マツダ MX-30 ロータリーEV《写真撮影 宮崎壮人》

『RX-8』の生産が2012年に終了して以来、実に11年ぶりにロータリー・エンジンというマツダ独自の心臓を搭載したモデルの新車販売が復活ということで話題となったのがここに紹介する1台。

2リッターガソリン4気筒エンジンにマイルドハイブリッド・システムをアドオンして搭載するバージョンとピュアEVバージョンの2種が販売されていたところに、追加というカタチでローンチされたのが『MX-30』の「ロータリーEV」と称されるモデルである。

◆「ロータリー復活!」と前のめりで期待した人には残念だが
ただし、エンジンが発生したパワーはそのまま駆動に用いられるのではなく、駆動力を発生させるのは常にモーター。そこに外部充電機能を備えたバッテリーを繋ぎ、エンジンは発電機の駆動に専念するというシリーズ方式のプラグインハイブリッド・システムを採用していることが大きな特徴。敢えて“EV”と強調することからも基本はバッテリーに蓄えられた電力を用いて走行し、エンジンは補助的発電に用いる“レンジエクステンダー”的なキャラクターを想定していると受け取ることが出来そうなメカニズムである。

実際、床下に置かれた容量17.8kWhのバッテリーからの電力で最高125kW(170ps)の出力と最大260Nmのトルクを発するモーターが前輪を駆動する結果に得られるEV航続距離は107kmという長さ。前出のようにモーター出力が大きいのでアクセルペダルをそれなりに深く踏み込んでもエンジンに火が入る機会は低く、せっかく(?)のロータリー・エンジンもユーザー次第では出る幕が限りなく少ないことになりそうな仕掛けでもある。

もっとも、単室容積が大きめのシングルローター・ユニットを発電用ゆえに“定点運転”に近い状況で用いるということもあって、エンジン稼働時に耳にとどくブーンという低い音はサウンドではなくノイズと解釈したくなるもの。「待望のロータリー復活!」と前のめりで期待をした人には残念だが、それはいわゆる“ロータリー・フィーリング”と呼びたくなるような情感を揺さぶるものではなく、むしろ「想像とは違う…」とガッカリしてしまう人を多く生み出すことになってしまいそうな印象だ。

◆走行レンジは900km!他のモデルでは叶えられない面白い選択肢になる
さらにネガティブな話題を挙げれば、“冷え型”ゆえに今ひとつ効率面に優れないロータリー・エンジンの特性はやはり覆せず、それが自動的に始動と停止を繰り返すハイブリッド燃費では残念なデータしか記録を出来ていない点もこのモデルの特徴と言えば特徴。

それでも、前出100km超のEV航続距離に加えて50リッター容量の燃料タンクを搭載したことで、WLTCモードで900km近くというピュアEVバージョンの3倍以上の走行レンジを実現させたのは、このモデルでの何よりの見どころと言えるポイント。

どんな使われ方にもマッチするというわけではない一方で、もしも使用パターンがピタリとはまるユーザーと出会うことが出来れば、これは他のモデルでは叶えられない面白い選択肢になると考えられるロータリー・エンジン搭載のMX-30なのである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
おすすめ度:★★★

河村康彦|モータージャーナリスト
1960年生まれ、工学院大学機械工学科を卒業後、自動車雑誌「モーターファン」編集部員を経て、1985年からフリーランス・ジャーナリストとして活動。

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