アメリカのベストセリングセダン、トヨタ『カムリ』、別名“ビューティフルモンスター”。別名に値するほど美しいかどうかは別にして、先代より遥かに存在感のあるスタイリングに生まれ変わったのは間違いない。最近のトヨタ車に共通する、上下2段構えのフロントの、水平方向にエッジが流れるアンダーグリル、癖があるけれど、僕は嫌いじゃない。
フロントのホイールアーチとドアが近いプロポーションから、横置きエンジンのFWD=前輪駆動であることは一目瞭然だが、ルーフラインを後方まで伸ばしてセミファストバック風に仕立てたキャビンデザインが、もうひとつの特徴だ。ただし、新TNGAプラットフォーム上に構築されたボディは全長4885×全幅1840×全高1445mmと、かなり大きい。
そのデザインは居住空間に大いに貢献していて、リアシートのレッグルームなんか、平均的な日本人の体格では余り過ぎるほどの余裕がある。シート下にハイブリッドのバッテリーを収めているのでヘッドルームの余裕は大きくはないが、もちろん不足はない。さらにトランクルームも広く、後席のバックレストが倒せるトランクスルー式なのも好ましい。
日本仕様はハイブリッドのみで、178psの2.5リットル直4エンジンと120psの電気モーターの組み合わせで、1540〜1600kgの車重を走らせる。バッテリーの充電容量が充分ならEVモードで走れるなど、システムはこれまでと同様だが、エンジンとモーターの両方を駆使した全開時のパフォーマンスは、飛ばし屋にも不満を抱かせないレベルにある。
その一方、乗り心地はちょっと独特なものがある。路面の当たりはひとことでいってソフトで、鋭角的な突き上げを喰らうことなく、カムリはひたひたと走っていく。その代わりヨーロッパ車のようなフラット感はなく、絶えず緩やかに動いているような感覚がある。
それでも乗り心地は総じて快適だが、Gのレザーパッケージ仕様に標準の18インチタイヤは路面によってはバネ下の重さを実感させるので、乗り心地の観点からいうと、17インチ装着モデルが当方のオススメになる。
ステアリングの感触も同様で、直進とコーナリングのメリハリが希薄に思える。開発担当者にその印象を伝えたら、メインの市場がアメリカなので、ハンバーガー食べながらステアリングを握るような事態も想定している、という。ただし、だからといってコーナリングが締まらないということはなく、狙ったラインを安定した姿勢でトレースしていく。
この“美しき怪物”には3モデルがあり、税込み価格はそれぞれ329万4000円、349万9200円、419万5800円。ボディサイズ、プライスともけっこう立派になったカムリだが、それを受け入れられる環境にあるユーザーには、日常の足として悪い選択ではないと思う。流行に乗ったSUVではなく、使い勝手のいいセダンを選ぶという意味も含めてね。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★☆
オススメ度:★★★★
吉田匠│モータージャーナリスト
1971年、青山学院大学卒業と同時に自動車専門誌『CAR GRAPHIC』の編集記者としてニ玄社に入社。1985年、同社を円満退社、フリーランスのモータージャーナリストとして独立。『僕の恋人がカニ目になってから』(ニ玄社)、『男は黙ってスポーツカー』『ポルシェ911全仕事』『男は笑ってスポーツセダン』(双葉社)など、著書多数。
【トヨタ カムリ 試乗】流行のSUVではなく使い勝手でセダンを選ぶ、という選択…吉田匠
2017年07月27日(木) 12時00分
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