“筆舌に尽くしがたい”とは物書きが1番使ってはいけない表現…とどこかで読んだ覚えがある。が、新型『A5』のクーペを走らせて、そのフレーズこそ相応しいのではないか、と思った。
何てジェントルなクルマなのだろう…が第一印象。営業妨害をするつもりは毛頭ないが、何も「S5」で力まず、コチラの普通のクーペでサラッと乗りこなすだけでも十分に“粋”である。デビューしたばかりだが、スタイルと走りと味わいが完全に一体となり、このクーペの世界観を完成させている。一切のアップデートは不要に思えるほどだ。
スタイリングは先代を踏襲したもの。となればよくて化粧直し、さもなければ改悪になるケースが一般的。ところが、センシティブなサイドのキャラクターラインをもつピュアだった先代に対し、ほどよくニュアンスが加味され、いい塩梅の大人びた印象になった。新旧比較で全長+45mm、全幅ー10mm、全高とホイールベースはプラスマイナス0だが、新型のほうが長過ぎず幅広に見え、佇まいに落ち着きが出たようにも感じる。
クールで加飾に走り過ぎないインテリアも居心地がいい。ポジションを合わせると、まるで長年馴染んだ自分のクルマのよう。着座するとスルルルとシートベルトを掴みやすく前に出すガイドレバーの、高級オーディオのパーツのような精緻な動きと仕上げは感動的。
そして走り出せば、ダンピングコントロール付きスポールサスペンション(オプション)の低速からの上質でスムースな乗り味といったら! 252ps/37.7kgmのスペックを発揮する2リットルターボと7速Sトロニックの組み合わせは、たとえ運転モードを“ダイナミック”に切り替えても、クルマが牙をむくようなことはなく、アクセル操作に対し小気味よく力強さが増強される印象。
クワトロであることと、クーペボディの剛性の高さと相俟って、ワインディングでの4輪の接地感は常にバランスがよく、ステアリングを切り込むと、気持ちよくスーッとクルマが向きを変える。あくまでスムースなアクセル、ステアリング操作で走らせているときの神経を逆撫でしない気持ちのよい応答は格別で、このクルマらしい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。 便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。
【アウディ A5クーペ 試乗】なんてジェントルなクーペだろう!…島崎七生人
2017年05月25日(木) 12時00分
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