ランボルギーニCEO ステファン・ヴィンケルマン氏《Photo by Lamborghini》

好況が続くランボルギーニ。数か月前には2021年度の販売台数、売上高、利益率が過去最高であったことを発表したばかりだが、8月2日には「2022年上半期決算で過去最高を更新」というプレスリリースが配信された。

それに先駆け7月25日、イタリア・サンターガタ・ボロニェーゼにあるランボルギーニ本社と東京・六本木にある「ランボルギーニ・ラウンジ東京」をオンラインでつなぎ、ランボルギーニCEO ステファン・ヴィンケルマン氏へのインタビュー取材会が実施された。

取材会の冒頭でヴィンケルマン氏は、まずこのように概況を述べた。

「今回、ランボルギーニとして過去最高の上半期の決算を達成することができました。販売台数は5090台、これは前年比4.9%アップです。売上高は13億3200万ユーロで、これは2021年度上半期の実績を30.6%上回るものです。それから営業利益は今年の上半期で4億2500万ユーロ。2021年度が通期で3億9300万ユーロでしたので、それを半期で上回ることができました。これに伴う営業利益率は31.9%で、ランボルギーニというブランドがいかに強いものであるか。そして、イタリア本社、また日本を含む世界中のランボルギーニのチームが一丸となって素晴らしい仕事をしてくれた結果だと、本当に嬉しく光栄に感じています。ちなみに日本はアメリカ、中国、ドイツ、イギリスに次ぐ世界第5の市場であり、我々にとって非常に重要な市場であると捉えています」

◆最後の内燃エンジンモデルに対する需要
---:過去最高の業績が続いている主な要因はどのようなものだと考えているのか。

ステファン・ヴィンケルマン氏(以下敬称略):大きく3つが挙げられます。まず1つめは、先ほどにも述べたランボルギーニのブランドの強さ、そしてもちろん製品が優れているということです。2つめはモデル構成。現在のモデル構成によって台数が増えたこともそうですが、世界中でより高額なモデルが売れるという状況が生まれています。

そして3つめが、1台あたりの売上、利益が上がっているという点。理由としては、オプションを選ぶ方が非常に増えている。特に自分だけの1台をつくりたいという需要の高まりのなかで、弊社には“アドペルソナム"という特別注文プログラムがあるのですが、これがお客様から非常に高い評価をいただいています。

---:実はランボルギーニに限らずスーパースポーツカーやラグジュアリーブランドの多くは軒並み業績を伸ばしている。コロナ禍にあって、そうした市場動向をどのように見ているのか。

ヴィンケルマン:今年の上半期においてはユーロ安だったという為替の面が追い風になったことは間違いありません。これは今後も続けばいいなとは思っています。そして他ブランドも同様にコロナ禍にあっても需要が手堅いということです。本当に誰も予測しなかったことだと思いますが、コロナ前の2019年よりも需要が増えている。もう毎日のように、生産を上回るだけのオーダーをいただいています。弊社ではまだ内燃エンジンを搭載したモデルも販売していますが、それが本当に最後の内燃エンジンモデルになるということもあって、お求めになる方もたくさんいらっしゃる。これも一つ、大きな要素だと思います。

ただし、我々としても本当の理由が何なのかはよくわからない。一つ言えるのは、数年前に比べて、可処分所得というのか、高額車を買える人々の絶対数が増えていることは間違いないと思います。

今後については、インフレ圧力も高まっていますし、サプライチェーンも不安定で、原料高の問題も続いている。ウクライナの戦争もどうなるかわからず、お客様の購買行動がこれからどのように変化するかは、まったく予想がつきませんし、誰にも分析はできない。ずっと右肩上がりのはずもなく、この先踊り場に入ることも想定される。そのため我々としても中古車市場での残価がどのようになっているか、販売台数、受注状況、在庫がどうなっているのか、本当に日々、細かくモニターしています。で、何かあったときにすぐに対応ができるような体制はとっています。

現状は納車までにおよそ1年半を要しており、いまオーダーをいただいても納車できるのは来年末という状況です。したがって、さまざまな不安要素はありながらも、今年は1年を通してよい成績で終われそうだという見通しにはあります。

---:上半期で5000台超のセールスはランボルギーニにとって史上最高の記録だ。このままいけば初の年間1万台オーバーも見えてくる。それについては1つの目標として掲げているのか。

