三菱自動車の益子修CEO《撮影 山田清志》

三菱自動車は11月7日、2017年度第2四半期(4〜9月期)の連結決算を発表した。その会見の中で、益子修CEOが何度も「信頼回復」という言葉を口にした。

「信頼回復と今も言い続けているのは、去年起きたことを風化させないためなんです。これは体験したものはよく分かるのですが、去年のことを早く忘れたい、あるいはもう克服したんだ、と思うような人も出てきています。しかし、それを間違っていると言えないところもあるんです。そこで、風化させないために今何をしているかというと、なぜああいう問題が起きたんだろうかと、多くの人との対話を続けています」と益子CEOは説明する。

その対話の中で新たな発見があったそうだ。それは想定をしていた部門の人間が他の会社との交流や意見交換をしていなかったということ。そのため、自分の世界の中でそれが正しいと思って進めてきてしまった。もし他社との交流があれば、他社が違ったことをやっているとなったら、自分たちが間違ったことをしていると気づいたはずだというわけだ。

また、こんな指摘も受けたという。「あの職場に女性はいましたか、きっといなかったでしょうね。女性の視点をもっと測定とか実験に入れたほういいのではないですか」。これを聞いて、益子CEOはなるほどと思ったそうだ。

「信頼回復には終わりがなくて、ここまで来たから満足ということがないので、今後とも真摯に取り組んでいきたい」と付け加える。

信頼回復という言葉は最近、さまざまな企業で聞かれるようになった。同じ自動車業界でも日産自動車やSUBARU(スバル)の社長が、無資格者による完成車検査問題でこの言葉を口にした。この問題について、益子CEOは去年の問題の検証と照らし合わせて、こう話す。

「おそらく現場で作業している人は、法律を犯しているとか、悪いことをしているとかという意識はなく、やっていることは正しいんだと思い込んで作業をしていると思います。となると、現場にある思い込みをどうやって見つけ、それは正しくないと知らしめていくことが必要になってきます。しかし、これは当事者では見つけにくいので、第三者の目が必要になってきます。新しい人に新しい視点で見させて、今までやってきたことが正しいのかということを見せないと、たぶん根本的には解決できないんだろうと、われわれの経験から感じます」

そこで重要なのがローテーションだという。ただ、効率を考えると、ベテランに任せ続けたほうが安全である。そこは心を鬼にして、ローテーションをするべきだというわけだ。そして、ダメなものはダメと言える環境づくりも必要とのことだ。

「人間は間違いを犯します。その間違いを犯した従業員その人も不幸で、その家族も不幸だと思います。それを未然に防ぐにはどうしたらいいでしょうかと、社員みんなで考えて仕組みづくりをしていくというようなアプローチ以外に方法はないと考えています。いま会社の中でそういうアプローチを進めています」と益子CEOは話す。

しかし、それは言うは易く行うは難しである。いくら仕組みづくりをしても、社員の意識が変わらなければなかなか進まない。益子CEOが“信頼回復”と言い続けているのには、社員の意識改革を進めたいという思いが込められている。