埼玉工業大学が開発する後付け自動運転システムをミクニ ライフ&オート(旧:ニッシン自動車工業)で実装中の八ッ場ダム水陸両用バス《写真撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》

群馬県の八ッ場ダムで走り出した水陸両用バスが、営業運転シーズンを終えて、意外なところに“入院”していた。運転手が座るシートが外され、そこにジョイスティックが1本。いくつもの制御ボード(基盤)と接続された状態で“手術”を受けている。

ここは八ッ場ダムから100km離れた埼玉県加須市、福祉車両架装で知られるミクニライフ&オート(旧ニッシン自動車工業)。このミクニライフ&オートの工場内でいま、八ッ場ダム水陸両用バスが自動運転システムを実装する工程のまっただ中にいる。

事業名は「水陸両用無人運転技術の開発〜八ッ場スマートモビリティ〜」。世界初の水陸両用バス自動化をめざすプロジェクトで、事業代表者はITコンサルティングのITbookホールディングス。コンソーシアムメンバーは、長野原町(水陸両用車保有・湖面管理)、日本水陸両用車協会(運行)、埼玉工業大学(自動運転技術)、エイビット(ローカル5G通信)が名を連ねる。

◆埼玉工業大学の自動運転AIバスで培った技術を応用

今回、ミクニライフ&オートで実装中の自走運転システムは、日野『リエッセII』に実装し全国各地で実証実験走行を繰り返している埼玉工大の後付け自動運転システム(接続マイコンや自動運転 AI Pilot / Autoware)がベース。

埼玉工大の自動運転AIバスで培った技術を水陸両用バスへ応用し、八ッ場ダム周辺道路とダム湖面の水陸両エリアを自動で運転・運航することを目標にしている。また、エイビットのローカル5G通信技術を採用し、遠隔操作も想定している。

3月末、ミクニライフ&オートの自動運転システム実装現場には、埼玉工大で自動運転システム開発をまとめる同大学工学部情報システム学科の渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)と同大学新4年生の学生たち、ITbook・ミクニの開発陣らの姿があった。

彼らが手にしていたのは、できたばかりの制御ボード。水陸両用バスは、陸上を走るバスとしてのステアリング・アクセル・ブレーキのほか、水上を航行するための舵・スロットルといった船の制御も要る。

このため、自動運転に必要な制御ボードやリレーボードの基盤類が、自動運転バスに比べて倍を超える10枚以上が装備される。さらに、制御用ボードPCや自動運転ソフトウェア搭載PCなどの自動運転むけ中枢機器は、運転室後方直下の船底に備わる。

◆水陸を自動で走る・曲がる・とまる、基盤類も倍以上に

埼玉工大の渡部教授は「ラジエターとの位置関係で、自動運転機器がラジエターの冷却風をまともに受けることになり、その対処も考えなければならない」と話し、八ッ場ダムでのテスト走行までにいろいろ課題があることを明かした。

今回は、ミクニライフ&オートの得意技でもある「ジョイスティック1本操作」を見せてくれた。この八ッ場ダム水陸両用バスには、福祉車両むけにミクニが開発したジョイスティック制御技術を搭載し、陸上と水上の走る・曲がる・とまるをこの1本のジョイスティックで操作できるように仕立てている。

水上ではスティックを左右に倒すと旋回ハンドルが回転し、前後に倒すとスロットルレバーが連動。陸上では、スティックを前に倒すとブレーキ、後ろに引くとアクセルオン、左右はハンドルという具合で連動する。

この八ッ場ダム水陸両用バスが自動運転テストに入るのは、ことし夏季の営業運転シーズンを終えた今秋から。それまでに想定される課題などについて、埼玉工大の渡部教授はこう話していた。

「LiDARは前左右に2つ、ルーフの前後に2つつけている。車幅が規定いっぱいなので、ウインカーのように左右に張り出して設置できないから、内側につけている」

◆ことし秋から水陸両エリアでテスト走行、想定される課題

「湖面の揺れや悪路などでその LiDAR のスキャンマッチングが正しくとらえられないと予測している。そうした揺れやブレに対してどう埋め合わせるかも課題」

「陸上から水上へ、水上から陸へといった離着水もいろいろ難しい。とくに離水が難しい。船は遅くなれば遅くなるほど、飛行機と同じで制御が難しくなる。そこを LiDAR と画像処理で距離を図りながらオートで走れるようにしたい」

「たとえばタイヤのトルクや回転をみるという手法も考えている。GPSの速度とタイヤ空転スピードで『水中にいる』と判断するプログラムや、タイヤにトルクがかかると『陸上にいる』と認識するようなプログラム・アルゴリズムを開発しているところ」

こうした渡部教授の話に聞き入っていたのが、埼玉工大の新4年生の学生たち。彼らは「埼玉工大で自動運転システムを学びたい」と志願して入学してきた学生たち。同大学の“生きた教材”を目の当たりにし、「今後の研究に活かしたい」「ITエンジニアを志望する者として貴重な経験。将来の自動運転システム開発に活きるはず」と話していた。

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