スバル ソルテラ《写真提供 スバル》

スバルがトヨタ自動車と共同開発した電気自動車『ソルテラ』を登場させる。

今回はまだ発売前のプロトタイプ車両に「群馬サイクルスポーツセンター(通称・群サイ)」の特設コースで試乗することができた。群馬サイクルスポーツセンターは群馬県みなかみ町に位置する自転車サイクリング用のコースだが、近年ワインディングロードを模したテストコースとして自動車愛好家などにも門戸を開き活用されており人気が高い。また試乗会は「雪上試乗会」と謳われ、冬の降雪時期に全面圧雪路となるこの群サイで、スバルらしい四輪駆動AWDの走行性能を試せるということで興味深く参加してみた。

『ソルテラ』は大地と太陽がキーワードの地球に優しい車
全面圧雪路となった群サイはラリー競技のスペシャルステージとして活用されることもあり、またスバルはラリー車の開発にもコースを用いるなど関わりが深い。雪で覆われた群サイのコースはまるで「モンテカルロラリー」のチュリニ峠スペシャルステージを彷彿とさせる様相を呈している。

用意されていたのはソルテラのAWDモデルである。兄弟車となるトヨタの『bZ4X』と同様にAWDとFFモデルがラインナップされるが、今回は雪上試乗ということでより走破性の高いAWDのみが用意されていたのだ。

ソルテラの意味はギリシャ語で「太陽(ソル)」と「大地(テラ)」を意味する。自然環境に配慮した地球に優しい車として電気自動車を位置づけ大地と太陽というキーワードをその象徴としているのだという。一方でフルラインアップAWDを謳うスバルらしくガソリンエンジン(ICE)AWDモデルで、これまで培ってきた走破性技術をソルテラにも盛り込んでいることをまずは示したいという狙いがあるようだ。

トヨタ『bZ4X』とほとんど差はない
早速車両に乗り込み走らせてみることにする。外観のデザインはトヨタの「bZ4X」とほぼ同じだが、ヘッドライト周りやリアコンビネーションランプ、またバンパーのデザインの一部分そして「EV」のオーナメントバッチなど細かな意匠の違いがある。ただAWDモデルとFFモデルではほとんど差がない。

スバル車はこれまで無骨で逞しいイメージのデザインが多くあったが、今回基本的なデッサンをトヨタが担当したということもあり、トヨタ車らしい上質なデザインセンスと電気自動車に相応しい先進性を感じさせるデザインとなった。

インテリアデザインも基本は「bZ4X」と同じであり、トップマウントメーターと呼ばれるハンドルの上から視認するメーターとダッシュボード中央に12.3インチ大型液晶モニターが配置されているなど実用性と視認性を両立させている。

スタート/ストップボタンを押しシステムを起動させると「READY」のマークが表示され走行可能となる。シフトセレクターはセンターコンソール中央に配置されたダイヤルボタン方式で、押しながら右に回すと「Dレンジ」、左に回すと「リバース」、真ん中が「ニュートラル」となっている。またダイヤルの上にあるPボタンを押すことで「パーキング」として停止操作を完了できる。

ソルテラAWDのみに設定されている「パワーモード」
まず1周の下見走行の後に自らのペースで走る。群サイのコースは降雪が多かったこともあり、コース両サイドにはほぼ1m以上ある雪壁で覆われている。ただ所々、陽の当たる部分などはアスファルトが露出していて路面変化がさまざまで難しいコンディションとなっている。また大小に富んだコーナーのRやアップダウンもあり、群サイのコースを攻めるのはドライ路面であったとしても非常に難しい。今回は一般道を想定しての走行ということでハイスピード領域にチャレンジすることは差し控え、主に一般走行上の実用面、実用領域での特性を特に重視してみた。

ドライブモードはデフォルトで「ノーマル」となっており、アクセルの踏み込みに対してスムーズなトルクピックアップと走行性能が得られている。センターコンソール中央左側のドライブモードセレクトボタンを操作すると、「エコモード(ECO)」と「パワーモード(POWER)」が選択できる。「エコモード」はアクセルレスポンスが穏やかになり電費の節約に貢献できるようチューニングされている。一方「パワーモード」はトヨタの「bZ4X」には設定されていないスバルのソルテラAWD専用のモードになるのだが、アクセルに対してトルクのピックアップがより敏感でシャープになり、スポーティかつ軽快に走らせることができるようになる。

メーカー公表値0-100km/hは7秒台程
このドライブモードで変更されるのはアクセルレスポンスのみで、電動パワーステアリングの制御やサスペンション設定が変わるようなことはない。ステアリングはラックアンドピニオンに電動モーターを付加した方式であり、リンクを介してダイレクト感の得られるものが採用されている。この圧雪路コースにおいてもステアリングインフォメーションが適度にあり、また操舵フィールも適度で扱いやすい。

