マツダ ロードスター Sスペシャルパッケージ《写真撮影 宮崎壮人》

“ユーノス”のブランド名を冠された初代『ロードスター』の登場からすでに35年。

発売から時間が経過しての売れ行き低下→コストを掛けられない→さらに売れ行きがダウン→人知れずフェードアウト…と、そんな悲しい末路を辿ったスポーツモデルも少なくない日本にあって、マツダのロードスターがこうした長い年月を生き抜き、現在では紛れもなく「日本の誇り」とも言える存在へと成長を遂げたのは、このメーカーがスポーツカー文化を理解し、自身が苦しい時代にあっても決してリファインの手を緩めることが無かったからに他ならないと尊敬の念を抱くしかない。

2024年1月発売の最新モデルも、まさにスポーツカーに対するマツダの取り組みを改めて目の当たりにさせてくれた1台。

◆スポーツカー・ファンの期待に応える改良
オーナーであればともかく、単なるクルマ好き程度では恐らくそれ以前のものとは判別のつかないわずかな見た目の変更を受けた新型が「大幅商品改良」となるきっかけとなったのは、日欧で販売を続けて行くには待ったナシのタイミングが迫った「サイバーセキュリティ規制」にあったと言う。

コネクテッドカー時代を迎え、最悪の場合走行機能をハッキングされて事故に繋がってしまう可能性を回避するためのこの規制への対応は、想像以上に複雑で多額のコストも要する模様。それゆえ、販売台数の少ないモデルの場合これを契機に生産を中止という例も実際に聞かれるようになっている中で、マツダは今回も限られたスポーツカー・ファン(と敢えて言う)の期待に応えてくれたのだ。

ということで、今回の走りの進化はそれに付随をした改良の手が加えられたことによるもの。具体的な手法としては「アシンメトリックLSD」やレーダークルーズコントロールの新設定、電動パワーステアリングのリファイン、国内に流通するハイオクガソリンの性状に最適化させたことによるエンジンパフォーマンスの進化などが挙げられている。

◆アシンメトリックLSDと新パワステが効いている
そんな新型に乗ってまず感じたのは、全般にわずかながらもトルク感が増したということ。なるほどこれには前述1.5リットル・ユニットに施されたエンジン・セッティングやアクセル開度線形のチューニングが効いたと推測出来る。さらに、ワインディングロードで走りのペースを高めていった際に狙ったライン上をフォローして行けるトレース性能が上がって感じられた点には、Sグレードを除くMT仕様に採用された特に減速しながらの旋回挙動の安定に効果的というアシンメトリックLSDや正確性を高めた新パワーステアリングなどの採用が相乗効果を発揮したと考えられる。

そうした中でちょっと残念に思うのは、今回もMT仕様にダウンシフト時のエンジン回転合わせ機能が設けられなかったこと。「そんな事は自身の腕で行うのがMT乗りの醍醐味のひとつ」という意味が込められ敢えての不採用かも知れないが、回転合わせ時のアクセル踏み込み量が大きいスポーツ走行時よりも、その必要量が少なくなる街乗りシーンでのショック軽減の為の操作の方が難しいもの。それでも要らないという向きにはキルスイッチを用意すれば良いだけなのだから、次回の改良時には是非採用をして欲しい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

河村康彦|モータージャーナリスト
1960年生まれ、工学院大学機械工学科を卒業後、自動車雑誌「モーターファン」編集部員を経て、1985年からフリーランス・ジャーナリストとして活動。

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