アカウミガメ放流の様子 (c) 名古屋港水族館《写真提供 商船三井》

海運会社の商船三井は、名古屋港水族館が行なうアカウミガメの回遊経路調査に、同社の自動車運搬船「GALAXY ACE」(ギャラクシーエース)で協力した。6月27日に名古屋港金城ふ頭でアカウミガメ25頭が積み込まれ、現地時間7月11日、日本時間10日に、米サンフランシスコ沖西方2000kmの太平洋上で水族館関係者により放流された。

調査は通称「STRETCH」Sea Turtle Research Experiment on the Thermal Corridor Hypothesis(=熱回廊仮説におけるウミガメの調査実験)と呼ばれ、名古屋港水族館が国内外の研究機関と共同で実施する。

◆アカウミガメの回遊経路を探れ
アカウミガメに送信機を取り付け、位置情報から回遊経路を探ることで、絶滅の危機にあるアカウミガメの生態を解明し、保護活動につなげる。

調査では、北太平洋中部の東端にいるアカウミガメが、海面が暖かくなるエルニーニョの年にはカリフォルニア沖に到達する、という太平洋の熱回廊仮説を検証する。

太平洋の東には生物学者のチャールズ・ダーウィンが提唱した「生物地理的障壁」が存在する。通常は、幼生から大型の遊泳種に至るまで、海洋生物はこの地域を超えて生息地域を広げられない。アカウミガメは世界中の温帯、熱帯域に分布していて、北太平洋における産卵場は黒潮の影響のある日本沿岸域にほぼ限られている。そして日本の海岸で孵化したアカウミガメは、北太平洋中部まで移動することが分かっている。

◆生物地理的障壁を越えるアカウミガメ
ところがエルニーニョの年には、アカウミガメが太平洋を渡ってカリフォルニア半島沖まで回遊することが、すでに知られている。アカウミガメが生物地理的障壁を越えて、北太平洋中部からメキシコのバハカルフォルニア沿岸まで移動するメカニズム、つまり北太平洋中部とバハカルフォルニア沿岸とをつなぐ「暖かい海水の道=熱回廊」が断続的に現れるのだ。しかし、いつ、どのようにして、どのような経路をたどって回遊するかは不明だ。

アカウミガメのこの回遊経路を「熱回廊仮説」として提唱し、アカウミガメを放流して実際に追跡する。調査期間は2023年7月から5年間で、毎年25頭を放流する予定だ。行跡と海洋環境のデータを分析することで、回遊生態が解明され、保護活動に貢献することが期待される。放流したアカウミガメの位置情報はSTRETCHの公式サイトで見ることができる。放流されるアカウミガメは、全頭の年齢が約2歳で、甲長は30cmから40cm、体重は約8kgとサイズが比較的大きく、ふ化直後の子ガメと異なり、外敵に襲われる可能性は低いとされる。

国際的に、ネイチャーポジティブ(自然再興。生物多様性の損失を止め、自然を回復軌道に乗せること)に向けて機運が高まっている。グローバルネットワークを有する海運会社である商船三井はこの取り組みを始め、環境科学を支援する。さらに、事業による海洋環境・生態系への影響を認識し、海洋環境および生物多様性の保全に努める、とする。

アカウミガメ放流の様子 (c) 名古屋港水族館《写真提供 商船三井》 商船三井ギャラクシーエース《写真提供 商船三井》 名古屋港水族館《写真提供 写真AC》