Can-Am RYKER RALLY《写真撮影 中野英幸》

オープンエアタイプの3輪モビリティ(逆トライク)として親しまれているCan-Am(カンナム)の各モデル。そのうち今回はスポーツモデルである『RYKER RALLY(ライカーラリー)』(261万3600円)の2023年仕様に試乗した。

静岡県田方郡に位置する「バイカーズパラダイス南箱根」をベースに伊豆スカイラインに接続する県道20号線(熱海箱根峠線)の緩やかな山道を走らせた。

最初にお伝えしたいのは掲載している走行シーンの画像について。他の車両が入り込まない安全が確保されたエリアだったが、ご覧のように路面の登り/下り勾配がきつく、さらに急カーブも続く。

よって、ライダーである筆者はカーブの内側に大きく上半身を傾け走らせている。しかし、一般的な乗り方ではここまで上半身を傾けなくてもニーグリップ(両足で車体をしっかりと挟み込むこと)とハンドル操作さえ意識的に行えば、十分に快適に、楽しく乗りこなせる。今回の撮影時は特別な乗り方であることをご承知おき頂きたい。

◆バイクとオープンカーのいいとこ取り
では、もっとも気になるであろう乗り味はどうか。端的に言えば、自動二輪車と四輪オープンカーのいいとこ取りだ。味わえる爽快感は二輪車のそれだし、ほぼ転倒のリスクなく(厳密にはゼロではないが)安定した走りが楽しめるのはオープンカー譲り。

筆者は35年以上、自動2輪車に乗り続け、マイカーとしてマツダ「ロードスター」にも長らく乗っており、このCan-Am各モデルにも13年以上、ことあるごとに試乗しているが、何度乗っても、どこを走らせてもリラックスして乗り続けられる。やはり3輪で自立していることの安定感は心のゆとりにも繋がる。

試乗モデルしたRYKER RALLYは、ロータックス製の直列3気筒900ccエンジンを搭載し、トランスミッションにはクラッチ操作の要らないCVTを組み合わせた。最高出力は約83ps/8000回転、最大トルクは79.1Nm/6500回転でそれぞれ発揮する。

車両重量は燃料や油脂類のない状態で303kgと重量級。でも取り回しはしやすく、車体後半がスリムであることから身長170cm、体重67kgの筆者でも、跨がった状態で両足がべったりと接地する。シート座面は広く立体的で加速Gにも耐えやすい形状だが、乗降性は抜群に良いしお尻のすわりもいい。ハンドル位置も高めならが遠すぎず、リラックスしたライディングポジションがとれた。

◆独特の操作、300kgの車体に重宝するバックギヤ
早速試乗! セキュリティ用のキーを車体左のカプラーに差し込み、同じく車体左にあるパーキングブレーキの作動を左手で確認する。次に、右足でブレーキペダルを踏み込み、同時に右手のスロットルを閉じる方向(車体の前方向)にしっかり回し保持してから、親指でエンジンスタートボタンを押すと、エンジンが目覚める。

面倒に思える始動手順だが、実際に何度か体験してみるとよく考えられたフェールセーフ機能だと感心しきり。気軽に乗りこなせてしまうイメージがあるし実際、乗りこなせるけれど、それだけに始動直後の誤発進や誤操作を可能な限り抑制する必要がある。でもこの手法なら毎回、意識して操作手順が踏めるから正しく発進準備ができる。

エンジン始動後、パーキングブレーキを解除。続いて左足を少し前に投げ出すと前進/後退を行うチェンジレバーに触れる。レバーを足裏で前に押し出すと前進ギヤに入り、足の指先で手前に引くと後退ギヤに入る。そう、バックギヤがあるのだ。ちなみにチェンジレバーにはニュートラル位置はない。

RYKER RALLYはご覧の通りコンパクトなシルエットだが約300kgの重量だ。当然、押し引きには力がいる。そのため、狭い場所での転回ではこのバッグギヤが重宝する。

なお、筆者の体躯でチェンジレバーを左足で操作するには、ライディングポジションから左足をグッと前に出す必要があるが、この位置関係なので、たとえば走行中にチェンジレバーに足が触れることもない。エンジン始動手順といい、こうした安全思想は大切だ。

◆マイルドな乗り心地になった2023年モデル
前進ギヤを選びスロットルをゆっくり捻る。ヒュルヒュルという3気筒特有のエンジン音と共に、AKRAPOVIC(標準装備!)の専用マフラーからはほどよく消音された重低音が奏でられ、スムースに走りだす。駐車場や狭い場所では右足でブレーキペダルを緩くあてがいながらスロットルを徐々に開けると微速域での速度調整がやりやすかった。

