慢性的な渋滞で知られるタイのバンコク市内で、量子コンピュータを使って渋滞解消を目指す実証実験が進められている。実験を実施しているのは自動車部品の大手サプライヤーであるデンソーと、様々なシステム開発を手掛ける豊田通商だ。
ドライバーにとって悩ましいことのひとつは渋滞だ。渋滞は時間やエネルギーのロスを生み出すだけでなく、ストレスから交通事故の引き金ともなりやすい。自動車の数は新興国を中心に増える一方で、特にバンコク市内で発生する渋滞はその激しさで世界的にも有名だ。バンコク周辺には600万台のクルマと400万台のオートバイが走っていると言われ、道路などインフラ整備はその増加にまったく追いついていない。
そんな中、豊田通商の子会社の豊通エレクトロニクスは2011年より『Tスクエア』と呼ばれる渋滞予測アプリを実用化。すでにタクシーやトラック約13万台に搭載して、ドライバーを空いている道へ誘導するソフト面での運用を図ってきた。カバレッジは70%以上と高く、加えてAIによる統計解析で補完することで、擬似的ではあるが100%の出力達成を実現している。
しかし、現状では単に空いている道へ誘導するだけの、いわば“対処療法”にしか過ぎない。空いている道路があるからとして多くのクルマを誘導すれば、今度はそこで渋滞を引き起こしてしまう。クルマ一台ごとに適切に対応できれば渋滞は減少できるはず。ただ、従来のコンピュータでは対応は不可能だった。そこで量子コンピュータの登場となったわけだ。デンソー先端研究3部の寺部雅能氏は「このバンコクでの実績があったからこそ今回の実証実験が始められた」と話す。
つまり、量子コンピュータの高い処理能力を使うにしても、その計算の元となるデータがなければ意味がない。その意味でTスクエアが積み上げてきたバンコクでの実績は実験にあたって有効だった。
取材では量子コンピュータの仕組みについても説明されたが、正直よく分からなかった。そこで、どのぐらいの処理能力を持っているかを聞くと寺部氏は「従来のコンピュータなら1週間かかった解析が1分程度で終えることができる」と話してくれた。「今まではせっかくデータがあるのに処理が追いつかないことから、道路の効率的な運用ができなかった。量子コンピュータの処理能力を活かせば、百万台単位のクルマが一斉に移動してもそれぞれに最適化したルートを案内できる」。
すでにTスクエアの情報を配車に活かしているタクシー会社も訪問した。Tスクエアに対応する車両も紹介された。実験では、量子コンピュータを使用することで、タクシー配車や緊急車両の到着時間がどのぐらい速達化できるかを試している。その結果、「タクシー9台と配車リクエスト9件の総距離が最小になる組み合わせを求めたところ、約36万通りのもの組み合わせを、わずか20マイクロ秒という高速で処理できた」(寺部氏)という。
実用化について寺部氏は「現状ではこれを運用するアプリケーションが登場しておらず、ハードの開発も途上にある。実データの解析を続けることで実用化への糸口を掴みたい」とのこと。バンコクの渋滞がウソのように消えていた! そんな日がやがて、やってくるのかもしれない。
渋滞を量子コンピュータで減らす…バンコクでデンソーと豊田通商が実証実験
2018年05月30日(水) 14時30分
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