MR16DDTエンジン

日産自動車は、自動車エンジンの生産工程で用いる独自技術「ニッサン・マシニング・ラフニング・プロセス(NMRP)」のライセンスを工作機械メーカー大手である独ヘラー社に供与したと発表した。

自動車エンジンのシリンダーボアには通常、摩擦や熱から保護するため内側に2.6mmほどの厚みを持つ鋳鉄製ライナーが挿入されている。しかし近年、エンジンの軽量化や燃費向上のため、高性能車、超低燃費車を皮切りに、鋳鉄製ライナーに替わる鉄系溶射皮膜の採用が始まっている。鉄系溶射皮膜では、溶けた低炭素鋼を吹き付ける(溶射)ことで約0.2mmの薄膜化を実現。軽量化や冷却性能の向上により、エンジンのエネルギー効率を向上させることができる。

しかし鉄系溶射皮膜は、従来の技術では安定した品質で量産を行うことが困難で、一部の高性能エンジンにしか採用されていなかった。量産には、高度な溶射技術に加え、常に爆発・圧縮にさらされているシリンダーボアの内面でも溶射した皮膜が密着を維持する技術が必要となる。日産が開発したNMRPは、ボーリング加工の一種で、工具と加工条件を最適化することで、溶射皮膜が強固に密着するようシリンダーボアの内面を粗面化する技術。NMRPと適切な溶射技術を組み合わせることで、鉄系溶射皮膜を持つエンジンの安定的かつ安価な量産が可能となる。

日産は「GT-R」のVR38DETエンジンに初めて鉄系溶射被膜を採用し、その後「ジューク 16GT」のMR16DDTエンジン、「インフィニティ Q50/Q60」のVR30DDTTエンジン、「パスファインダー、インフィニティ QX60」のVQ35DDエンジン、HR12DDRエンジン、MR20DDエンジンなど、高性能エンジンだけでなく、ミニバンやコンパクトカー等の新世代低燃費エンジンにも採用を拡大している。

今回ライセンス供与を行ったヘラー社は、既にシリンダーボアコーティング用の工作機械を製造販売している。今回の日産からのNMRPのライセンス供与により、ヘラー社は鉄系溶射皮膜を持つエンジンの量産に必要な一連の製造技術を各自動車メーカーに提供していくことが可能となる。