ホンダ フリード ハイブリッド G ホンダセンシング。桜島をバックに記念撮影。《撮影 井元康一郎》

ホンダが昨年秋にフルモデルチェンジしたサブコンパクトクラスのミニバン『フリード』の「ハイブリッドG ホンダセンシング」で東京鹿児島を3800kmほどツーリングした。前編ではシャシー性能、先進安全装備について述べた。後編ではパワートレイン、居住感・ユーティリティなどについて触れる。

◆スムーズな動きになった「i-DCD」

試乗車のパワートレインは最高出力81kW(110ps)の1.5リットルミラーサイクルエンジンと最高出力22kW(29.5ps)の電気モーターを内装したデュアルクラッチ変速機を組み合わせた「i-DCD」。1.4トン超と、かなり身重なフリードハイブリッドだが、混合最高出力が101kW(137ps)という強力なパワーソースのおかげで、高速道路やアップ・ダウンのきつい山岳路も含め、ミニバンとしてはかなりの俊足ぶりを示した。また、6名乗車などフルロードに近い状態で走っても出力に余裕があるため、加速力の低下にイラつかされるようなこともなかった。

フリードのi-DCDは一見、2013年に『フィット』に初搭載されたものと同一品のようにも思われるが、実はギア比が初期型と異なっている。フィットは各ギア段間の変速ピッチがほぼ均等(たとえば6000rpmでシフトアップすると次の段の4500rpmで噛み付く)だったのだが、フリードのものはピッチが不等間隔。

重量級ボディにあわせて市街地でよく使う段を加速に有利なように下げたのかと思いきや、フィット、およびサブコンパクトセダン『グレイス』の改良モデルも本体のギア比はフリードと同じものになった。

パワートレイン開発担当のエンジニアによれば、初期型DCTでみられたギクシャクとした動きをどうしたら解消できるか検証を重ねた末に決めたのがこのギア比だとのこと。フリードは当初の計画より1年以上遅れて市場に投入されたが、おそらくこのi-DCDの根本的改良に時間がかかっていたものと推察された。

改良の効果はそれなりに体感できる。初期のi-DCDは、たとえば緩やかな坂を下っている時など、負荷の軽い領域でエンジンがかかさいにスナッチ(ガクガク)が頻発する傾向があった。が、フリードではその症状はほぼ解消していた。少なくともこの3800kmドライブの間、目くじらを立てるような動きは出なかった。

i-DCD本体の挙動以外で制御が変わっていることが実感されたのはブレーキ。マイナーチェンジ前のフィットが「電動サーボブレーキ」なるものを搭載し、それほど減速度が大きくない状況では停止寸前までモーター兼発電機の発電による抗力だけでスピードを落とせたのに対し、フリードは10km/h台前半でメカニカルブレーキに切り替わるのが体感できた。回生ブレーキによるエネルギー回収を限界まで突き詰めるというポリシーは変更されたようだった。

スポーティドライビングを積極的に楽しむのには向いていない。パドルシフトが未装備なうえ、シフトセレクターも有段変速機なのになぜかバイワイヤー式であるため、山岳路などでギア段を任意に選択できず、クルマのコンピュータ任せで走るしかない。また、フィットにはあるスポーツモードもない。ただ、ミニバンというモデルの性格上、全自動モードで大きな不満がでるというわけでもなかった。

◆ロングツアラーとしての燃費性能は

燃費は十分に良かった。総走行距離3791.7kmのうち燃費計測を行ったのは3743.9km。給油量は合計188.38リットル。トータル燃費は19.87km/リットルだった。今回は鹿児島滞在中の燃費を単独で測らなかったが、その区間の実燃費は推計1517km/リットル。ロングランは2022km/リットルといったところだろう。通算平均燃費計値は21.1km/リットルで、実燃費に対して5%強の過大表示。

省燃費制御を行うエコモードボタンのオン/オフ、運転の仕方などでの燃費のバラつきはほとんどなかった。ロングツーリングではハイブリッドカーの特質に合わせてもっさりと走っていてはいつまでも目的地に着かないし、そもそもエコランは性分に合わないので基本的にはキリキリと走ったが、試しに1区間だけ三重の桑名から静岡の浜松までの143.8kmをやや省エネルギー気味に走ってときは実燃費27.1km/リットルであった。もちろん郊外路をゆっくり、丁寧に走ればさらに燃費を伸ばすことができるであろう。高速での100km/hクルーズ燃費は推定20km/リットル強。

