三菱 RVR《撮影 井元康一郎》

次に139ps/172Nm(17.5kgm)を発生する1.8リットルSOHCにパドルシフトつきCVTを組み合わせたパワートレインのパフォーマンス。1.4トン台の車重に対して余裕たっぷりとは言いがたく、転がすくらいならこれで十分というレベルにとどまる。

特徴的なのはスロットルボディとCVTの協調制御のチューニング。スロットルペダルを半分くらい踏み込むまではエンジン回転数をあまり上げず、スロットル開度も絞るようにセッティングされているようで、パワー不足に感じられる局面が少なからずあった。とくに高速道路やバイパスでの先行車追い抜き、急勾配での加速などではその傾向が顕著である。

面白いもので、このチューニングが良く感じられることもある。それはオフロードだ。ぬかるんだギャップを越えるときのように「もうちょっとだけトルクを出したい」というような微妙なスロットルワークは実にやりやすかった。もちろん今どきのクルマなのでホイールの空転は電子制御で抑制されるのだが、オフロードでは先を読んでゆっくりとギャップを乗り越えたいという局面は多々ある。そういう車両コントロール性を重視したチューニングなのだろう。

が、RVRはあくまでヘビーデューティではなく、オンロード主体のSUVだ。できればオンロード用とオフロードクロール用の2パターンのスロットル&シフトプラグラムがあればよかったのにと思った。また、絶対性能ももう少し欲しいところで、2リットル自然吸気かダウンサイジングターボ、ぜいたくを言えばディーゼルターボを載せればもっと軽快になったであろうにと思った。

パワー面では不満が残るが、燃費は思いのほか良かった。ドライブ中、満タン法で3回燃費を計測してみた。1回目は渋滞を含んだ東京の市街地オンリーの147.8km区間で実測値は12.4km/リットル。次は葛飾から常磐道で日立南太田まで走り、郊外路やオフロードを含む長大な山岳路を経由して宇都宮に至った316.4kmで14.1km/リットル。最後が宇都宮から夜間の流れの良いバイパス7:市街地3の割合で葛飾に戻った112.6kmで17.0km/リットル。

平均燃費計は表示が辛めで、3区間とも実測値が燃費計表示をやや上回った。ちなみにJC08モード燃費値は14.4km/リットルだが、筆者のロングドライブの経験に照らし合わせると、モード値に対する実燃費の達成率はCVT車としてはトップクラスである。

◆使い勝手、デザインは

室内の居住性、荷室の使い勝手は、全長4.4m級のSUVとしてはトップクラスではないが、実用車として十分に納得の行く水準にあった。キャビンについては4人である程度の長距離ドライブをこなすことも可能に思えた。今回は600km台のミドルレンジドライブであったため、ドライバーズシートの疲労耐性を極限まで試すことはなかったが、感触的には1000kmクラスのドライブであれば不都合はなさそうだった。

荷室は全長が短いぶん、アウトランダーの5人乗りのようなだだっ広さはないが、CセグメントSUVとしては狭くはない。奥行きが不足しているが荷室の形状はサスペンション、タイヤハウスの出っ張りが小さくスクエアで、ホンダのSUV『ヴェゼル』と同じような使いやすさがあった。床は全面、樹脂トレイで覆われており、汚れたものや少々水に濡れたものでも気軽に積み込むことができそうだった。

試乗車にはグラスルーフが装備されていたが、開口面積が大きく、室内の採光性を高めるのに大いに役立った。茨城、福島県境をドライブした日は絶好の晴天であったが、そういう日にはシェードを全開にして走るととても気持ちよい。日本の顧客はサンルーフ、グラスルーフをあまり好まないが、これがついているとちょっとヨーロッパ車的な雰囲気で悪くない。

