東武鉄道 SL大樹 祝賀運転(下今市駅、2017年8月10日)《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》

スーッヴォーッ。プシューッ。汽笛一発、2つのヘッドライトを灯し、蒸気機関車 C11 207 が曇り空へ向けて黒煙を吐き、線路に白い息を吹く。

栃木県日光市、下今市駅。東武鉄道 SL「大樹」が走り出した。初日の8月10日、特別ダイヤ仕立ての祝賀運転では、東武鉄道 根津嘉澄取締役社長をはじめ、石井啓一国土交通大臣、吉野正芳復興大臣、福田富一栃木県知事、そしてJR北海道島田修代表取締役社長らが、“東武の新しい蒸気機関車列車”の力走を見届けた。

「これまで地元の足、地域の移動手段として親しまれてきた路線が、観光資源としても活用されることに」(石井啓一大臣)

「記者クラブ以外は出発ホームに入れません」ということで、下今市駅のまわりを歩いてみる。栃木電気区下今市支区の詰め所の先には、一般開放エリアが設けられ、地元幼稚園児たちが応援旗を手にして集結。

「行くよ!」という合図で汽笛が響くと、子どもたちは大歓声。その後ろで見る中年も、「行ってこい!」という思いで拍手する。SL大樹、いよいよ出発だ。

ゆっくり慎重に加速していく C11 207 のバッバッバッというドラフト音に続き、12・14系客車のディーゼル発電音、コトンコトンという足音、そして最後部からプッシュする DE10 1099 のアイドル音が届く。地元の子どもたちは大きな声で何度も「いってらっしゃーい!」と叫び、手を振る。

そのなかに、「北海道から日光・鬼怒川へ おめでとうございます」というメッセージが記された横断幕を持つ男性2人がいた。JR北海道社員だ。彼らは、どこか古豪アスリートを応援する観客のように、拳を上げる。北の大地を駆けた C11 207 が、まさか東武鬼怒川線の道を走るとは……そんな表情で、彼の力走を見届けていた。

列車は、下今市駅構内のポイントを渡り、鬼怒川線へ。大谷川の鉄橋を渡る手前で、C11がヴォーー、ヴォッヴォと汽笛合図を発すると、それに続いてピーー、ピッピッとDE10が了解合図を送る。そんなパフォーマンスに、「行ってこい! SL大樹」という思いで、観客は拍手を送る……。

「東武鉄道っていろいろおもしろい」。帰りの500系リバティ車内でそう感じた。行きは古河に寄る用があり、6050系で下今市へ向かった。この6050系は、1960年代に生まれたくるまで、国鉄急行型の雰囲気を感じるクロスシートがいまも現役。北鹿沼を過ぎたあたりから坂道が続き、床下のモーター音が騒がしくなる。車窓には森の緑がいっぱい。

6050系は途中、これまた重厚な100系スペーシアに道をゆずる。ホームに降りてみると、水飲み場がまだあった。いま、青春18きっぷシーズンまっただなか。もう10年も使ってない筆者としては、まさに“夏のローカル線旅”のなかという感じ。

そして帰りの500系リバティは軽快そのもの。100系スペーシアの重厚な走りもいいけど、観光にビジネスに、あらゆるニーズに対応した“ジャストサイズ”なつくりの500系も、あり。

500系リバティが北千住に着いたころ、先ほどいた100キロ北では、C11とDE10が息を合わせながら、鬼怒川線の坂道を下っているはずだ。

東武鉄道 SL大樹 祝賀運転(下今市駅、2017年8月10日)《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》 東武鉄道 SL大樹 祝賀運転(下今市駅、2017年8月10日)《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》 東武鉄道 SL大樹 祝賀運転(下今市駅、2017年8月10日)《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》 東武鉄道 SL大樹 祝賀運転式典に出席した東武鉄道 根津嘉澄取締役社長(下今市駅、2017年8月10日)《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》 東武鉄道 SL大樹 祝賀運転式典に出席した石井啓一国土交通大臣(下今市駅、2017年8月10日)《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》 東武鉄道 SL大樹 祝賀運転(下今市駅、2017年8月10日)《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》 東武鉄道 SL大樹 祝賀運転(下今市駅、2017年8月10日)《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》 東武6050系《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》 東武6050系《撮影 大野雅人(Gazin Airlines)》