まずは30km/h程度のゆったりとした速度で走らせる。じつは2023年モデルの試乗前に、2022年モデルの『RYKER SPORT』の試乗を済ませていたのだが、同じ道を2023年のRYKER RALLYで走らせるとずいぶんと乗り心地がマイルドになっている。

箱根の山道は所々、路面が荒れていて割と大きな凹凸もある。2022年のRYKER SPORTで軽い突き上げやハンドルからのザラつきを感じていた場面でも、2023年のRYKER RALLYは路面を舗装し直したかのように滑らかに走るのだ。

あまりにも違いが大きかったので試乗後、Can-Amシリーズの正規輸入販売を行うBRPジャパンの担当者に話を伺ってみた。すると「お客さまの声を受け、イヤーモデルごと各所に細かな仕様変更を施しています」という。

その乗り心地を決める前後サスペンションは非常に凝った造りだ。2輪ある前輪はダブルウイッシュボーン方式でホイールトラベルは185mm、後輪はマルチリンク方式のモノスイングアームで同179mm。最低地上高は122mmを確保する。走行中の前輪サスペンションは小さな凹凸にもしっかり反応し左右輪、それぞれが独立してしっかりといなす。タイヤサイズは前145/60R16 66Tが2本、後205/55R15 81T。

◆リーンではなくハンドルで曲がる!ブレーキは強力
続いて50km/h程度まで速度をあげてみる。すると直進安定性が高いことが確認できた。車体全長2532mmの67%にあたる1709mmのホイールベースと、1522mmの車体幅(左右の前輪幅がほぼこの値)、さらに低重心が組み合わさり安定感は抜群だ。

緩い曲率のカーブでは、しっかりとニーグリップをしてハンドルを行きたい方向へとじんわり切り込み、そこにスロットル操作をじんわり同調させるとグイグイと曲がっていく。二輪車のようなリーン走行(車体を傾けて走ること)はできない構造なのでハンドルで曲がる。これは逆トライクの特徴のひとつだが、会得してしまえばフルロックUターンでも難なく行える。

ブレーキも強力だ。右足で操作するブレーキペダルのみで前2輪(ディスク径270mmの2ピストン式フローティングキャリパー)、後1輪(同220mmの1ピストン式フローティングキャリパー)の3輪に制動力が同時に掛かる。この操作感覚は四輪車に近い。どの踏み方をしても前輪だけ、もしくは後輪だけが強めに掛かることはなく、グッと下に沈み込むイメージで制動する。

それだけに、前後輪が独立したブレーキ系統の二輪車では難しいコーナリング時のブレーキングも容易だ。各車輪にはABSが装着され、さらに車両挙動安定装置であるスタビリディコントロールシステムを標準で装備する。その制御は緻密で、車輪がロックしそうになったり、不安定な姿勢になったりする予兆段階から緩やかに制御が介入する。

他車が入らない安全な場所が確保できたので30km/hからの急制動を試してみた。計測器での値ではなく体感値ながら、1G近い減速Gを実感。やはりここでも車体は前のめりにならず、前後サスのジオメトリーによってグッと下に沈み込む特性が確認できた。

パワー的にも十分(4つのドライブモードあり)で、車体は路面を問わず安定性が高い。駆動輪である後輪の空転を抑えるトラクションコントロールや、坂道発進時に一時的にブレーキ圧を保持するヒルホールドコントロールなど運転支援システムも充実する。

◆クルマの免許で乗れるオープンエアモビリティの楽しみ方
ライダーとして意識すべきは、なによりニーグリップ。そして両腕&腹筋&背筋での支持、加えて体幹での対応だ。また、ライダーとは言いながらトライクは三輪の自動車に分類され、AT限定を含む四輪車の免許だけで運転ができる。

車両区分では普通車扱いなのでヘルメットの装着義務もない。が、ヘルメットは絶対に被るべき。たとえ小石であっても走行中、顔などにヒットすると大変なことになるからだ。理想をいえば二輪車と同じく胸部プロテクターも装着した上でオープンエアモビリティを楽しみたい。

Can-Amでは引き続き、「Can-Am On-Road」として逆トライクモデルの販売を拡充しつつ、2輪の電動バイクの販売も計画しているという。1973年に最初の二輪車を手掛けてきたCan-Amは、2024年に電動パワーユニットで新しい二輪車を送り出す。現時点、日本市場への導入は未定とのことだがこちらも楽しみだ。

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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