燃費については重量も前面投影面積も大きいミニバンであることを考えると御の字というものだが、燃料タンク容量がフィットの普及グレードより小さい36リットルしかないため航続距離についてはロングツアラーとしてはやや不満が残った。給油インターバルが最も長かったのは山口・下関から山陰、北近畿経由で三重・桑名間に至った797.5km。計器上の航続距離残は0kmで、給油量は36.41リットル。省燃費走行に徹しないかぎり、1名乗車でもワンタンク800kmはちょっと厳しい気がした。ファミリーでのロングラン旅行の場合、600kmインターバルでの給油が無難だろう。

◆スペース効率の高さと、“異様なほどの”前方視界の良さ

パッケージングおよび居住感について。フリードは全長4.3m足らずという短いボディながら、室内は非常に広く作られている。2列目のスライドシートを前に寄せれば、全列に大人が座れるだけのスペースを確保することができた。その余裕を生むため、3列目のシートは床下格納ではなく、もっと大型のミニバンと同じく左右跳ね上げ式。5席+エマージェンシー2席というトヨタ・シエンタのようなスマートな荷室空間は得られないが、スペース効率はすこぶる高かった。

多人数乗車を受け止める車体は作りがなかなか強固で、6名乗車、ドライバーに加えて350kgほどのロードがかかった状態で段差やアンジュレーション(路面のうねり)が連続する箇所を通過しても、ミシつきやわななきは皆無だった。最初に車両重量1430kgと聞いた時は何でそんなに重くなるんだと思ったが、実際に長距離を乗ってみると、その重量でこれだけ強固なボディを作れたのだからこれはこれでいいかという印象に変わった。

ただ、1〜3列までフル乗車で移動するのは短距離にとどめておいたほうがよさそうに思えた。この全長で室内をフルフラットにできるようにしたためか、2列目、3列目のヒップポイントは理想よりかなり低い。3列を使うように2列目を前に出すと、膝下空間は十分に確保されるものの、体育座りのような余裕のない姿勢になってしまう。また、前席下に燃料タンクが配置されているため、前席下の床が前に向かって斜めになっている。2列目に座る人は常時、軽くアキレス腱伸ばしをするような感じになってしまう。

このタイトな乗車姿勢は3列目を使わず、2列目シートを後方にスライドさせればある程度解消する。着座位置の低さは変わらないが、足を前に投げ出せるようになるからだ。ロングドライブは4人乗りで行くのが無難だろう。

ドライバーにとってフリードの美点となるのは、前方視界が異様に良いことだ。一見、グラスエリアがそれほど広いようには思われないが、実際にドライブをしてみると、目前の景色がとてもパノラミックであるように感じられ、ドライブが楽しくなる。視界が良いため、着座位置が高く感じられるのも面白いところで、運転感覚は2リットルミニバンに近いものがあった。

運転席まわりの空間は広々としている。ただし、2列目とのウォークスルーを可能にした代償として、CDなどの小物入れは不足気味。万が一の安全性のことを考えるとあまりいいことではないのだが、必要なものをバッグに入れ、運転席と助手席の間に転がしてドライブをした。

シートは後ろを振り向きやすいよう、サイドサポートの張り出しが小さなミニバンライクな形状。そのぶん体をホールドする機能は低く、ロングドライブ向きとは言いがたいものだった。ただ、フリードは不整路面や山岳路を走るときも車体がゆったりと揺れるような足回りのチューニングになっていたので、シートのホールド性への依存度が低く、結果、シート形状があまりネガティブに作用しなかった。明確な欠点は、前席の位置を前方に詰めたためか、ペダルレイアウトがかなり左寄りであったこと。オートクルーズを使わない時間が長いと、足の疲労はそれなりに大きくなる。

ツーリング中の連続運転は最長4時間。それだけ走るとツーリング向けのクルマに比べるとさすがに疲れが出るが、それでも1〜2時間ごとにちょっと体を伸ばしたりしながら走れば、疲れの蓄積度合いは近距離用途のクルマであるわりには良いほうだった。

◆ミニバンに求められるものをしっかり押さえた作りだが

3列シートミニバンにとって第一義なのは室内の広さと経済性。乗り心地は悪くなければOK、走りも不都合なく動きさえすれば顧客が満足するというクルマである。フリードは、そういったミニバンに求められるファクターはしっかり押さえた作りになっていた。今回のドライブではロングツーリング耐性も一定水準以上にあることが確認できた。

コンパクトサイズのクルマ1台で普段使いから長距離のファミリー旅、グループ旅をしたいというカスタマーにはなかなか良い選択ではないかと思われた。3列シートを使う機会がない場合は、2列シートのフリードプラスを選べばいいだろう。また、ホンダのエンジニアによれば、実用域での初期加速は非ハイブリッドの1.5リットルDOHC車のほうが良いスコアとのことで、年間走行距離が短いカスタマーは高価なハイブリッドにこだわる必要はなかろう。

