トヨタ C-HR S-T。桜の咲く栃木・渡良瀬遊水地にて。《撮影 井元康一郎》

トヨタ自動車が昨年12月に投入したCセグメントクロスオーバーSUV『C-HR』で700kmほどツーリングする機会を得た。ロングドライブと言うにはちょっと短いが、インプレッションをお届けする。

◆セリカをめざしたスペシャリティカー

C-HRは同社の主力ハイブリッドカー『プリウス』と基本コンポーネントの多くを共有する形で開発された。パワートレインは1.8リットル直4+ハイブリッドシステムのFWD(前輪駆動)と、1.2リットル直噴ガソリンターボ+CVTのAWD(4輪駆動)の2種類があり、今回テストドライブしたのは後者、ガソリンターボの「S-T」というベースグレード。

試乗ルートは首都圏および北関東一円の周遊で、総走行距離は695.7km。最遠到達地点は栃木の日光付近。おおまかな道路比率は市街路3、郊外路5、高速道路1、山岳路1。路面コンディションはドライ7、ウェット3。乗車人員は1〜5名。エアコンAUTO。

まずはインプレッションの概要から。C-HRはスペシャリティカーとしては、なかなかいい線を行く仕上がりであった。エクステリアは個人的にはいささかワル目立ちが過ぎるような気がしたが、存在感が強いのは確か。似たようなデザインのクルマが増えたなかで一風変わったモデルを欲しがる顧客のニーズをがっちりつかむだけのフォースは十分に持ち合わせているように思えた。インテリアはエクステリアほどエキセントリックではないものの良く作り込まれていた。

デザイン面だけでなく、メカニカル面の仕上がりも結構いい。ロードノイズやエンジンノイズは、静粛性が劇的に上がった今日のCセグメントクラスのなかでもきわめて低く抑えられているほうで、運転席、助手席間でごくナチュラルに会話できる。動力性能は絶対的には大したことはないが、エンジンの低回転域のトルクは豊かで、ジェントルに走るときのゆとりは十分。乗り心地も路面がよく整備された幹線道路や高速道路では同クラスのライバルをリードする良さであった。

発表直前の記者説明会で開発責任者が「かつてのセリカのようなスペシャリティカー的SUVを目指した」と語っていたが、その言葉どおり若者が2人で近場にデートに行ったり、子育てが終わった夫婦がちょっとしたお出かけに使うにはもってこいだろう。

短所は路面コンディションが悪くなると快適性が損なわれること、後席居住性が劣悪であること、荷室容量が少なすぎること、シャシー性能は十分に高いが路面のインフォメーションの伝わり方が希薄で、山岳路におけるドライブフィールが良くないこと、アイドリングストップシステムが未装備で都市走行では燃費が悪いことなど。

◆新プラットフォームの良さが活きる

では、実際のドライブシーンを交えながら、個別要素について見ていこう。

ハイブリッドカー『プリウス』に続くトヨタの新世代プラットホーム「TNGA」の第2弾モデルとして登場したC-HR。設計が新しいだけにボディ、シャシーのポテンシャルには余裕があり、その良さはいろいろなところに出ていた。

まずは高速道路や整備状況の良好な地方幹線道などにおける乗り心地で、これは文句なしに優れている。C-HRの足は上下ピッチの小さな道路の不正、たとえば舗装面がざらついたところ、カーブで減速をうながす段差舗装、平滑性が保たれている路面の補修痕などでは、突き上げ、振動とも大変よく吸収し、ほとんどすべすべに近い乗り心地だった。

装着タイヤはミシュランの「プライマシー3」。このタイヤはサイドウォールはしなやかなものの接地面が少々柔軟性に欠け、重々しいフィールになりやすいきらいがあるのだが、C-HRはそのプライマシー3を結構うまく履きこなしていた。ドライバー、パセンジャーとも快適に過ごせるであろう。

このサスペンションの動きの滑らかさがホイールの上下動が大きくなる老朽化路線でも維持されれば良かったのだが、荒れ気味の道路ではサスペンションの上下動とボディの振動の調和が崩れる傾向があった。とくにアンジュレーション(路面のうねり)が大きな道路では、乗り心地は顕著に落ちる。

ブルつくような感じはうまく抑え込んでいる半面、深く、ピッチも短いようなうねりが連続する箇所(ダンプカーなど重量車の通行量が多い路線はよくこうなる)ではホイールの上下動が突き上げ感となって伝わってくる傾向があるなど、やや雑な印象。また、片輪が路面の不整を捉えたときには、体が真横方向に揺すられるような動きが強く出る。この動きはロングドライブにおいては疲労誘発につながるので、できれば和らげたいところだ。

シャシーの絶対性能は、TNGAアーキテクチャがもともと低重心設計となっていることもあって良好だ。高速道路や普通の郊外路では何の不都合があろうはずもなく、至って平和で、安定性は高かった。刺激は薄いが、安楽にドライブすることができるだろう。

