車載公開データセットでの運動軌跡の比較《画像:東芝》

東芝は6月3日、自動車やドローンなどの安全性向上や自動走行・自律移動の実現に向けて、車載カメラと慣性センサを用いて、自車両の動きを高精度に推定する「自車両の動き推定AI」と、周辺車両の動きを予測する「他車両の動き予測AI」を開発したと発表した。

近年、先進運転支援システム(ADAS)が搭載された自動車の販売台数が伸びるとともに、社会の自動運転に対する関心が日々高まっている。自動車の安全走行には、自車両の動きの正確な推定と、他車両の将来の動きを正確に予測する技術が不可欠。現在ADASではLiDARやGPS等のセンサを用いた技術が開発されているが、高価であったり、周辺の建物等によっては衛星からの電波が届かず計測ができないといった課題がある。また、将来の動きを高精度に予測するためには、周辺道路の車線数や曲率などの道路形状に合わせてそれぞれ予測AIモデルを用意する必要があり、様々な交通シーンや車両の動きが想定される一般道への対応が難しいのが現状だ。

そこで同社は、安価で電波等の環境に依存しない車載カメラと慣性センサを用いた自車両の動きを推定するAIと、道路形状毎の予測AIモデルを作ることなく他車両の将来の動きを高精度に予測する2つのAIを開発した。

「自車両の動き推定AI」は、車載カメラ画像から周囲環境の3次元空間地図の生成と車両位置の推定を同時に行う技術(SLAM)をベースに、加速度センサや角速度センサといった慣性センサ(IMU)を用いることで様々な風景に対応できる。しかし、高速道路で車両の速度が一定でセンサの値に変化がない場合等、センサのノイズが有効な信号より大きくなってしまい、推定精度に悪影響を及ぼす問題があった。

東芝は今回、車両の動きに応じて画像(カメラ)、加速度センサ、角速度センサごとのデータの有用性を各時刻で判定し、変化がある有効なセンサだけを適宜組み合わせて車両の動きを推定する手法を開発。自動車のように加減速が比較的少ない動き方から、ドローンのような加減速の大きい動き方まで対応できる。公開されているデータセットを用いて検証したところ、従来手法に比べて40%、カメラのみを用いた場合との比較では誤差を82%低減し、真値の軌跡とほぼ一致する結果を確認した。

「他車両の動き予測AI」は、道路形状などを一般化した幾何学的な特徴をディープラーニングで学習することで、実際の道路の形状に依存しないAIを実現。様々な交通シーンが想定される一般道等でも膨大な数の予測AIモデルの作成が不要となる。車線ごとの動きの予測と、将来走行する可能性の高い車線を予測のする2段階構成となっており、多様な道路形状に対応して高精度な予測を実現する。公開されているデータセットを用いた実験では、他車両の将来位置予測(4秒先の位置の予測)にて、従来手法と比較して誤差を40%以上削減し、世界最高精度を達成した。

東芝は今後、今回開発した技術を公道など実際の環境で評価を行い、2023年度の実用化を目指していく。

他車両の将来位置予測結果(4秒先の位置を予測)《画像:東芝》