渡邉 浩之ITS Japan会長《撮影 アールフォト 板津亮》

「ITS世界会議 東京2013」の開幕がいよいよ10月14日に迫った。日本での開催は1995年の横浜、2004年の名古屋に次いで3回目となる。

ITS世界会議といえば専門家の会議という印象だが、今回は研究者だけでなく市民に対して開かれた会議になるという。そこでこの会議のメインテーマやITSの現状をITS Japanの渡邉 浩之会長に聞いた。


◆自動運転とビッグデータがこれからの鍵

渡邉 浩之ITS Japan会長(以下敬称略):日本では70年代に年間1万6000人以上の死者を出して、交通戦争と言われたが、今では5000人以下にまで改善された。 しかし今、全世界で事故によりまだ年間100万人近い人が命を落としている。WHOが出した死因ワーストテンでは1位が心臓病で9位に陸上交通が入っている。しかも自動車の普及により2030年には5位に上がるとされている。

----:自動車が普及するにつれ負の要素も拡大する。事故だけでなく新興国の大都市では排気ガスの問題、地球全体としても温暖化ガスが問題視されています。

渡邉:このような自動車の価値を失う事故や環境などに対応して、自動車や道路交通はどのように進化すべきか。その答えのひとつが自動運転、つまり運転サポート技術。そしてもうひとつが先の震災で現実に活用されたビッグデータ。環境、事故、渋滞、高齢化社会、そうした課題解決のキーが自動運転技術とビッグデータ活用にある。今回の「第20回 ITS世界会議 東京2013」はそこにフォーカスする。

----:2020年の夏季オリンピック開催が東京に決まったことにより、東京の交通体系がより注目されることになりました。

渡邉:今回の会議では、都市化が進む世界のメガシティにおいて、交通体系の見本は東京であるということを大きく発信したい。

急速に発展する地域アジアの中にあって、関東圏は国としてみても世界7位のGDPであり、それは韓国全体より多く、3600万人という人口はオーストラリアより大きい。それでいて渋滞はわずかしかなく、交通はスムーズで死亡事故が少ない。同じアジアのメガシティであるバンコクや上海より交通事情がいいのは、電車や地下鉄、バスや物流、自家用車など道路交通、そしてラストワンマイルの徒歩が複層レイヤーとして整備され発達しているからだ。

2020年に向けてモデル都市の東京が目指すところは、理想的な交通体系、つまりこれらのレイヤーをITSの技術により立体的に有機的に絡みあう複合交通・マルチモーダル社会をつくろうということにある。


◆急速に発展するアジアのメガシティ、その交通体系の見本は東京

----:都市機能の発展とインフラの効率化をITSが担うということですね。

渡邉:それがITS Japanの基本的な考え方。 理想的な交通体系は欧州の小さな街だったら簡単に作れる。しかし爆発的に発展しているアジアの都市が、今直面してる問題を解決できるモデルになるのは東京しかない。

そこでインフラの効率整備や安全な運用においてビッグデータの活用がキーになってくる。たとえば急ブレーキが踏まれた情報がアップされればそこで何かが起こっているのがわかる。これがビッグデータ。

またある地域におけるクルマによるCO2の増減はテレマティクスを使ってどれだけ燃料噴射したかをデータセンターに上げることでわかる。

ビッグデータが活用される変化はそれだけではない。皆が人の命を救うために、CO2削減のために自分のデータを提供する社会の到来を意味する。 車々間通信で緊急通報もできるようになると、自分の行動によって人の命を救えるようになる。クルマの通信が当り前になり、ヒューマン・マシーン・インターフェイスを見える化することで皆がエコで安全な運転をするようになる。

それを私はヒューマン・ソサエティ・インターフェイス(HSI)と名づけた。

間接民主主義のこの世の中で、自分の行動が社会とどう結びついているかがわかり、自分が社会的課題の解決に参画することを知ると、それは大きな生きがいにもなる。安倍総理の言葉を借りると「ITSムーブメントが世界に広がる、その元年が2013年かもしれない」ということになる。


◆自動運転技術普及のための基盤づくりに日本は貢献したい

----:公共交通と道路交通の進化にビッグデータによる市民の参加意識が影響するという街は画期的ですね。では都市や社会が変化する中、クルマはどう進化すべきでしょうか。

渡邉:今、何が起ころうとしているか。今後ITSや自動運転技術がもたらす世界は、馬車から自動車に変わった時に匹敵するインパクトを与える。 現在は健常者が享受できるクルマ社会。しかし昔、馬は老人でも子供でも乗れた。

「誰もが乗れる」が自動運転のポイント。また、馬ならとなりと話をしながらでも乗れた。がクルマはドアを閉めたらコミュニケーションが取りにくい。これもITS技術の車々間通信によって繋がることがもっと違う社会を生むかもしれない。

----:自動運転の普及において、社会のコンセンサスをどのように作り上げますか。

渡邉:コンセンサスが足りないというのはその通り。自動車会社の間でも混乱があり、専門家の間でもきちっとできていない。誤解もある。まして一般には伝わっていない。「自動運転だから寝ていてもいい」ということでは事故が起きてしまう。

自動運転やビッグデータは世界中で意義を共有し連携しないといけない。クルマは一国だけのものではなく世界的な商品だから。コンセンサスを整え、今後は標準化された基盤の上で皆が競争できるようにしたい。それは産業のあり方を全く変える。これまでは基盤以前で競争していたが、そんなことを続けていたらクルマはまた売れなくなってしまう。クルマのサスティナビリティを確保しないといけない。

今回東京では、独自の展開をしているグーグルもエクゼクティブセッションに出てくる。GM、フォード、ボルボ、BMWといった自動車メーカーはもちろん、エリクソン、シスコ、IBMといったIT企業もたくさん参加する。

また専門家だけでなく市民にも理解してもらえる会議を目指している。無料で市民トークショーを開き、10月14日には運転支援システムという命題で、世界の技術トップが市民のいるところでディスカッションする。他にも様々なトークショー、300コマの展示を無料で見られ、駐車場を使っての自動運転先進安全装備も体感できる。

さらに一部のクルマは公道に出て、運転支援システムで走る。こうしたことは、クルマとインフラが変わるので市民も変わらなくてはならない、ということのアピールでもある。クルマが登場した127年前と同じように、新しい技術の登場で運転者も変わっていく必要があるのだから。

日本の技術は世界より5年先行してる。つまり日本が世界に貢献できる。交通事故をなくそう、複層レイヤーを有機的に連携しようという新しい技術を普及させることで、日本が世界にITSムーブメントを起こすのです。


渡邉 浩之(わたなべ・ひろゆき) 1967年九州大学大学院工学研究科卒、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。86年7代目クラウン・チーフエンジニアに就任。96年取締役、05年技監(現職)。09年豊田章一郎氏を引き継いでITSJapan会長に就任。


《インタビュアー:水野誠志朗@DAYS/三浦和也(レスポンス編集長)》

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