フルモデルチェンジを果たしたホンダ『ゴールドウイング』のジャーナリスト向け試乗会が、オースティン(アメリカ・テキサス)にて開催された。合計110リットルという驚異的な収納に荷物を詰め込んで、「リアルな」1泊2日、ゴールドウイングの旅だ。
◆テキサスをゴールドウイングで駆ける
心配していた雨は降らず、日射しも強くなってテキサスの雰囲気を感じられるようになってきた。真っ直ぐに続く道をホンダのクルーザー『ゴールドウイング ツアー』で走る。最高ではないか。
休憩ポイントも「これぞテキサス」と言わんばかりのムード漂う「ラッケンバック」という小さな小さな村。木のボードに「MOTORCYCLE PARKING」とあるから、ここにゴールドウイングをならべて停めた。
きっと、遠くから聞こえていたであろう水平対向6気筒の低く迫力あるエンジン音。そこにいた誰もが振り向き、排気量1833ccの大型プレミアムツアラーを見ている。自分はオーナーではないが、なんだか鼻が高い。もしゴールドウイングを買ったら、こんな気分がツーリング先でいつも味わえちゃうのか。注目を浴びるのは少し照れくさいけれど、悪い気はしないなぁ…。
その一帯は、いかにもアメリカ南部のカントリーサイド。1800年代半ばにドイツ系の移民が入植した地で、旧き良き時代を偲ばせるメインストリートは未舗装のまま。そこに150軒を超えるブティックやアートギャラリーが立ち並び、観光客を集めている。
大陸横断ツアラーとも言われるゴールドウイングが、この雰囲気に似合いすぎるから写真を撮らずにはいられない。こういうのを「インスタ映え」っていうのだろう。滅多にやらないインスタを自分も更新、ハッシュタグは「#2018 GOLDWING」としておいた。
昔は郵便局だったのだろう「U.S.POST-OFFICE」と看板が掲げられた建物に入ると、テンガロンハットやウエスタンブーツが所狭しと並んでいて、自分もカウボーイに変身したくなる。奥のバーでは、ミュージシャンらがアコースティックギターでカントリーミュージックを奏で、気分はなおさら高揚してくるではないか。
ゴールドウイングが持つさまざまな世界観。アメリカのカントリーサイドは、確実にそのうちのひとつだ。
◆「DCT」でイージライディング
テキサスでのジャーナリスト向け試乗会(最終組 WAVE 7)に参加した日本とアメリカ9名ほどのライダーの間では、DCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)仕様車の人気が高かった。
2日間で440マイル(約700km)の距離を走ったが、クラッチレバーの操作がないのはとてもラクで、ライディングをイージーにしてくれたからだ。
話を進める前に、まずDCT仕様車とは一体なんなのかを簡単に説明しておこう。
新型ゴールドウイングは、トップケース付きのゴールドウイング ツアーとサイドバックだけのゴールドウイングの2本立てになっているが、ゴールドウイング ツアーでのみ「7速デュアルクラッチ・トランスミッション」仕様車が選べる。
DCTでは、1、3、5、7速の奇数段用と2、4、6速の偶数段用、2つのクラッチを備えている。
クラッチレバーの操作が不要で、ライダーは右手のアクセル操作と、右手&右足のブレーキ操作に集中して走ることができる。さらに通常のマニュアルミッションではその構造から発生してしまう変速時の駆動力の途切れがないため、なめらかな加減速が可能となっている。
DCTは、日本仕様としては2010年に発売された『VFR1200F』への初採用以来、新型ゴールドウイングでは第3世代へと進化し、そのトランスミッション構造を活かした「微速前後進機能(ウォーキングスピードモード)」が新たに採用された。これがパーキングスペースにバイクを停めるときなど、取り回し時に大活躍したのだ。
特にリバース機能はありがたい。これまでのゴールドウイングでは、モーター駆動による電動リバース機能だけで、この場合、車両を切り返しときにはR⇔N⇔Lowの操作を繰り返す必要があった。
これに対し、この第3世代DCTでは、エンジン駆動力と電子制御クラッチを使うことで、左手ハンドルスイッチの「+(プラス)」ボタン、「ー(マイナス)」ボタンを操作するだけで微速前後進ができ、低速での取回しがより簡単に、スマートにできる。