ミニバンとしての実用性は高い一方、クルマそのものの遊び心やドライビングプレジャーは希薄。クルマとしての性格は2リットル級5ナンバーフルサイズミニバンとほぼ重なる。ホンダの国内ビジネスを考えると、良品廉価の白物家電的な仕立てにしたことは功罪相半ばするところだろう。

まずは販売。これだけ実用性豊かに作ればフリード単体の販売は伸びるだろうが、一方で上位モデルの『ステップワゴン』を確実に食う。自動車保険大手のソニー損保が2013年にクルマの使用実態についてアンケート調査を行ったところ、回答者1000人のうち半数以上が月間走行距離300km未満だったという。たったそれだけしか走らないのであれば、5ナンバーフルサイズに対して室内が狭かろうと、短時間我慢すればいいだけの話である。ダウンサイジングと言えば聞こえがいいが、実質的には下級移行で、メーカーにとっては収益圧迫の要因になる。

もう一点はブランドマネジメント。前編で『シエンタ』との比較で往年のトヨタとホンダのクルマづくりが入れ替わったかのようだと書いた。フリードのクルマづくりは手堅く、良心的だが、オーナーが強い愛着を覚えるような独自性に欠ける。ホンダは平成初期の頃はトヨタ・日産という2代勢力に飽き足らない層の受け皿的ブランドであった。カスタマーはあえて王道を外すのだという遊び心を持ってホンダを買うケースが多く、それがホンダ車に乗ることはヴィヴィッドというイメージを醸成する原動力になっていた。

今のフリードはそれとは真逆で、クルマ選びで失敗したくない、便利な足でありさえすればいいというカスタマーにモロ刺さりするキャラクターだ。ホンダがそういうブランドになりたいというのであれば、この仕立てはまさに開発ターゲットとピントがぴったりと合ったものと言える。が、もしホンダであるという理由で選ばれるようなブランド力を復活させたいと考えているならば、センスを伴う遊び心がワンポイントでいいから欲しかった。

もちろんこれはフリードがクルマとして悪いという話ではない。走り味はともかく性能面はかなりしっかりと作られているし、何より便利だ。コンパクトなマルチスペースミニバンが欲しいというのであれば、ためらう理由はひとつもない。

ホンダ フリード ハイブリッド G ホンダセンシング《撮影 井元康一郎》 鹿児島と大隅半島の垂水を結ぶフェリーの車両デッキにて。《撮影 井元康一郎》 ホンダ フリード ハイブリッド G ホンダセンシング《撮影 井元康一郎》 大人しく走れば燃費はそこそこ良好。《撮影 井元康一郎》 タイヤはおなじみの省燃費モデル、ブリヂストン「エコピアEP150」《撮影 井元康一郎》 3列目へのアクセス性は非常に良好。2列目を前に出せば膝下空間も結構豊か。《撮影 井元康一郎》 3列をフルに使うと荷物はほとんど載らない。《撮影 井元康一郎》 3列目シートを跳ね上げると荷室空間は豊かに。《撮影 井元康一郎》 スライドシートを左右で前、後にずらしてみた。前位置だと3列目シートの空間に余裕が出るが、着座位置が低く、床形状も良くないため2列目の快適性は落ちる。《撮影 井元康一郎》 フリードの美点のひとつが前方視界の良さ。この位置から見てもパノラミックな視界であることがお分かりいただけよう。《撮影 井元康一郎》 ホンダ フリード ハイブリッド G ホンダセンシング《撮影 井元康一郎》 ホンダ フリード ハイブリッド G ホンダセンシング《撮影 井元康一郎》 ホンダ フリード ハイブリッド G ホンダセンシング《撮影 井元康一郎》 ホンダ フリード ハイブリッド G ホンダセンシング《撮影 井元康一郎》 ATのシフトレバーはバイワイヤ式。手動変速モードを持たないため、DCT(デュアルクラッチ変速機)を自分でコントロールする楽しみはない。《撮影 井元康一郎》 リビングルーム的な仕立ての室内。広く、明るい雰囲気だが、クルマらしさはやや希薄。《撮影 井元康一郎》 ルノー『カングー』のように通常のルームミラーに加え、凸面鏡の広角ミラーが備わる。《撮影 井元康一郎》 総走行距離3791.7km。《撮影 井元康一郎》 ホンダ フリード ハイブリッド G ホンダセンシング。ホンダ本社にて《撮影 井元康一郎》