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トラック、バス、タクシーなど職業ドライバーに対して、乗務前に「十分な睡眠時間を確保できたか」を問う省令改正が6月1日からスタートする。

運送事業者はドライバーが乗務する前に、運行管理者による点呼を行う。国土交通省は点呼項目に睡眠チェックを盛り込み、睡眠不足の運転者を乗務させてはいけないことも定めた。睡眠不足を原因とする事故が起きていることなどを重視した安全対策の一つだが、当事者からは不満も漏れる。

経歴10年の都内トラック運転手のひとりはこう言う。

「酔い方に個人差はあるが、アルコール・チェックは検知器を使うから、誰にでも判断できる。飲んでないつもりでも出たら、それは自分が悪いから、次から気を付けることもできる。しかし、眠気は食後にも出るし、漠然と『充分な睡眠がとれていますか』と問われても答えにくい」

さらに、別の運転手はこうも言う。

「運行管理者はただ聞くだけでいいが、ドライバーは、(睡眠不足で)運転できないことを申し出なければいけない。現実問題として、運転前にそれがわかるほどの睡眠不足はありえない。ドライバーに余計な負担を増やしてるだけ」

今回の省令改正は、睡眠不足により安全な運転ができない可能性がないかを確認し、記録に留めさせるものだが、その判断基準や具体的な確認方法は明示していない。点呼で当日のルート確認やアルコールチェックなどと共に、運行管理者が運転者に対して自主申告を求めることに留めている。その方法も睡眠がとれているか否かを聞くだけでも、一歩踏み込んで睡眠時間そのものを聞くのもよし。確認方法も事業者判断だ。

国土交通省自動車局は「そうしたお話は運転者、運行管理者の両方からいただいている」とした上で、こう呼びかける。

「バス運転手を対象としたアンケートでは、睡眠時間が平均睡眠時間5時間以下という結果もあり、睡眠時間の確保は必要。日頃から対面点呼により、運航管理者が顔色、話し方、挙動などで健康チェックをされている中で、睡眠不足についても気を付けてほしい」

石井啓一国交相は「個人差があるため、一律に示すことは適当ではない」と改正の経緯を説明しながら、運送事業者に対してこう求めた。

「指導監督の実施マニュアルでは、従来から6〜7時間の連続した睡眠をとるよう推奨している。また6月1日からこのマニュアルを改定。厚労省の睡眠指針の中で、睡眠時間6時間未満は7時間以上と比べて、居眠り運転の頻度が高いという研究結果があることを具体的に紹介。運転者を指導する一助にしていただくことを考えている」

現代人の睡眠は短いと言われる。ナポレオンの例えは職業ドライバーには通用しなくなった。

石井啓一国交相《撮影 中島みなみ》