シトロエン C3 シャイン撮影 中村孝仁

シトロエンという自動車メーカーは昔から自動車を単なる鉄の塊とは捉えず、人間味のある姿形、そして動きをさせるのが得意だった。

プジョーに吸収されてPSAの一員となって以来、そうした面影を失っていたが、最近になってまたそれが復活してきたように感じる。最新鋭の『C3』に試乗して改めてそれを強く感じた。

同時に、自動車とは一体何なのか?という問い掛けも我々にしてくれているようにも感じた。このクルマ、特にこれといった最新装備や先進的安全デバイスなどを装備しているわけではない。クルーズコントロールは装備されていたが、ACCでもない。LEDのデイタイムランニングライトは付いているが、ヘッドライトはハロゲンで照らしてみると夜間は周囲が黄色く淡く光る。エンジンは1.2リットル3気筒ターボで、そこそこの活発な走りはするものの、非常に俊敏と言うほどのパフォーマンスは持ち合わせていない。

3サイズ、全長3990×全幅1750×全高1495mmと特に全長は非常に短いから、室内だって特に後席は決して広々とはいかない。インストルメントパネルも叩けばポコポコと音のする硬質プラスチックが使われていて、決して豪華さを印象付けるものがない。そんなクルマであるにもかかわらず、クルマっていいなぁ…と思わせる不思議な魅力が詰まっている。

ドアを開けて室内に乗り込むと、迎えてくれるのはたっぷりしたサイズのファブリックシート。この掛け心地が素晴らしい。硬すぎず柔らかすぎず、そして締め付け過ぎず…。最近はサイドサポートを向上させるためにバケットタイプのシート採用が多いように感じるが、このクルマの場合そんなものは無縁。正直言えばサイドサポートなどほとんどないに等しいが、リビングのソファのような温かみや和み感を持っている。その昔、個人的にシトロエン『GS』というモデルを所有していたが、何となく当時を思い出した。メーターパネルなんかもごく普通。最新鋭の液晶ディスプレイではなくて、昔ながらのアナログメーターで、ダッシュ中央に装備される大きめのナビを兼ねる液晶ディスプレイが、むしろ浮いた存在にすら感じさせる極めてコンベンショナルなインストルメントパネルである。

ところがいざ走り出してみると、こいつが無類に快適であった。敢えて名前を出してしまうが、直前までアウディ『A5』スポーツバックに乗っていて、それからの乗り換えである。向こうはいわゆるDセグメントのオプション込み800万円以上もする高級車。方やシトロエンはオプション込みでも261万4220円という庶民的価格。しかし、こと、乗り心地だけを取り上げてみれば、シトロエンC3の勝ちである。家までの帰りすがら、まるで路面の舗装を変えたのではないかと思うほど衝撃的にスムーズでひたひたと走る様に驚かされた。勿論かつてのハイドロニューマチック、ハイドラクティブは既に姿を消しているから、当然ごく普通の鉄バネとダンパーによるサスペンションなのだが、ひとたびシトロエンの腕にかかると、まるで魔法の絨毯(もちろん乗ったことはない)にでも乗っているような不思議な乗り心地に変貌する。

例によって伸び側が非常にゆったりとした動きをするサスペンションの印象は、まず大入力のガツンとくる衝撃を全くと言ってよいほど感じさせない。4輪は常に路面を捉えて離さない印象をドライバーに与え、路面が良くなるとまるで鏡面を滑走するようなフィーリングすら与えてくれる。少なくとも全長が4mを切るBセグメントのクルマが実現できる乗り心地とはとても思えない。ステアリングは微妙な路面の変化を確実にとらえ、振動の差によって路面状況を把握できる繊細さを持っている。つまり、ドライバーがしっかりと五感を働かせていれば、今どんな道をどのように走っているか、しっかりと伝達してくれる。だから、その変化を見逃すまいと、ドライバーも自然と神経を尖らせる。それでいて、1日で400kmも走ったのに、ほとんど疲れというものを感じさせないのだから、純粋に走りを愉しんだということのような気がするのである。

特に飛ばしたわけでも、ワインディングを攻めたわけでもなく、ごく普通に日常的な道を交通の流れに乗って走っただけなのに、ドライブが楽しいと感じさせるクルマ。それがC3であった。ドライバーが常に音や振動、それに周囲に注意を払っていれば、本来は先進安全装備なんて必要ないのでは?と感じさせる一面を持っている。確かにデザイン、特にインテリアのセンスの良さはフランス車ならではのような気もするが、このクルマの個性は、乗って味わえる温かみのように思えた。久々、シトロエン大ヒットの予感がする。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度 :★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

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