日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》

『スカイライン』をこよなく愛する人に向けた、初めて「GT」を名乗ったS54への敬意と、NISMOデザインの融合を図るとともに、GTとしてのハンドリングの懐の深さと、高速動力性能を追求したという、『スカイラインNISMO』が1000台限定で9月上旬、さらに『スカイラインNISMO Limited』が100台限定で2024年夏に発売予定であることが明らかにされた。そんな特別なスカイラインを、横須賀の日産グランドライブでいちはやく乗ることができた。

◆「400R」をベースに高速動力性能を追求
コンセプトである“より速く、より気持ち良く、安心して”を実現するため、すでに定評のある『スカイライン400R』をベースに、内容的には多岐にわたり手が加えられている。

ざっと挙げると、まずエンジンは最高出力が405psから420ps、最大トルクが475Nmから550Nmに引き上げられており、ATも専用のシフトスケジュールに変更されている。

足まわりは、専用開発のハイグリップタイヤにワイドリム化した軽量高剛性ホイールを組み合わされるとともに、サスペンションやスタビライザーに専用チューニングが施されている。ブレーキパッドは耐フェード性を高めた専用品だ。

さらに、前後ウインドシールドの接着剤に高剛性接着剤を用いて剛性向上を図ったほか、エクステリアでは空力性能と冷却性能を向上させるデザインの前後バンパーを装着するなどしている。

◆まるで排気量アップ!? 表情豊かなエンジンに
ノーマルの400Rと乗り比べると、走り始めて即座にエンジンフィールの違いを直感する。VR30DETTは、もともとレスポンスのよさと吹け上がりの気持ちよさが身上のところ、スカイラインNISMOではスペックのとおりで、あたかも排気量を大きくしたかのように、全体的にトルクが厚くなっていることが体感できる。

レスポンスのよさをそのままに、3000rpm以上ならどこからでもついてくる感覚が増して、中間加速ではより力強い盛り上がり感があり、トップエンドにかけて爽快に吹け上がる、とても表情豊かなエンジンに仕上がっている。持ち前の男らしいエキゾーストサウンドとともに、いかにも高性能なクルマに乗っているという醍醐味を味わうことができる。

SPORTおよびSPORT+モードを選択すると、よりダイレクト感が増し、高回転を維持するスポーツ走行に適した変速スケジュールとなる。ブレーキも限界性能までは試していないが、キャパシティが確保されコントロールしやすいことが印象的だった。

フットワークもこれまた妙味で感心した。向上したパワーとトルクをリア2輪で受け止めるために、タイヤサイズをどうするかに苦労したそうだが、結果として導き出されたリアの20mmワイド化により絶妙な案配にまとまっている。

◆モトがイマイチでもここまで洗練することができるのか
せっかくテストコースなので攻めた走り方も試してみたところ、実際にはそれなりにフロントヘビーのはずながら重々しい感覚もなく、ターンインでは応答遅れなくシャープに回頭し、立ち上がりにかけてアクセルを踏み込むと、フロントを軸にリアが微妙にアウト側にスライドして、小さな舵角を維持したまま切り増したかのように曲がっていく。そのさじ加減が絶妙で、リアが巻き込んで危なっかしくなるようなこともない。後ろ脚で地面を蹴って前へ前へと進んでいく感覚で、アンダーステアも出にくく、行きたい方向に自由自在に行けるかのような、実にコーナリングを楽しめる仕上がりとなっている。

スカイライン独自のDAS(ダイレクトアダプティブステアリング)の進化もあって、より走りの一体感が高まっていることも、スラロームを試すとよくわかる。トラクションコントロールのオンオフで挙動の差が小さいのは、それだけ基本性能が高まっているからだろう。

それだけ走りがよいと、さぞかし足まわりも締め上げられているのかと思いきや、そんなこともない。挙動を掴みやすくするためか、コーナリングでもそれほどロールが抑え込まれている印象もなければ、乗り心地についても、このコースにはところどころにあえて荒れた箇所が設けられているのだが、そこを通過したときの印象も悪くなかった。

段差や突起を乗り越えてもガツンと来ず、衝撃音も小さい。それでいて巡行時のフラット感は高まっている。そのあたりは一連のシャシーチューニングはもちろん、400Rでは標準装備のランフラットタイヤをあえて採用しなかったことや、バネ下の軽量化や空力性能の向上などが効いているに違いない。

正直な話、当初はV37型スカイラインのシャシーはストローク感がなく、入力が直接的に伝わってくるなど、あまり素性がよろしくないように感じていた。電子制御ダンパーを初めて搭載した400Rをドライブしたときに、モトがイマイチでもここまでよくできるのかと感心したものだが、今回スカイラインNISMOをドライブして、さらにここまで洗練させることができるのには感心せずにいられなかった。

◆まさに「スカイラインGTの集大成」
試乗車にはオプションのレカロシート装着車も用意されていた。見た目としてはそれほどサポートが張り出していないのに、座ると心地よい包まれ感があり、すぐにしっくりときて、強い横Gのかかるような走り方しても身体がしっかり支えられる感覚があるのは、やはりレカロならではの独特のものがある。

これ以外に、CPU、スポーツチタンマフラー、機械式LSD、車高調整式サスペンションキット、鍛造軽量アルミホイールなど、スカイラインNISMO用のNISMOパーツも開発中で、それぞれ秋頃に発売予定という。

それにしても、V37型スカイラインの発売からまもなく10年というタイミングで、ここへきてこんな特別な隠しダマを用意していたとは驚きだ。目新しさこそないものの、往年の味わいを最新のテクノロジーを駆使して突き詰めると、こんなにもすばらしいクルマになることに感銘を受けた。

スカイラインGTの集大成となるこのクルマの情報を耳にして色めきだった人も少なくないことだろうが、筆者もいちスカイラインファンとして大いに興味を持った次第である。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 オプションのNISMO専用チューニング RECARO製スポ ーツシート《写真撮影 中野英幸》 オプションのNISMO専用チューニング RECARO製スポ ーツシート《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMO《写真撮影 中野英幸》 開発中の専用NISMOパーツ《写真撮影 中野英幸》 開発中の専用NISMOパーツ《写真撮影 中野英幸》 開発中の専用NISMOパーツ《写真撮影 中野英幸》 開発中の専用NISMOパーツ《写真撮影 中野英幸》 開発中の専用NISMOパーツ《写真撮影 中野英幸》 開発中の専用NISMOパーツ《写真撮影 中野英幸》 日産 スカイライン NISMOと岡本幸一郎氏《写真撮影 中野英幸》