EVのメンテナンス、ガソリン車との違いは。写真は筆者の日産『サクラ』。《写真撮影 中尾真二》

いまの車はさまざまな部分が「メンテナンスフリー」となっている。EVも同様だろうか。部品点数が少なく複雑なエンジン・トランスミッションを持たないEVならなおさら、と考えるかもしれない。だが、日常の点検やメンテナンスが全く必要ないかというとそうでもない。EVならではのメンテナンスはやはり存在する。

本稿では、筆者所有の日産『サクラ』を例にするが、一般的なEVについても重複する部分も多い。メンテナンスの詳細は、各車の取り扱説明書を必ず読んで、必要ならディーラー整備士などに相談しながら各自の責任で行ってほしい。

◆昔は自分の車は自分で整備するのが常識だった
一般的なエンジン車やハイブリッド車でも、オイル交換、タイヤローテーション、プラグ点検、ブレーキフルードの交換。これらを自力でこなす人は少数派だろう。昔(1970〜80年代)は、クルマなんてものは走っていればどこかが調子悪くなるもので、オーナーのメンテナンスや簡単な修理・整備はできて当たり前だった。60年代は路上で車が「エンコする」なんて当たり前だったので、自力で応急措置くらいできるスキルは必須だった。

だが、日頃のメンテナンスをドライバー・オーナーに強制するような品質、性能の車はなくなっているのも事実だ。高性能化・電子化が進む車両においては、ユーザーによるメンテナンスや整備を排除して、ディーラーや専門家による定期チェック(法定点検や車検)で済ませるような設計にもなっている。

仮に異常を発見したとしても、最近の車は整備マニュアルと専用の工具や機器がないと対処できない。専門家でも部品交換しかできないようにもなっている。オイルやエアコンガスなど環境問題から勝手に処分できない素材もある。

筆者世代ではタイヤ交換くらいでディーラーやスタンドにはいかない。「ボンネットを開けたことさえないドライバー」は車オーナーとしてのスキルがない者を揶揄する言葉だったが、今の常識では、むしろ「ユーザーはボンネットをむやみにあけるな」は正解といっていいだろう。

◆日常点検の重要性と点検項目
この考え方はEVだろうがエンジン車だろうが同じだ。最近の車は、わからなければディーラーや整備工場など専門家にまかせるのが原則である。とはいえ教習所で教わる「始業点検」や日頃のチェックが全く必要ないとか、そんなことはまったくない。洗車を自分でしているだけでも、ちょっとした傷や異常を発見することがある。異常を最初に発見する(できる)のは、日々運用しているドライバーなのだ。

したがって、ユーザー側に求められる運転以外の業務=メンテナンスは依然として重要である。重要性はEV・エンジン車でも同じだが、見るべきポイントは異なる部分もある。どのような違いがあるか、まずはJAFが公開している日常点検ポイントをベースに考えてみたい。

JAFでは、道路交通法で定められた日常点検の8項目をベースに、以下の15項目をリストアップして点検、メンテナンスの参考としている。

1.ウインド・ウォッシャ液の量
2. ブレーキ液の量
3. バッテリー液の量
4. 冷却水の量
5. エンジンオイルの量
6. タイヤの空気圧
7. タイヤの亀裂、損傷および異状な摩耗
8. タイヤの溝の深さ
9. ランプ類の点灯、点滅およびレンズの汚れ、損傷
10. ブレーキ・ペダルの踏みしろおよびブレーキの利き
11. パーキング・ブレーキ・レバーの引きしろ
12. ウインド・ウォッシャの噴射状態
13. ワイパの拭き取りの状態
14. エンジンのかかり具合および異音
15. エンジンの低速および加速の状態

◆点検項目の意味と内容
1から5まではボンネットを開けての点検作業になり、6から9は車の外側をチェックする必要がある。タイヤの空気圧はゲージ(これも昔の車両には工具セットに必ず含まれていた)がなければ見た目や感触で判断するしかないが、車種によってはTPMSを搭載しており、コックピットから空気圧や異常をチェックすることができる。10から15までの項目はコックピットから確認できる。

EVは一般的に同クラスのエンジン車より出力・トルクともに高い傾向がある。発進は減速、コーナリングなどの過渡的な速度変化の特性が高い分、タイヤやサスペンションへの負担も大きいと考えられる。タイヤの減り、偏摩耗、亀裂などはエンジン車より注意したいポイントだ。国産EVはトルク制御(サクラではVDCと呼ばれている)のおかげであまり心配する必要はないが、輸入車、スポーツEV、あるいは雪道・悪路でトラクションコントロールをオフにした場合などは注意したい。

注目してほしいのは14と15だ。「エンジン」となっているがこれをモーターあるいは駆動システムと読み替えることができるはずだ。EVの場合、エンジンの始動は必要なく電源スイッチをオンにするだけだ。だが、CASE車両の常として、起動スイッチとともに基本的な警告診断処理が行われる。異常があればメーターパネルにワーニングランプまたはメッセージが現れる。それ以前、所有している車の起動時の動作、音などは自然に覚えるものだ。いつもと違う反応や音がしないかチェックするとよい。

余談だが、スポーツEVの一部にあえてエンジン音やアイドリングを再現する機能がある。好みの問題なので存在そのものは否定しないが、車両システムのフィードバック要素のひとつとして音もあるなら、安易な疑似音はそれを台無しにする。起動時のリレー、コンタクタ(電磁継電器)、各種アクチュエーター、(走行中の)インバーターの発振音は必要以上に妨げるべきではないと考える。

EVのパーキングブレーキはほぼ例外なく電動化されているので、引きしろの確認はしにくいがアクチュエーターの動きを音で確認することになるだろう。

パンタグラフジャッキは車載工具の基本。クロスレンチはあると便利《写真撮影 中尾真二》 昔の新車にはこのような工具セットが必ずついていた。プラグレンチが入っているのも普通《写真撮影 中尾真二》 筆者の日産『サクラ』《写真撮影 中尾真二》