ホンダ シビックタイプR 新型《写真撮影 雪岡直樹》

ホンダ『シビックタイプR』をオートポリスで走らせる機会を得た。オートポリスは九州で唯一の本格的サーキット。1991年には当時のFIA選手権SWCの最終戦が開催されたコースだ。この時、若きミハエル・シューマッハーはメルセデスベンツのワークスドライバーとして勝利しチャンピオンを獲得している。実は筆者もこのレースにユーロレーシング(オランダ)からF1のエンジンを搭載するスパイスDFRで、その後キャデラックのワークスドライバーとなったウェイン・テーラーと組んで出場している。

オートポリスはあの頃とコースレイアウトは何も変わっていない。その後コース路面の敷き直しがあったと思うが、それからでもかなりの時間が経過しており、鈴鹿や富士などとは比べ物にならないほどに路面は悪い。しかも平均速度が高く、シビックタイプRにとって試練のサーキットであることは容易に想像できた。

◆高回転高出力ターボでも低速を犠牲にせず
サーキットで全開走行するのだからエンジンパワーが気になるところ。シビックタイプR専用の2.0リットル直4 VTECターボエンジンは先代よりパワーアップしていて330ps/420Nmのハイパワー。低慣性化した新開発のターボチャージャーやECU制御など細部の緻密化によって先代よりさらにパワーアップしている(+10ps/20Nm)。そのため発生する熱対策としてエンジンフード上にベントを設けてここから上方に冷却エアを抜く方式をとっている。

アクセル全開で引っ張ると約7000rpmでエンジン回転リミッターが作動する。このとき同時にピー! という警告音が鳴りシフトアップのタイミングを教えてくれる。老眼が進んで計器盤ディスプレーが視認しにくい中高年ドライバーにも優しい装備だ。

ターボパワーはエンジン回転の上昇とともに駆け上がるように爆発するもの。このエンジンも7000rpmを超えてでもまだまだ伸びしろがあるかのように高回転型だ。しかし2000rpmレベルでもしっかりトルクが出ていることにも驚かされる。コース後半にある非常にテクニカルなS字コーナーの最後に右逆コの字型の上りコーナー。ここでは2速ギヤにシフトダウンしようか躊躇するほど速度が落ち込むのだが、そこを3速ギヤで3000rpm前後の回転域からストレスなく加速させる。高回転高出力ターボだからといって低速を犠牲にしていない。

◆相対的にコーナリング性能は向上
メインストレートでは5速ギヤで約220km/hを記録した。そこから第1コーナーで3速ギヤ100km/hレベルまで減速。多少の無効ストロークはあるもののブレーキングの減速レベルは高く、ホイールを先代の20インチ(BBS製)から19インチにダウンしているが、ストッピングパワーは十分にある。新設計のアルミホイールにはリバースリムというイン側の歪を抑えてタイヤの接地圧を上げる新しい技術が盛り込まれている。ホイールはインチダウンしているがフロントブレーキはブレンボ製モノブロックアルミ対抗ピストン4ポッド+350mmの大径ツーピースディスクを採用している。

コーナリング性能はフロントセクションのグリップが上がっていて、100km/hレベル以下のコーナー飛び込みでは(アクセルOFFの場合)若干リヤが流れる(滑る)。ただしアジャイルアシスト(ブレーキベクタリング)も作用しているようでスピンを誘発するほどのものではなかった。相対的にコーナリング性能は上がっている。

気になるのはこの荒れた路面のサーキットでは跳ねること。今回からできるようになったINDIVIDUALのドライブモードでダンパーだけコンフォートをチョイスすれば若干解消されるが、このモードだとダンパーの伸び側の減衰が弱くなり、イン側サスの伸び上りが速くなってしまう。このためコーナーターンイン初期のイン側タイヤのグリップを十分に使えずアンダーステアーを誘発しやすい。なのでドライブモードはRを設定して跳ねるのを我慢。この方がシビックタイプRの本来のドライブフィールが楽しめる。

個人的にはシートが大きすぎ合わず操作に苦労した。小柄な人はシートを交換することをおすすめする。いずれにしても500万円を切る価格でここまで仕上げたのはスバラシイ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★☆
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

松田秀士|レーシングドライバー/モータージャーナリスト/僧侶
成仏する直前まで元気でクルマを運転できる自分でいたい。「お浄土までぶっ飛ばせ!」をモットーに、スローエイジングという独自の健康法を実践する。これまでにINDY500に4度出場し、ルマンを含む世界4大24時間レース全てに出場経験を持つ。メカニズムにも強く、レースカーのセットアップや一般車の解析などを得意とする。専門誌等への寄稿文は分かりやすさと臨場感を伝えることを心がけている。

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