ステアリングはスバルとしては従来にないほど小径の358mm直径となっていて少ない操舵角でしっかりと前輪にスリップアングルを与えることができる。小径ゆえに前方の視界が開け、またトップマウントメーターの視認性も向上するなどデザインと実用性の両立が可能となっているわけだ。

AWDゆえに圧雪低ミュー路であってもトラクション性能に優れ、発進も加速は極めて力強く優れている。トップマウントメーター内には前後四輪のトラクションのかかり具合を示すインジケーターが表示され駆動配分を視認することが可能である。発進時にはまずリア寄りに多めの駆動力がかかり、また加速旋回の途中からのアクセルオンでは前輪がより多くの配分を受けてライントレース性を高めるといったような制御になっている。またそのインジケーター上には前後のアクスル表示もあり、そこも時折ランプが点灯して制御の変化を示しているが、これはブレーキLSDを作動させて前後アクスルそれぞれに独立したデファレンシャルロック制御を行っていることを示すものだ。

雪道でアクセル全開をすることは危険を伴うが、直線部分でそれを行って試すとトラクションコントロール制御が細かに介入し直進性を保ったまま加速して行く。またデファレンシャルロックも頻繁にロック制御と解放を行っていることが見て取れる。これにより加速時の直進性が保たれつつ、AWDとして力強い加速性能を雪上でも引き出すことができている。

「パワーモード」を選択すれば、まるでドライ路面であるかの如く強力な加速を見せる。メーカー公表値によれば、0〜100km/h発進加速タイムは7秒台程であり、雪上においてもそれに近いタイムでの加速が可能であると感じられるほど力強かった。

スバルの「Sペダル」とは
センターコンソール右側の位置には「Sペダル」のボタンがある。それはアクセルペダルだけで加速減速を制御できるいわゆる「ワンペダル化」する為のスイッチである。トヨタはこれを「回生ブースト」と呼んでいるが、スバルは「Sペダル」として設定している。

アクセルを離せば最大0.15Gの減速Gが得られ0.1Gまで回生を続ける。最終的に車両が停止する部分はドライバーがフットブレーキを操作して止まる。スバルはすべて機械任せにするのではなく、あくまでドライバーが責任を持ってブレーキペダルを操作して止まるということを重要視しているという。

Sペダルは特にこの圧雪特設コースのような低ミューの路面コンディションで優れた特性を示す。特に減速時はフットブレーキに頼るとABSが介入し非常に制御が難しい。また車速の減速Gも弱く、操舵に対しての応答性も悪くなるのだが、Sペダルで減速させると回生制御の緻密な減速コントロールが可能となり、しかも四輪で緻密に制御されるのでステアリング操舵に自然な効きを引き出しながらコーナーのラインをトレースすることができるのだ。

このように電動化によって加速や減速旋回など車の操縦性を司る部分においての制御が緻密に行えることは今後の電動車の発展に大きな可能性を感じさせる部分であり、このような特設コースの厳しい環境下においても特にドライバーが特殊なテクニックを駆使しなくてもスムーズにライントレースでき走行できることを実証して見せてくれたのである。

独自の四輪駆動制御モード「Xモード」が備わる
また「Xモード」と呼ばれるスバルが開発した独自の四輪駆動制御モードも備わる。それは悪路を知り尽くしたスバルだから可能となるもので、「スノー/ダート」と「ディープスノー/マッド」という2つのモードから構成されている。ただこの機能が使えるのは時速40km/h以下であり、今回のテスト走行ではそれを試す速度域では走行しなかった。

Xモードを使用すると、トラクションコントロールが解除され、ホイールの駆動力によるスピンをある程度許容するようになる。ディープスノー/マッドではより深い領域でホイールスピンを許容し、雪や泥を弾き飛ばすように踏破する力を引き出してくれるわけだ。

また、ヒルディセントコントロールを応用した「グリップコントロール」というモードも備わる。これは3〜10km/hの微低速域でドライバーはアクセルもブレーキペダルも操作する事なく一定の速度で悪路をハンドル操作に集中しながら走破できるという優れた装備だ。

今回このグリップコントロールを使用してモーグルを試したが、前後輪が大きく浮き上がり駆動力を失うような場面でもブレーキLSDと車速コントロールが機能してドライバーはハンドル操作だけでそこをクリアすることができた。まだ制御の荒さは感じるがこうした機能を装備することは最低地上高210mmにこだわったというスバルならではの悪路走破性に対する姿勢を感じさせてくれる部分であると言える。

このようにソルテラはどこを走っていても排気ガスを一切出さない。それは環境にやさしい車でありながらも、従来のガソリンエンジンAWDと比べても全く遜色のない優れた走破性を授けられていることがわかった。まだ販売時期などは詳しくアナウンスされていないが、その登場が今から待ち遠しい。

中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★

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