◆ハンドリングには弱点も見える

山岳路のようなハードなコースでも絶対性能の面では大きな不満はなかった。路面摩擦の低いウェットコンディションでも走りに大きな破綻はなく、欧州戦略モデルらしいところを見せた。今回、足の動きをみるルートとして足尾・日光間の険路、細尾峠を選んでいたのだが、あいにく積雪路の落石などがまだ取り除かれておらず通行不能。渡良瀬川を挟んで国道と並行する山岳路を通るにとどまったが、ほどほどに悪い道でのロードホールディングは十分で、旅の安全を十分に担保してくれるであろうと思われた。

AWD(4輪駆動)システムはFWD(前輪駆動)を基本とし、後輪に適宜トルクを与えるという簡易型だが、インパネ内の駆動力モニタの表示を信じるとすれば、後輪にも常時、最低限の駆動力がかかっているようだった。山岳路を走っているときはウェット区間を含め、とくに恩恵を感じるようなことはなかったが、発進時のスクワットや停止時のノーズダイブはトルク配分のおかげか小さめだった。

ハンドリング面の弱点は、せっかくシャシー性能を一定水準のところまで持っていったのに、クルマの素直な動きを体にどう感じさせるかというインフォメーションづくりがからっきしだったこと。クルマの動きを察知する2大ファクターはステアリングとシートだが、どちらもインフォメーションがきわめて希薄で、クルマが今、能力のどのくらいを使って走っているかが伝わってこない。

サーキット走行のように最初からコースが決まっているときはこれで不都合はまったくないだろうが、ツーリングで未知の山道を道なりに走るようなシーンでは不安感が先に立ってあまり楽しくなかった。この点はC-HRの直後に650kmほどツーリングを行った同じトヨタの『プリウスPHV』のほうがはるかに優れていた。ここが良くなればC-HRのツーリングカーとしての資質は大きく上がりそうなので、今後の熟成に期待したいところである。

パワートレインは十分に良い働きをした。1.2リットル直噴ターボの公称スペックは85kw(116ps)/5600rpm、185Nm(18.9kgm)/4000rpmと、取り立てて強力というわけではないが、実際のドライブシーンでのフィールは余裕しゃくしゃく。バイパスクルーズくらいの速度域での軽負荷巡航では、CVTは終始1200〜1300rpmくらいを保つようにマッピングされていたが、そこからスロットルを少々踏み込んでもほどんど回転が上がることなく1.4トン台のボディをずいっと加速させる。

ノーマルモードで強めの加速をするときは、スバルのチェーンドライブCVT「リニアトロニック」よろしく、2速、3速…とステップアップしていく有段変速機のような変速パターンが組まれていた。そのときの加速感も大変気持ちの良いものだった。

燃料がレギュラーというのもこのエンジンの有難いポイント。ただ、Cセグメントコンパクト『オーリス』の1.2リットルターボエンジンが同スペックでありながらハイオク仕様であることを考えると、発生トルクの大きな領域ではリッチ燃焼(ガソリンを多めに噴射して燃焼温度を下げる)の度合いが強い可能性もあり、単体では損得は判断できない。

◆運転シーンに大きく左右する燃費

燃費は走行シーンによって大きく異なる。得意なのは郊外路や高速を主体としたツーリングで、平地の大人しいクルーズでは20km/リットル弱で推移。山岳路では燃費は相応に落ちるが、その区間を元気に走った分を勘案してもロングツーリング燃費は15km/リットルくらいに収まる。クロスオーバーSUVとしては十分に納得のいく経済性だろう。

苦手なのは都市走行。アイドリングストップが未装備なため、もとより市街地燃費には期待していなかったが、それだけでなく、CVTの制御も微低速走行はあまり考慮されていないように見受けられた。

今日のクルマの多くは他のトヨタ車も含め、20〜30km/hも出ていればスロットルワーク次第で燃費がスルスルと上がっていくのだが、瞬間燃費計の挙動を観察するに、C-HRは同クラスのライバルに比べてその領域での燃料消費が多い傾向があった。東京の昼間のドライブでは簡単に10km/リットルを割り込んでしまい、夜間の空いたコンディションでも燃費はあまりあがらなかった。ここはランニングチェンジでぜひ改善してほしいところだと感じた。

◆「明確な意思」を感じるパッケージング

先進安全システム。C-HRにはミリ波レーダーと単眼カメラによる前方監視システム「トヨタセーフティセンスP」が装備されている。ステアリング制御を伴う車線維持アシストなどの機能は持たないため先進感はないが、能力的には十分に良いものだった。前車追従クルーズコントロールは車間距離を一定に保つことへの執着が強く、加減速の制御が少し不自然に感じられた。

