トヨタ 豊田章男社長《撮影 池原照雄》

◆トヨタは4年連続で1兆円台

自動車メーカーが研究開発費を積極的に拡充している。経常投資である新モデル開発だけでなく、自動運転など実用化段階に入っている新技術分野への投資が膨らんできたためだ。

乗用車7社が今期2018年3月期に計画している合計額は、前期を6.8%上回る2兆8560億円となり、2期ぶりに過去最高を更新する。7社合計の今期業績は減益となるものの、「自動車産業は大変な技術変化が起きている。開発費を増やし、生き残りをかけてやるしかない」(スズキの鈴木修会長)と、生存をかけた投資に踏み込んでいく。

7社の今期計画は表に示すように、全社が積み増しをしており、このうちホンダ、スズキ、マツダ、SUBARU(スバル)の4社が最高を更新する。トヨタは小幅増だが、最高だった16年3月期(1兆0556億円)とほぼ同額。15年3月期から4年続けての1兆円超えとなっており、高原状態が続く。トヨタの今期の連結営業利益は、前期比20%減と2期連続の減益予想としているものの、「目先の利益確保を最優先するのではなく、未来への投資も安定的・継続的に進めていくという当社の意志」(豊田章男社長)を示した。

○乗用車7社の2018年3月期研究開発費
企業名 研究開発費(増加率)
トヨタ 1兆0500億円 (1.2%)
ホンダ 7500億円★(9.4%)
日産 5250億円(7.1%)
スズキ 1500億円★(14.1%)
マツダ 1400億円★(10.3%)
スバル 1340億円★(17.3%)
三菱自 1070億円(20.2%)
合計 2兆8560億円★(6.8%)
★印は過去最高額

◆今期は「意思ある減益」に

3期連続で1000億円を超え、かつ最高更新となるスバルの吉永泰之社長も「今期だけ業績の形を整えるということはせず、きちんと実力をつけていきたい」と、足元の業績より将来への種まき重視の姿勢を強調した。スバルも今期営業利益は0.2%減とわずかだが減益予想。決算発表後、株価は増益期待が高かっただけに落ち込んだが、同社は意に介していない。ここ10年ほどの急成長で「実力がついていない」(吉永社長)との認識から、今回の「減益・投資増」を、社内引き締めへのトップメッセージともしている。

研究開発費の増額分は、ほぼそのまま営業損益の減益要因となる。つまり、利益を整えようとすれば研究開発費を圧縮するのも、有効な手段となる。7社合計の今期営業利益は前期より12%減益の3兆8600億円と予想されている。この減益幅のうち、研究開発費の増加によるものが全体の3分の1強を占めている。自動車メーカーの業績は為替変動によって大きく変動するが、これは経営者の意志の届くものではない。逆に、研究開発費の増減による収益変動には意志を反映できる。その点、乗用車7社の今期業績は「意思ある減益」とも言える。

◆求められるAI、コネクティッドなどへパラダイムシフト

こうした各社の研究開発投資への方針は「自動車産業にはパラダイムシフトが求められている」(豊田社長)という現状認識に基づく。豊田社長は、シフトするための技術分野として「AI(人工知能)、自動運転、ロボティクス、コネクティッド(つながる技術)などの新しい領域が重要なカギになる」と指摘する。同社自体、16年1月にAIの開発会社であるTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)を米国に設立、当初5年間で約1000億円を投資する計画を着々と進めている。

このような自動運転やコネクティッドなどの新分野だけでなく、従来分野の柱である環境対応技術も劇的な展開が急務となっている。プラグイン・ハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)、さらに燃料電池車(FCV)といった電動化車両の量的な拡大である。さらに、自動運転技術に至る前段階の自動ブレーキや誤操作防止といった安全技術の速やかな普及も社会的使命となっている。

乗用車7社の研究開発費は、今期に最高更新となるが、それで終わりではない。「自動車史のなかで技術の次元が変わる真っただ中」(吉永社長)に入ったところなので、今後もハイレベルの投資継続が必須となるのだ。2期連続の減益といっても各社の今期の利益水準はまずまずのレベル。しかし、持続的な研究開発投資には、収益の成長力も不可欠となる。まさに「生き残りをかけた」体力勝負が始まったのだ。

トヨタの最新の自動運転実験車(レクサスLSベース。参考画像) 「TOYOTA RESEARCH INSTITUTE, INC.(TRI)」CEOのギル・プラット博士(CES16)《写真 Getty Images》 日産セレナ/プロパイロットのイメージ(参考画像) 吉永社長《撮影 池原照雄》