日産リーフ新型発表会《撮影 高木啓》

◆販売計画は歯切れ悪く……

日産自動車は電気自動車(EV)『リーフ』を全面改良し、10月2日に発売する。2010年12月に世界初の本格量産EVとして初代モデルを投入して以来の刷新であり、消化不良の販売に終わった初代の課題克服に手を打った。この7年でEVを取り巻く環境は大きく変わり、手探りだった初代投入時にはない熱い注目も集めるようになった。それでも、EVが市場に受け入れられるには、なお時間を要するだろうし、新型リーフの登場によって積み残した課題もより明瞭になってきた。

9月6日に千葉市の幕張メッセで内外の報道関係者向けに開いた発表会。報道陣が注目する新型リーフの販売計画は、何とも曖昧だった。ニュースリリースには明記されていないし、西川廣人社長は「我々の想定はあるが、(需要は)マーケットが決めること」と話した。大体のイメージを示したのは日本事業を担当する星野朝子専務執行役員で、「2016年度の実績に対して国内は3倍、グローバルでは2倍はいける」と言及した。16年度の販売は国内で1万2000台、グローバルでは4万7500台だったので、国内は月3000台、グローバルでは年間10万台規模を想定しているということになる。

初代を発売した直後には、カルロス・ゴーン社長(現会長)が、仏ルノーとの合計で16年度までに累計150万台のEVを販売するとぶち上げていた。しかし、実際には約28万台のリーフを含め40万台強にとどまったのだ。世界的に電動車両への注目度が高まり、EVにはフォローの風が吹いてきたものの、初代のこともあって、今回は「我々の努力とお客様にどう受け入れられるかで決まることになる」(星野氏)と、初代の目標ありきとは距離を置いた。

◆航続400kmはEVを意識しないで使えるレベル

新型の開発に当たり、日産は顧客からの要望が多かったという「車両価格、充電の設備数と所要時間、航続距離の4点の改善」(日本商品企画部リージョナルプロダクトマネージャーの北原寛樹氏)に焦点を当てた。このうち、実用面で最も重視されてきた航続距離は、電池容量の拡大や制御の改善などにより、フル充電時からは400km(JC08モード)を確保した。これは初代モデル投入時の2倍に相当する。「日本では実用的に全く問題なく、EVと意識しないで使っていただけるレベルになった」(西川社長)と評価している。グローバルで他社のEVを見ても、400km前後は現状でのスタンダードな水準となっている。

社会インフラでもある国内の充電設備は、7200基に及ぶ急速充電器と普通充電器を合わせると2万8000基超に達し、日本は世界で最も充実した国のひとつとなっている。日産も系列ディーラーへの配備に力を入れるなどで拡充してきた。一方、充電時間については、急速充電でフル容量(40kWh)の80%に達するには新型車では40分を要す。ただし、容量が小さかった旧型(24kWhと30kWh)よりは同じ所要時間で多くの電気を貯めることができるので、一定の改善は成されている。

◆今のコストではゼロエミッションの世界はできない

新型車は装備によって3グレードが用意されており、価格は約315万円から約399万円。いずれのグレードも旧型よりは若干安く、国の補助金も航続距離が延びたので増額されるため、求めやすくはなる。日産は目下、自動運転技術や電動化技術などによる新商品群を「ニッサン インテリジェント モビリティ」と称するブランド戦略を展開しており、新型リーフにも自動運転支援技術の「プロパイロット」や運転席のボタン操作だけで、自動駐車ができるといった先進技術を設定している。ただし、これらの装備が予め搭載されているのは約399万円の最高グレードだけ。EVで最先端の「インテリジェント モビリティ」も体験するには相当な費用がかかるということだ。

製品開発部門のリーダーである坂本秀行副社長に、EVを更に普及させるための課題を質すと、率直な答えが返ってきた。「一層のコスト低減と、充電時間をもっと短縮させること」だという。とりわけ価格については、「ゼロエミッションの世界をつくるためには、今のコストレベルではだめだと思っている。100年以上の歴史で培われてきた内燃機関のレベルにはまだまだ」と指摘した。新型の幅広い進化にも浮かれず、積み残しの課題を直視する姿勢からは「日産EV」の進化は止めないという決意が伝わってくる。

日産自動車の坂本秀行副社長《撮影 山田清志》 日産 星野朝子専務執行役員《撮影 池原照雄》 日産 西川廣人社長《撮影 池原照雄》 日産リーフ新型発表会《撮影 池原照雄》