ホンダ ジェイド ハイブリッドRS《撮影 井元康一郎》

ホンダのCセグメントステーションワゴン『ジェイド』が2018年に改良を受けた。デビュー当初は2+2+2の3列6人乗りモデルのみだったのだが、この改良で2+3の5人乗りステーションワゴン仕様が選べるようになった。その改良型ジェイドを450km程度走らせる機会があったので、インプレッションをお届けする。

テストドライブしたのは新たに投入された5人乗り仕様で、グレードは走り重視の「ハイブリッドRS」。ドライブルートは東京を起点とした富士五湖、伊豆界隈で、道路比率は市街路3、郊外路3、高速1、山岳路3と、普段に比べて山岳路の割合が格段に高かった。全区間1名乗車、エアコンAUTO。

まず、改良型ジェイドハイブリッドRSの長所と短所を5つずつ列記してみる。

■長所
1. 前席から後席座面までフルフラット化が可能で意外や意外に車中泊向き。
2. しかめっ面のような前期型に比べて端正なイメージに変貌したフロントフェイス。
3. 7速DCTハイブリッドに一時失われていた切れ味が戻ってきた。
4. パドルシフトが装備されワインディングでのドライビングが爽快に。
5. 視界が良好で景色を眺めながらのドライブが楽しい。

■短所
1. シャシーチューニングが変わり、前期型RSが持っていた素晴らしいフィールが消えた。
2. フルフラット機能を実現させるためか前席の座面があまりに短い。
3. これもフルフラットとのバーターだが荷室が狭い。深さはいいが奥行きが欲しい。
4. 前期型のハイブリッドに比べて好燃費を出しにくくなった。
5. ヘッドランプが暗く、照射範囲も狭い。

ジェイド2列5人乗りは、従来の3列6人乗りに比べると使い勝手は一般的なCセグメントワゴンに近い。が、パッケージングは独特。荷室は狭く、キャビンがだだっ広いという、居住区優先型のワゴンだった。そして「RS」バッジが付くだけあって結構速い。

箱根から伊豆スカイラインに向かう荒れた舗装路でもアンジュレーション(路面のうねり)に足を取られることもなく、スムーズにコーナーを駆け抜けることができた。それでいて乗り心地も悪いわけではない。約450kmのショートトリップであったため、行楽やロングドライブの使い心地を体感するには至らなかったが、半径300km、1トリップ1000kmくらいまでの少人数旅行用途であれば十分に使い倒せるのではないかと思われた。

◆前期型とは性格が変わった操舵フィール


では、具体的なレビューに入っていこう。まずはシャシー。ジェイドRSは旧世代プラットフォームで作られているが、ボディ、サスペンションとも出来は悪くない。ボディシェルはワゴンボディとしては強固な部類に入る。とりわけ良好に感じられたのは車体前半分の設計。高めのGがかかったコーナリングにおける前左右輪間のねじれ感の少なさはちょっとしたもので、ハンドリングの正確さを生むのに一役買っていた。

タイヤはダンロップ「SP SPORT MAXX 050」。銘柄は前期型から1サイズ上がり、225/45R18となった。空車重量は1450kgと決して軽いほうではないが、これだけのタイヤ幅があればコーナリングフォースの受け止めは余裕というもの。前ストラット、後ダブルウィッシュボーンの4輪独立懸架サスペンションの働きの良さとあいまって、ワインディングでもかなり速い。攻め攻めで走ったわけではないが、爽快に駆け抜けるくらいのペースならウェット路も含め、変な動きが出る気配はなかった。

惜しまれるのは、前期型RSが持っていたルノースポールのような操縦フィールが消えてしまったことだ。前期型はステアリングの舵角とクルマのロール角、体に感じるGの3要素が常に比例するような感触で、ステアリング操作でGを積極コントールするような走りができるという、国産Cセグメントでは稀有なモデルだった。その一点に絞れば現行『シビックハッチバック』もしのいでいた。現行RSはそれがない。速くはあるし、路面変化にも非常に強いが、あくまで普通の良さである。