ヴィンケルマン:2022年度の見通しとしては、1万台は超えないと考えています。理由はとてもシンプルで、8月は社員の夏休みがありますので、約3週間は工場を閉鎖します。ほぼ1か月分の生産ができない。そして、冬もクリスマスから年末にかけて工場を閉じます。当然上半期に比べると、生産台数は減少する。我々としては、その1万台の記録を、急いで達成するつもりはまったくありません。こういった不安定な時代だからこそ、コンスタントに着実に成長していくことが大事で、市場の動向を見ながらゆっくり確実に進めていきたい。

◆日本は成長続けるラグジュアリーマーケット
ランボルギーニ躍進の要因の一つが、ヴィンケルマン氏の主導のもと開発が進められ、2018年に発売されたSUVの『ウルス』だ。2021年度の販売構成を見てみると、約60%をウルスが占めており、約30%が『ウラカン』とそれを足し合わせるだけで約90%になる。SUVでしっかりと稼ぎ、それを原資として永続的にスポーツカーをつくり続ける、というポルシェなどが先例となるビジネス戦略にも見えるが……。

---:ヴィンケルマンさんが考えるベストなモデルミックスとは、どういった按分になるのか。

ヴィンケルマン:私が考える適正なモデルミックスは、フィフティフィフティ。つまりSUVが50%、スーパースポーツカーも50%というものです。

いま現在、そういうモデルミックスになっていないのは2つの問題があります。1つは、すでにV12エンジンを搭載するモデルの生産が終了していること。来年にはハイブリッドモデルの導入を予定していますが、今年はV12の生産がないので、どうしてもスーパースポーツカーが手薄になる。一方で『ウラカン』はとても好調です。STOと最近導入したテクニカも非常に高い評価をいただいている。適正なモデルミックスについては、新型のラインナップがすべて出揃う2024年から2025年ぐらいに実現できるだろうと考えています。

---:半導体や部品供給不足、そして日本市場は急激な円安に見舞われるなど、自動車各社は、受注停止や値上げといった対応を余儀なくされている。ランボルギーニとしては、これからの日本市場についてはどのように考えているのか。

ヴィンケルマン:我々としては、アジア太平洋市場、それからヨーロッパ市場、米国市場という世界の三大市場のバランスをうまくとっていくことが大事だと考えています。もちろんその時々の為替変動はありますが、それによってその都度対応を変えるのは、少々近視眼的なやり方であって、あまりメリットがあるとは思えません。したがって、各市場に平等に車両を配分していく方針に変わりはありません。日本市場はいまも成長を続けている、規模の大きなラグジュアリーマーケットであり、日本人のお客様からオーダーを頂いたら、その数に合わせてしっかりと生産していきます。

◆脱炭素、電動化へのビジョン
ランボルギーニはいま、脱炭素の実現に向けて電動化を進めていく「コル・タウリ(Cor Tauri)」という戦略を打ち出している。2023年には初のハイブリッドモデルを発表し、2024年末までにラインアップすべてを電動化。2025年初頭からCO2排出量50%削減を目指す。ハイブリッドへの移行を推進するために4年間で15億ユーロ(およそ1980億円)を上回るランボルギーニ史上最大の投資を行い、2026年には初のフル電動モデルを世に送り出すというものだ。

---:これらの目標実現の過程を詳しく。

ヴィンケルマン:ランボルギーニのプランは、4つのチャプターから成り立っています。第1章がサプライチェーン、第2章が自前の生産拠点すなわち本社工場、第3章がモデル、そして第4章がそのモデルのライフサイクル、すなわちスクラップやリサイクルについて。

まず第1章のサプライチェーンについては、すでに着手しています。各サプライヤーは製造工程におけるCO2の排出量について契約書を交わしており対策に取り組んでいます。そして第2章の本社工場は2015年にカーボンニュートラルを達成しました。第3章のモデルに関しては、2024年には電動化し、2025年以降にBEVを出すと発表しました。その後、『ウルス』も電動化を行います。これによって2030年にはランボルギーニ全体としてCO2排出量80%削減を実現します。そして第4章のライフサイクルですが、実は、これまでランボルギーニ車でスクラップにされたものは非常に少ない。大事にしてくださるオーナーがとても多く、過去に生産した車両の約80%はいまだに現存しているのです。こうして大きく4つの章に分けて取り組みを進めています。



実はVWグループ内の人事により、ヴィンケルマン氏がランボルギーニのCEOを務めるのは二度目のことだ。一度目はスーパーSUV市場の開拓を果たし、そして二度目は電動化に挑むことになる。この重要な局面だからこそ白羽の矢が立ったであろうことは想像に難くない。来年、60周年を迎えるアウトモビリ・ランボルギーニから、どんなモデルが飛び出してくるのか、大いに楽しみだ。

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