室内は少人数でのツーリングに限れば、よく作り込まれていた。ダッシュボード、トリム、インパネの計器類など、あらゆるところがしっかりとデザインされていた。難点はコストの制約もあってか、黒基調のトリムや樹脂類の色合いが少々安っぽいことで、何となく陰気で暗い感じがする。上位グレードの「G-T」は黒一色ではなく、ワインレッドが交じった2トーンになるので、上級感を求めるカスタマーはそちらを選ぶべきだろう。

ドライブ中、気になったのは、運転席からの視界があまり良くないこと。前方から側方にかけては問題ないが、斜め後ろから真後ろが見にくい。リアドアの窓ガラス面積が小さいうえ、その半分くらいが助手席のヘッドレストで隠れてしまうため、感覚的には昔の『プレリュード』か『フェアレディZ』に乗っているような感覚であった。

後席はクーペライクなルーフラインとヘッドクリアランスを両立させるため、ヒップポイントがかなり低い。その頭の真横はガラスではなくドアトリムで、閉鎖感が強い。ラゲッジルームが狭いのも難点。ドライブ中、香港から一時帰国した友人を乗せて走ったのだが、長期旅行用のトランク1個を積むと、それだけでほとんど一杯になってしまった。

もっとも、これらパッケージングの弱点は、トヨタが漫然とクルマを作った結果こうなったのではなく、C-HRをクーペライクなスペシャリティSUVに仕立てようという明確な意思のもとで作り上げられたがゆえのこと。最近の他のトヨタ車でもよく見られるようになった意図的な“ハズシ”であって、スタイリングとのトレードオフは、それはそれで十分にありだ。広さにこだわるのであれば、他のモデルを選べばいいだけの話で、その存在意義は外野がとやかく言うモノではなかろう。

◆ある種のノリで買うクルマ

まとめに入る。C-HRは、実用車としてみるならば、パッケージングが万能性を欠いていたり、乗り心地やドライブフィールもオールラウンダーとして褒められるようなものではないなど、欠点もそれなりに目立つクルマだ。が、トヨタの開発陣が言うように、C-HRはスタイリッシュさ重視のスペシャリティカー狙い。大真面目に選ぶのではなく、ある種のノリで買うクルマである。リアドアを持つ2+2のクーペSUVと考えれば、それらは決定的な弱点ではない。このスタイリングに惹かれるというカスタマーにとってはモロに買いのモデルと言える。操縦性がプリウスPHVくらいシュアなものになれば、ツアラーとしてのおススメ度ももっと上がるであろう。

日本ではすでに相当の人気を博しているC-HRだが、欧州でもクロスオーバーSUVは通常のセダンやハッチバックと違って基本性能一辺倒で選ばれるわけではなく、かの地でもこのキャラの強さは一定の支持を集めるのではないか。

ライバルとなりそうなのはノンプレミアムコンパクトクラスのクロスオーバーSUVでスペシャリティ色の濃いモデル。日本市場ではプジョー『3008』、シトロエン『DS 4』、フィアット『500X』あたりであろう。国産車では同格のライバルが少なく、1クラス下のホンダ『ヴェゼル』やマツダ『CX-3』が一部かち合うくらいか。

横顔。極端に切れ長の目が特徴的。《撮影 井元康一郎》 トヨタ C-HR《撮影 井元康一郎》 渡良瀬渓谷にて。良路での快適性はこういう道では失われる。《撮影 井元康一郎》 渡良瀬渓谷にて。スタイリングはマッシブで凝縮感もある。《撮影 井元康一郎》 群馬〜栃木県境の細尾峠にて。《撮影 井元康一郎》 群馬〜栃木県境の細尾峠にて。冬季の落石の片付けなどが終わっておらず、途中で引き返した。《撮影 井元康一郎》 側面をたる型にして空気を整流することを狙ったものと思われる造形。力強さが感じられる。《撮影 井元康一郎》 リアドアのハンドルの取り付け位置はかなり高かった。《撮影 井元康一郎》 C-HRのフロントグリル《撮影 井元康一郎》 リアガラスの傾斜角は強い。ユーティリティに引きずられずデザイン優先を貫いた潔さはスペシャリティモデルらしい。《撮影 井元康一郎》 デザイン優先ゆえ後席の居住性は悪い。ヘッドクリアランスを稼ぐためにヒップポイントがかなり下げられているうえ、頭の横が壁になっており、閉じ込められているような感覚。《撮影 井元康一郎》 前席からの斜め後方〜後方にかけての視界も良くなかったが、クーペと思えば大いにあり。《撮影 井元康一郎》 デザインテーマはひし形。内外装の随所にひし形があしらわれていた。《撮影 井元康一郎》 サイドシルのスカッフにもひし形が。《撮影 井元康一郎》 総走行距離695.7km。印象としては短・中距離ドライブに向いていそうだった。《撮影 井元康一郎》