「X One Retread_XDN2」(右)と「 MULTI energy T」

日本ミシュランタイヤは7月26日、新潟県糸魚川市において、トラック・バス用タイヤ向けに提供されているリトレッドタイヤの製造工程を視察する見学会をメディア向けに開催した。同社では特に輸送業界が抱える課題解決に向けて幅広いユーザーに訴求していく考えだ。

◆ミシュランがトラック用タイヤの柱としている「3R」とは?

日本ミシュランタイヤは、国内市場で20年以上前からトラック用タイヤを販売して来たが、その柱となっているのが「ミシュラン3R」コンセプトだ。

これは「Reduce(リデュース)」「Reuse(リユース)」「Recycle(リサイクル)」の頭文字を取ったもので、「リデュース」はロングライフ性能の向上でタイヤの負担を軽減し、「リユース」で摩耗したタイヤの溝を掘り直して寿命を延ばしつつ安全性を向上させる。さらに「リサイクル」となるのがタイヤにトレッドを貼り直して再利用する(リトレッド)というものだ。

輸送業界は今、景気回復が進むと同時にネット通販の拡大によって物流量が増加。これによって輸送コストが高騰し続けている状況にあり、加えてドライバー不足も深刻になっている。そのため、労務面での改善は必須の状況にあると言っていい。

一方、運送事業者には環境保全に配慮しながら輸送効率の向上やコスト削減も求められている。そこで、日本ミシュランはこの解決の糸口となるべく「ミシュラン3R」を訴求しているというわけである。その一環がリトレッドタイヤの生産というわけだ。

日本ミシュランタイヤのリトレッドタイヤは、生産を委託している高瀬商会の関連会社「トーヨーリトレッド」が担当する。同社がミシュラン製品の生産を始めたのは2005年のことで、2014年にはミシュラングループが世界で初めて自社レベルにあると認定した工場でもある。これは品質管理や徹底した安全作業などが高く評価されたものだ。

◆徹底した品質管理で生産されるリトレッドの現場

この日の見学会では、リトレッドタイヤが完成するまでの流れを追うことができた。そこには多くの検査と工程を経て完成するが、意外だったのは想像以上に人の手が介在していたことだ。工場の中には工程ごとに必ずと言っていいほど担当者が割り振られ、相当な暑さ(この日は外気温が32度にもなっていた)の中、黙々と作業が進められていたのだ。これについて日本ミシュランは、「多品種少量生産を基本としており、人手を介在する方が効率が良い」とする。

工場の周囲には、摩耗したタイヤが数多く積み上げられていた。そのタイヤはまずしっかりと洗浄され、超音波ウルトラソニックによるシアログラフィ検査機にかけて、部材の剥離がないかをチェックする。そして、この検査機によって通ったものをベテランの検査員が目と触診でもう一度チェック。この二重の検査によって「シアログラフィ導入前に比べて検索漏れは大幅に減った」(日本ミシュラン)という。

検査工程を終えたタイヤは次に「バフがけ」の工程に入る。ここではタイヤのトレッド面をサイズ/パターンに応じて設定値に削り、続いて損傷部分を整えるスカイプ工程へと移される。貫通した傷に対してはそれを埋めたり、パッチを貼って修理も行う。そして、削ったゴムが酸化しないように加硫用セメントも塗られ、溶けた合成ゴムで削った部分を埋めるフィリング工程を経て、トレッドを貼り付けるケーシングの準備が整う、という流れだ。

トレッド面の貼り付けを行う前にトレッドは、一旦台の上で伸ばされて溶剤が塗布される。そしてケーシング工程で貼り付けだ。

この作業はサイズ/パターンに応じて行われるが、ここでは継ぎ目をブロック形状に合わせる高度な技術が求められる。しかし、その作業は相当に手早く行われており、その技術力の高さに驚きを感じる。ここで成形作業を終えたタイヤは、エンベロープと呼ばれるゴム袋で包まれ、加硫機に投入される。

加硫を終えたタイヤはエンベロープが外され、もう一度機械を用いて実際の走行状態と同レベルの圧力をかけて耐久性をチェック。目視でも検索を終えたタイヤは温かいうちに専用塗料を塗られてリトレッドタイヤは完成となる。

◆今秋にはミシュラン自慢の「X One」のリトレッド化を実現

ところで、工場自体はコールド方式(プレキュア)とホット方式(リモールド)の両方に対応しているが、ミシュランは全てコールド式を採用する。その理由は、前述したように「多品種少量生産」に向いており、加硫時のケーシングへの損傷を少なくするメリットもあるからだという。ミシュランではグローバルでもこの方式を採用する工場が多いとのことだ。

なお、日本ミシュランタイヤは、今年10月よりトラック・バス向けワイドシングルタイヤ『X One』(エックスワン)」のリトレッドタイヤ2種を発売する。

一つはあらゆる天候の路面で優れたグリップを発揮する「X One XDN 2 リトレッド」で、もう一つはトレーラー用「X One MULTI ENERGY T リトレッド」。もともと「MICHELIN X One」は、トラックの後輪に装着されている2本(ダブルタイヤ)を1本にするというもので、1車軸当たり約100kgの軽量化を達成し、車両の輸送効率向上と環境負荷低減の貢献に寄与する。同社では「X One」のリトレッド化を実現することで、ユーザーの選択肢を広げていくことにしている。

積み上げられた摩耗したタイヤはすべて契約した顧客から回収したもの ミシュラン3Rは、「リグルーブ」「リトレッド」を活用することで、タイヤ経費を削減すると共に、廃棄物の削減や省資源化、CO2排出量削減に貢献する ミシュランが提供する「3R」コンセプトのソリューション ミシュランのタイヤは利グルーブやリトレッドに適した構造体を備えているのが特徴となっている 超音波ウルトラソニックで部材感の剥離を見つけ出すシアログラフィ トレッド面をサイズ/パターンに応じた設定値に削るバフがけ。すべてコンピュータ制御で行われる 削ったゴムが酸化しないように加硫用セメントを塗り、その上で溶けた合成ゴムで削った部分を埋めていく トレッドをビルディング機の台の上で一旦伸ばし、溶剤を塗ってビニルに巻き直す ケーシングにトレッドを貼り付ける。継ぎ目はホチキスで止め、加硫を終えた後の仕上げで取り外す エンベロープと呼ばれるゴム袋で包まれたタイヤは加硫機に投入され、長時間加硫された後、取り出される 加硫を終えたタイヤは実際の走行状態と同レベルの圧力をかけて耐久性をチェックされる 新潟県糸魚川市にある「トーヨーリトレッド」で行われた日本ミシュランのメディア向け工場見学会 ミシュランが提案する「3R」コンセプトについて解説する日本ミシュランタイヤ B2Bタイヤ事業部常務執行役員 高橋敬明氏 XDN2のトレッド 左から新品の「X One」、摩耗した「X One」、リトレッドした「X One」