アルピナ D5 S《写真撮影 中村孝仁》

個人的な話で恐縮だが、かつてアルピナの本拠地を訪れたことがある。記憶が定かではないが1980年台の初頭だったと思う。

帰りにワインを買って帰ったので1979年以降であることは確かだ。正直言えば当時のアルピナはまだまだチューナーに毛の生えた程度の弱小ブランド。83年に自動車メーカーとしての認証を得ていたから、ちょうどこの頃だったように記憶する。場所もミュンヘンから南にだいぶ走ったブッフローエという小さな町。あれから40年以上経った今も本拠の場所は変わらない。そしてアルピナは今や世界的にゆるぎないブランド価値を持つ高性能と豪華さを両立したモデルを世に送り出すメーカーに成長している。

BMW 5シリーズベースのディーゼル+MHEV
さて、今回本当に久しぶりに試乗したのは『D5 S』というモデル。アルピナのモデル名は容易に想像がつくネーミングとされている。まずエンジンはBもしくはDの頭文字で始まる。Bはベンジン(ドイツ語でガソリンを意味する)。そしてDは言うまでもなくディーゼルだ。その後ろにBMWでおなじみのモデルシリーズ番号。5の場合は5シリーズを示す。簡単に言えばこれがすべて。

末尾に“S”が付くのはディーゼルを搭載した『3シリーズ』と『5シリーズ』のみで、この両車はいずれも48Vのスタータージェネレーターを備えたマイルドハイブリッド仕様となっているのが特徴。つまり、今回試乗したモデルは5シリーズセダンをベースにアルピナオリジナルのチューニングを加えたマイルドハイブリッド仕様のディーゼルということになる。

実はアルピナのディーゼルに試乗するのはこれが初めてのことだ。高性能で鳴らすアルピナがディーゼル?という半信半疑の声はだいぶ以前に聞いたことがあるが、今ではすっかりそれも定着している。そしてその理由も今回試乗してみて改めて理解した。

ディーゼルという域を超えた獰猛なサウンド
性能的なお話をすると、昔のアルピナ(かつて私が試乗したことのあるアルピナという意味)はどちらかと言えば高性能を前面に押し出した印象の強いモデルが多かった。確かにレースで培った技術を訴求した方がわかり易い。しかし今は完全にその高性能と優雅さといっても過言ではない快適さ、贅沢さ、そして何よりも心地良さが見事にバランスしている。

搭載しているエンジンはディーゼルなのだが、それを感じさせるところはほぼ皆無である。48Vマイルドハイブリッドの恩恵で、走り始めが至ってスムーズだし、郊外の流れに乗った走行ではエンジン回転も滅多なことで2000rpmに届くことはなく、静粛性は極めて高い。少なくとも前述した領域では無類に静かで、この点は高性能車というより高級車の顔が支配的だ。

高速に乗って巡航速度に達するまでの加速感は、ただ豪快の一言。その際に発する直6ディーゼルのサウンドも、もはやディーゼルという域を超えて少し籠ったやや獰猛なイメージのサウンドを残して走る。これをディーゼルだと言い当てられる人が果たしてどれだけいるかと思う。

抜群の乗り心地こそアルピナの本領
ワインディングも試してみた。少し条件が悪く狭い道路だったので印象は限定的だが、比較的大柄な図体の割にはシャープなハンドリングを見せるところはBMWの素性の良さに負うところも大きいが、実はここからがアルピナの本領発揮とでも言おうか、とにかくそんな状況ですら、抜群に乗り心地が良い。通常のクルマなら明確に突き上げを食らうような段差もまるでなかったかのようにスムーズにこなす。

言っておくがタイヤはフロントに255/35R20、リアに295/30R20の超扁平ピレリPゼロを履いているのだ。しかもこのタイヤ、サイドウォール面に描かれたALP(アルピナの意味)の文字が示すように、いわゆる専用開発のもの。最近はこの手の専用開発が多いが、そのおかげもあってか、とにかく抜群の乗り心地とシャープなハンドリングを実現してくれている。

ちなみに試乗車は4WDであるがそれを意識させることは皆無で、ありがちなフリクションも全く無縁であった。

1378万円も十分納得の仕上がり
そしてインテリアに込められたアルピナクォリティーはまさに優雅さと快適さ、それに心地良さの極致である。アルミナエンブレムをインレイした美しいウッドパネルに始まり、素晴らしいシート。アルピナは自社内に本革のなめしまでを行うワークショップを持っていて、そこでは南ドイツ産の厳選された牛革を用いたラヴァリナレザーというアルピナ独自の本革を仕上げることができる。オプション設定だが、そうした技術的な裏付けはこの種の少量高級車には欠かせない技術である。

残念ながら試乗車はBMWと同じダコタレザーを用いていたが、それでもアルピナのエンブレムを入れ込んでいるあたりは拘りか。というわけでラヴァリナレザーの感触を試してみたいところだった。

良いものを使えば価格はそれなり…これ常識であるが車両本体価格1378万円は十分納得の価格に映ってしまった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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