒。排気量は998ccで145psを10,500rpmで発揮。無機質な水冷エンジンを見せるデザインにするため、一部を切削してアレンジ《写真撮影 真弓悟史》 マフラーは1本のサイレンサーに2箇所出口のある独特のデザイン。これがCBらしいエキゾーストノートを奏でる《写真撮影 真弓悟史》 リヤサスはリンクを持たないカンチレバー式。アベレージが上がると路面追従性が劣る部分もあるけれど、公道なら快適な乗り心地を披露《写真撮影 真弓悟史》 キャリパーはトキコ製のラジアルマウント。ホイールはスポークの本数が多めのデザイン《写真撮影 真弓悟史》 スイングアームは片持ち。スイングアームから伸びるナンバーステーをホンダで初めて採用したのがこのCB1000Rだ《写真撮影 真弓悟史》 走行モードは、「SPORT」「STANDARD」「RAIN」の他、「USER」モードを用意。ライダーのキャリアはもちろん、路面や気温など様々なコンディションと相談して好みを探りたい。グリップヒーターも装備《写真撮影 真弓悟史》 各走行モードに合わせてパワー、トルクコントロール、エンジンブレーキなどの介入具合も変化。「USER」モードはこの辺りの制御をすべて自分の好みで作れる。バイクとスマートフォンを専用アプリを使ってBluetooth接続することも可能《写真撮影 真弓悟史》 走行モードは、「SPORT」「STANDARD」「RAIN」の他、「USER」モードを用意。ライダーのキャリアはもちろん、路面や気温など様々なコンディションと相談して好みを探りたい。グリップヒーターも装備《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ「CB1000R」《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ「CB1000R」《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ「CB1000R」《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ「CB1000R」《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ「CB1000R」《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R《写真撮影 真弓悟史》 ホンダ CB1000R と筆者(小川勤氏)《写真撮影 真弓悟史》