軽量かつコンパクト化を図った7速+リバースDCTは、従来の5速マニュアルトランスミッションに対し、エンジン単体で約3.8kgの軽量化に大きく貢献。
クラッチ操作不要のイージーライディングとウォーキングスピードモードの追加で、DCT仕様車はジャーナリストらの間でも大好評だったのだ。
◆シート高は上がったのに足着き性が良くなった理由
サービスエリアや観光地の駐車場で停まっていると、観光バスから降りてきたオジサンやオバサンたちに声をかけられたりすることが多いオートバイ。
ライダーなら心あたりがあると思うが、たいていは「これ排気量いくつ?」「オジサンも昔はナナハンに乗ってたんだよ」っていうパターン。
正直なところ、ときには鬱陶しいこともあるが決して悪い気はしない。そうやってオートバイに関心を持ってくれて「カッコイイね」「気をつけてね」と、暖かい声を掛けてくれることがほとんどなのだから。
特に大型バイクは彼らの格好の餌食となるのだが、ホンダ・ゴールドウイングなんてその最たるものだろう。威風堂々としたスタイル、見るからに大きなエンジン、フラッグシップがゆえの存在感、高級感はバイク乗りらからも注目を集める。
しかし、背が低い人にとって気になるのが足着き性だろう。実際、声をかけてくれた人たちに勧めてみると「いや、足が届かないから無理だよ。オレももう少し足が長かったなぁ…」と、足着き性を理由に大きいオートバイには乗らないという人は少なくない。
新型ゴールドウイングは足着き性が良く、身長175cmの筆者が乗ると両足がカカトまでしっかり地面に届くから、そんな心配は要らない。身長175cmといえども、高校生の頃はクラス一番の座高の持ち主であったから足はかなり短く、この感じだと身長160cm程度のライダーでも乗れる気がする。
カタログのシート高は745mmと、同社の原付2種スクーター『PCX』の760mmより低い。そしてアメリカンホンダが比較用にと用意してくれた17年式の『ゴールドウイング』と較べても地面に足が届きやすい。
じつは従来型ゴールドウイングのシート高は740mmで、新型はスペックの上では5mmほど上がっている。にも関わらず、どうして足がつきやすいのか。
テキサスでの2日間のテストライドに同行してくれた新型ゴールドウイング開発責任者・中西豊さん(本田技術研究所二輪R&Dセンター主任研究員)に聞くと、シート形状や車体側の絞り込みを徹底的に追求したとのこと。
「従来のシートですと、長距離走行での快適性を重視し座面を広くつくってあり、内ももがシートの角に当たってしまっていたんです。なのでライダーが地面に足を出すときには、瞬間的にお尻を前にずらす必要がありました」(中西さん)
17年式に乗って足を出すと、たしかにその早ワザを自分がやってのけていることに気付く。
「新型はその車体サイズからは想像もできないほどの足着き性の良さが得られるよう、着座した位置からそのままストンと足を出せるようにシート形状を見直し、フレームボディもシートとの跨ぎ部を徹底的に絞り込こんでいます」(中西さん)
カタログ値のシート高はあくまでも目安に過ぎず、足着き性はシート形状や足を出す車体部がいかに絞り込まれているかに大きく左右される。新型ゴールドウイングでは従来同等の居住空間を確保しながら、乗り手の体格を選ばないよう足着き性に優れるシートと車体にしているのだ。
その証拠にと言ってはなんだが、試乗会には2名の女性ライダーが参加し、ゴールドウイング ツアーとゴールドウイングを余裕を持って操っていた。
体格を理由にゴールドウイングをあきらめる。それはもったいないことだ。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★
コンフォート:★★★★★
足着き:★★★★★
オススメ度:★★★★★
青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。
【ホンダ ゴールドウイング 米国試乗】「体格」を理由に乗らないのは勿体ない!取り回し余裕な理由とは[後編]
2018年01月30日(火) 20時15分
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