トヨタとマツダ、資本・業務提携を発表《撮影 池原照雄》

◆トヨタさんは上から目線だから……

トヨタ自動車とマツダが資本業務提携で合意し、「持続性をもった協力関係」(豊田章男トヨタ社長)をスタートさせた。2015年5月の提携基本合意から2年余りをかけるという慎重な交渉を経て、世界の自動車産業の激変期をともに生き抜く包括的な内容に漕ぎつけた。とりわけ、マツダには直面する数々の課題をトヨタとの協業で克服するという実り多き合意になった。

具体的な提携の内容は1年ほどで詰める---。15年の基本合意から協業項目の合意に至るまでのイメージについて、マツダの小飼雅道社長は当初、こんなニュアンスで語っていた。ところが、2年目の夏が来て、秋が来てもその気配はない。破談の可能性もあるのかなと思い始めたころ、それを払しょくする感触を得たことがあった。16年の秋ごろ、マツダの幹部にこの件について水を向けた際、半ば冗談で「トヨタさんは上から目線だからね」と苦笑するシーンがあったのだ。この場合の「上から目線」の本意は、トヨタとは真剣に腹を割って協議ができているということだった。

今回の合意までに時間を要したのは、豊田社長が「15年の合意から協業についてさまざまな検討を進めるなか、この2年の間には色々なことがあった」と振り返ったように、まさに「海図なき闘い」(豊田社長)の序章のような動きが表面化したからだ。中国政府の新たな産業政策がトリガーとなった電動化への大きなうねり、AI(人工知能)や自動運転技術の開発競争の加速、内燃機関離れを促すVW(フォルクスワーゲン)のディーゼル車不正、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しや自国製造業の復活を掲げるトランプ米大統領の誕生---、などである。

◆単独ではリスクが大きかった米国生産

トヨタとマツダが合意した協業内容の柱である米国工場の共同運営による新設は、足元の動きにも即応したものだ。両者ともに米国は最大の販売先であり、製品供給の現地化拡大は共通の課題となっている。とくに、北米ではメキシコにしか工場のないマツダにとって、すでに当事国で見直しの協議が始まったNAFTAという不安要素を埋めるために米国工場の復活は大きい。ただし、単独での進出はリスクも大きかった。

両社の計画では折半出資による年30万台規模の能力をもつ車両工場を新設、21年をめどに生産開始する。投資額は16億ドル(約1800億円)で、4000人規模の雇用を想定している。それぞれ1本ずつの生産ラインとし、マツダはクロスオーバーと呼ばれるSUV、トヨタは量販セダンの『カローラ』を生産する計画である。それぞれの生産能力は15万台だが、これが単独で工場進出するには何とも厳しい、中途半端な数字なのだ。自動車工場の建設は、投資効率から年産20万〜25万台規模が理想となるからだ。マツダにとっての米国生産は「効率的に短時間でお客様にクルマを届けて喜んでいただける。現地工場で地域から支えられることは、ブランド強化にもつながる」(小飼社長)という、今はない利点ももたらす。

◆次世代製品開発に集中して取り組める環境に

トヨタとマツダは、関係を密にして協業を円滑に進める狙いから資本提携も決めた。それぞれ500億円ずつ相手の株式を取得し、調達資金は米国工場の投資に振り向ける。マツダにとって500億円のトヨタ株取得は小さくない投資だが、同額分がトヨタ側の出資として自己資本に組み入れられ、米工場の設備投資に回る。また、トヨタ株は年3.3%ほど(8月7日の株価換算)の利回りをもたらす優良資産にもなる。願ってもないスキームで、12年の撤退以来となる米生産を復活させることになる。

一方、技術開発分野では、電動車両強化の一環として電気自動車(EV)の基本構造に関する共同開発、コネクティッドや先進安全技術など次世代技術での協業を図る。さらに、商品補完についても拡大を進める計画であり、新たにトヨタがマツダに商用バンを供給する。注目のEV開発では、両社で混成チームを結成し、マツダの商品開発手法である「一括企画」のノウハウも生かしていく方向だ。

両社の幅広い協業は、トヨタにとっては世界での競争で優位に立つための課題としてきた「仲間づくり」で大きな前進となる。一方のマツダには、単独では成しえない課題の克服を通じ「安心と安定」をもたらすのではないか。目下、マツダは「第7世代」と呼ぶ次世代製品群の開発を進めているが、それに「安心」して、集中して取り組む環境ができた。その先では、かつて幾度となく経験した危機を回避しうる「安定」した成長も実現できよう。

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