◆「i-DCD」ハイブリッドが消えゆくのは惜しい


高出力タイプの1.5リットル直4DOHCエンジンと電気モーターを仕込んだDCT(デュアルクラッチ式自動変速機)を組み合わせたハイブリッドパワートレイン「i-DCD」は、フィールとしては上々であった。

DCTはリコールを連発した前期型とギア比が異なる。その改良型DCTを装備した『フリードハイブリッド』および後期型『フィットハイブリッド』を長距離試乗したときは、変な挙動は見せなくなったものの、前期型の持っていたウルトラレスポンシブな切れ味が失われて少なからずがっかりしたものだった。が、ジェイドRSではスパッ、スパッと変速が気持ちよく決まる初期型のフィールに近いものになっていた。ちなみに低出力型ミラーサイクルエンジンとの組み合わせの『グレイスハイブリッド』も同様に気持ち良さが戻っていたので、改良後にさらに制御が煮詰められたのかもしれない。

ホンダは今後、i-DCDについてはフェードアウトさせ、2モーター式の「i-MMD」に一本化するという方針を打ち出している。燃費の伸びしろの大きさという点ではその選択もやむなしであろうが、i-DCDの独特の気持ちよさと速さは、リコールになるような変な動きさえしなければそれはそれで魅力的なものだ。それが消えていくのは少し寂しくもある。

燃費は1回のみ計測。区間距離は359.3kmで給油量は20.88リットル、実測値は17.2km/リットルであった。数字的には悪く見えるが、ジェイドRSの名誉のために付記しておくと、計測区間のうち奥多摩から丹沢〜富士〜箱根〜伊豆と、きついアップダウンを伴う山岳路が5割近くを占めたのが燃費を落とした一因。もともとそれほど燃費値の良いクルマではないのだが、平地を普通に走ればもちろんもっと伸びる。

◆居住区がフルフラットになるという個性


室内のユーティリティは論評の冒頭で述べたように独特。荷室はCセグメントワゴンとしては最も狭い部類に属し、シビックハッチバックとあまり変わらないくらいだが、その見返りに乗員の居住区のほうは前後長がたっぷり取られ、とくにリアシートの足元空間はクラス平均を大幅に上回る広さ。6人乗りモデルの2列目を後方にスライドさせたときほどではないが、足を組む程度のことは余裕であった。前席はハイブリッドシステムのバッテリーパックを内装したセンターコンソールがかなり分厚いため、それがない非ハイブリッドのターボエンジン車に比べると横方向の圧迫感が強かった。

他のワゴンにない面白い特質は、居住区がフルラットになるということだ。ドライブ中に一晩、車中泊を試みた。最初、後席と荷室をフラットにして寝ようとしたのだが、シートバックを前に倒しても床がまったくフラットにならなかった。一瞬がっかりしたのだが、フロントシートを倒して寝ようとしたところ、後席の足元空間にかなりのゆとりがある。実は車内がフルフラットになるというオチなのかと考え、フロントシートを一番前に出し、ヘッドレストを外してシートバックを倒してみたら、果たして見事フルフラットになった。

居住区がフルフラットになるというのは、少々床が凸凹でも気にしないというユーザーの場合、非常に都合がいい。荷台をアレンジして寝るのに比べてアレンジも復帰も実に手軽だからだ。また、室内フルフラットはクルマによって寝心地に結構差があるものだが、ジェイドRSはシートバック部の柔軟性が良く、見た目は凸凹でも体重である程度平らにならされる傾向があり、寝心地は非常に良いほうだった。

そのフルフラットと引き換えになった弱点もある。前後シートの座面がかなり短いことだ。普通のクルマであれば「何だこのシートは」とダメ出しをしたくなるレベルだが、ジェイドの2列シート仕様の場合、フルフラットと天秤にかけたくなるところ。たっぷりシートに比べれば連続運転時の疲れは大きそうだが、休憩のインターバルを短くすればまあ遠出も無理ではなかろう。

