デンソー テクニカルアドバイザー 新見幸秀氏《撮影 中尾真二》

デンソーは8日、自動運転用半導体として「DFP:DataFlow Processor」技術を発表した。DFPは、運転に必要な知覚・認知・判断・操作のうち判断に特化した新しいアーキテクチャのプロセッサとなる。DFPを実際に搭載した自動運転カーは2020年代前半に登場する予定だという。

DFPはデンソーの100%子会社として9月に設立される「ネエスアイテクス(NSITEXE)」によって開発され、OEMメーカーやTire1サプライヤーなどに半導体IP(半導体の設計ライセンス)として提供される。新会社は資本金100億円で創設時は55人体制でスタートする。社長は デンソー テクニカルアドバイザー 新見幸秀氏が就任する予定。

●GPUやCPUが不得意とする統合的な判断を効率よく実現するDPF

判断処理に特化したプロセッサというのをもう少し説明すると、NVIDIAが得意とするGPUは、前述の知覚・認知・判断・操作のうち、主に知覚の部分に特化した処理に向いている。画像認識や信号処理など、演算としては比較的単純な処理(機械学習や信号処理の理論やアルゴリズムは複雑だが、AIモデルやDSPが実行するのはデータの読み取りか計算処理)だ。CPUやECUはセンサーやAIモデルの出力をロジックで処理して主に操作の司令を行う。

認知・判断については、より人間に近づけるためには、複数の要素を同時に処理する必要がある。たとえば、前方に障害物を発見したが、左側に歩行者がいる。さらに右側からはレジ袋が飛んできたとする。これらを瞬時に判断して最適な回避ルートを計算するのは、現状の自動運転システムでは難しい。画像をAIが判断すればいいと思うかもしれないが、自動運転に実装されるAIモデルは、歩行者の検知、先行車両の検知など比較的単機能な認識しかできない。検知要素ごとにAIやECUを用意して、それらの情報を統合的に処理する必要がある。

DFPは、マルチコアのCPUにソフトウェア(タスク)ごとの処理をスケジューリングできるようにし、複数の判断を効率よく行うことができる。つまり、CPUとGPUが不得意とする領域をカバーするプロセッサということになる。

●子会社化は情報のファイアウォールのため

自動運転のプロセッサではNVIDIAが市場でのプレゼンスを上げてきている。インテルも「インテルGo」という自動車向けのソリューションを発表し、BMWやモバイルアイらと共同研究を発表している。ボッシュやコンチネンタルも独自の自動運転技術のプラットフォーム開発を表明している。これらの動きに対して新見氏は、

「デンソーはインテルが設立された1968年にすでにIC研究室を発足され自社で半導体開発を手がけてきた。この半導体開発のDNAは、いまでも生きており、独自技術によECUの小型化、パワー半導体の小型化・高出力化、3ミクロンのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:マイクロマシン)技術による加速度センサーの高精度化などを成し遂げている。デンソーは、かねてより自動運転には専用の半導体技術が必要と考えている。」

といい、自動運転に特化したプロセッサを開発し、OEM、デンソーを含むサプライヤーに供給する考えだ。

そのためDFPではプロセッサに利用するコアチップはARMでもNVIDIAでもインテル(Atom)でも問題ないという。独自アーキテクチャではあるがIP(知的所有権)のライセンスビジネスのため、採用企業やECUのプラットフォームは問わない。新見氏によれば、DFPをデンソー本体の事業部として開発するのではなく子会社を作ってビジネスを展開するのも、この戦略のためだ。

自らもTier1であるデンソーの名前では、いくら汎用的なプロセッサやモジュールを開発しても競合するサプライヤーやOEMには展開しにくい。車両や開発情報をデンソーには渡せないからだ。子会社としてデンソーから分離すれば、個別のクライアントの情報は契約によって守られる。新見氏の言葉を借りれば「情報のファイアウォール」だ。

記者発表の質疑応答では「NVIDIAや他のサプライヤーの動きを脅威と感じるか」という質問に、新見氏は「自動運転の波が急速に強まっていることは感じるが、他の半導体メーカーやサプライヤーは脅威というよりお互いに技術を活用しあうパートナーだと思っている。」と答えた。判断用プロセッサという、従来型の演算志向のCPU、画像処理や単機能処理に特化したGPUの間を埋めるDFPで、プロセッサのIPビジネスからOEMへの自動運転技術の提供までデンソーグループで受けて立つ構えだ。

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