デザイン考。RVRのデザインは抑揚が豊かで塊感を感じさせ、それでいて派手派手しさはあまりなく、抑制的であるのが特徴だった。筆者はなかなかシックでいいと思っていたのだが、フロントマスクが「ダイナミックシールド」というガチャガチャとした線が入り組んだちょっとうるさいものになって以降、シックな良さという点では後退した。

アイデンティティマスクを作ってデザインを統一するというのは三菱自の商品戦略上の判断なのだからそれは黙って見ているしかないが、フロントを強くしたぶん、他が弱く見えるようなアンバランスさが出てしまっているのがもったいない。せっかくオフロードもある程度気持ちよく走れるようなキャラクターを持っているのだから、アメリカやヨーロッパで販売している同モデルのようにフェンダーアーチモールを装備したら全体的に強さが出ていいのではないかと思われた。

オーディオはBluetoothでスマホとリンクさせるタイプのディスプレイオーディオ。カーナビは実装されず、ディスプレイにスマホのカーナビ画面を表示させるのだが、スマホナビに慣れている顧客にとっては操作性は悪くなさそうだった。スマホとのリンケージは自動で行われるが、オーディオリンクがうまく行かないことが何度かあり、そのときは手動で再接続させた。もう一息ブラッシュアップさせてほしい。

光ディスクのドライブは装備されておらず、ドライブ中のBGMは無料で使える音楽配信サービス「Spotify」からセレクト。Spotifyの日本語版は曲目のセレクトがうまくいかないことがよくあるなどサービスの質としてはあまり良くないが、曲目はジャンルを問わずそこそこ充実しており、BGMにする程度なら十分。自分の好みで音楽を選ぶなら、曲をスマホのメモリに格納していけばいい。音響システムは三菱車ではおなじみのロックフォード・フォスゲート。ラゲッジスペースに大径のスーパーウーファーを搭載しており、純正系としてはダイナミックレンジ、再生周波数帯域とも十分に素晴らしいものであった。

◆「SUVファン」が顧客層

RVRはヘビーデューティSUVではないが、そのテイストが多分に盛り込まれた、古き良き三菱車のテイストを持つコンパクトSUVであった。キャラクターは2010年登場の初期型から基本的に変わっていないが、幾度かのファインチューンを受け、味付けの面では熟成の域に達していた。

日常使いのためのユーティリティにも大きな不満はなく、休日に出かけるための足としてはなかなかいい線を行っているモデルであった。気になるのはパワー不足感があること、せっかく先進安全装備を搭載したのにクルーズコントロールが前車追従式でないことくらいであろう。

ライバルは広くみればBCセグメントからCセグメントの国産SUV全般だが、林道や砂地などのオフロードや雪道での走りやすさという観点ではスバル『XV』が最大のライバルとなろう。感覚的にはロードクリアランスのゆとりや床下のフラットデザインなど、オフロード走破性は互角。オンロードでのAWDの制御の巧みさや高速安定性、山岳路での身のこなしでXVが、大きなアンジュレーションやギャップの通過時におけるサスペンションの柔軟性や大入力に対する堅牢さ、SUVらしい鷹揚な走行フィールでRVRが優越しているという感があった。

RVRへのマッチングが高い顧客像はズバリ、SUVファン。あまり多額のお金はかけられないが、大型SUVが持っているようなゆったりテイストを味見しながらドライブを楽しみたいという人にとっては、格上のアウトランダーよりもRVRのほうがいいくらいだ。ライトなレジャーへの適合性も高いので、アウトドア派にはもとよりうってつけである。

三菱自は度重なる不祥事によってブランドイメージはボロボロだが、RVRはSUVというカテゴリーの性質上、リセールバリューがそれほど悪くないのもプラス材料だろう。半面、SUVテイストにこだわりがなく、リフトアップ乗用車としてのファッションSUVがいいという顧客にとっては、適したクルマはほかにいくらでもあるので、わざわざRVRを選択する意義は薄いように思われた。

三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》 三菱 RVR《撮影 井元康一郎》