◆ヘッドランプが最大の弱点

乗り心地は普通。取りたてて良くもないが気になるような固さもないという中庸レベル。美点はボディが大きく揺すられた後の抑えが良いことで、微振動のカットは凡庸だがフラット感は高かった。中長距離ドライブや荷物、人員を大量に載せてのドライブでは後者のほうがより重要なので、悪い印象は抱かなかった。

安全装備は最近のホンダ車の定番になっている単眼カメラ+ミリ波レーダーの「ホンダセンシング」が搭載されていたが、最新の全車速追従型クルーズコントロールはつかない旧世代品。それでも車線逸脱を防ぐステアリング介入型のレーンキープアシスト、アダプティブクルーズコントロールなどがひととおり付いている。オンロードでのパフォーマンスは最新機に比べると落ちるが、悪くもない。もちろんないよりはるかにいい。


安全面で気になったのはホンダセンシングやエアバッグなどの装備類ではなく、ヘッドランプ。ジェイドの中でヘッドランプが最大の弱点とさえ言える。アクティブハイビームやハイ/ロー自動切換えが装備されていないといったことではない。とにかく照度が暗く、しかも配光特性も悪いのだ。夜間に山道を走るとき、右コーナー、左コーナーともその奥が全然照らされずに真っ暗で見渡せない。ロードランプをつけても焼け石に水だった。

同じホンダ車でもヘッドランプの性能はモデルによってまちまちで、ちゃんとしたモデルもある。そもそもジェイドの改良前は何でハイビームだけハロゲンなんだよと思うことこそあったが、配光特性の悪さで往生するようなことはなかった。一昨年に改良を受けた現行『フィット』がちょうどジェイドと同じような感じであった。保安基準に適合することだけを考えてライティングメーカーに設計を丸投げするとこうなりやすい。ホンダのエンジニアは夜に照明を落とした鷹栖テストコースのベルジャンロードをジェイドで走ってみて、どのように恐いかを体感し、ぜひ改良してほしいところだ。もっとも、これは照明のほとんどないような区間の話で、ライティングされた都市部や幹線道路ではさして気にならないであろう。

デザイン考。ジェイドのデザインは昨年の大規模改良で、フェイスがかなりスッキリした。前期型のフェイスは中国市場を意識したのか、いろいろな方向の線をわざと入れ込むようなデザインだったが、筆者はチンピラがしかめっ面でガンを飛ばしているような悪印象を抱いていた。後期型は無駄な線を減らし、シンプルなデザインとなったが、顔がスッキリとなったばかりか、フェイスの違和感に目線が固定されないようになったせいか、全体のフォルムまでスリークに感じられるようになったと思う。

◆まとめ


ジェイドハイブリッドRSはヘッドランプが暗いという欠点はあるが、居住区が非常に広く、また簡単にフルフラットとなるため、〇連休のようなヴァカンス期にぶらりと旅をするようなタイプのユーザーには悪くない選択であるように思われた。また、全長が4660mmもあるため、リアシートを前に倒すとさすがに荷室は長大。長尺物を荷室に積んでドライブしたいというユーザーにも向いているといえる。RSの場合、走行性能にゆとりがあり、荒れた舗装路にも案外強いので、昼間のツーリングはとても楽しいものになるだろう。

ライバルは内外のCセグメントステーションワゴン全般。エコカーというくくりでみると、国産車では先頃発表されたトヨタ自動車の新型『カローラツーリング』のハイブリッドが、輸入車では先にロングドライブインプレッションをお届けしたプジョー『308SW』の1.5リットルターボディーゼル、フォルクスワーゲン『ゴルフ』の2リットルターボディーゼルが競争相手となろう。

エコカーという制約を外すと競争相手はぐっと広がる。そのなかでジェイドを選ぶ理由としては、居住区優先という独特のパッケージング、パワートレインの気持ち良さ、そして販売不振の副産物である物珍しさあたりが挙げられよう。

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