電池の専門家として、会見後に詳細を解説してくれたのが、三菱自動車工業株式会社 開発本部 EV要素研究部 担当部長(電池技術) 原口和典 氏であった

◆バッテリーパックの火災を含む4件のトラブル

8月9日、三菱自動車によるジャーナリスト向けの「アウトランダーPHEVリコール経緯」に関する説明会が開催された。

まずは、騒動の成り行きを振り返りたい。騒動は3月27日に三菱による「水島製作所における電気自動車用バッテリーパックの火災について」というリリースから始まった。

3月18日、岡山県倉敷市にある同社の電気自動車用バッテリーパック組立工場である水島製作所においてバッテリーパック1個が検査工程の中で発火した。また、同27日には「3月20日にアウトランダーPHEVのリチウムイオン電池の電池セルおよび駆動用バッテリーパックの一部が溶損」というリリースも発表。三菱は、これをリコールとして、『アウトランダーPHEV』の生産を停止させ、原因解明に乗り出した。そして6月に原因を確定、すでに生産済みであったアウトランダーPHEV(約4000台)のほとんどは電池交換を済ませたという。


◆不具合の原因は新しく導入された検査工程にあった

不具合の調査は、三菱自動車と電池を製造するリチウム・エナジー・ジャパン社(以下LEJ社)、その親会社であるGSユアサの3社によって行われた。その調査で原因として特定されたのが2012年11月に導入したばかりの新たな「スクリーニング工程」であった。

スクリーニング工程とは、完成した電池に様々な方向から振動を与えることで、異物の混入した電池を洗い出すもの。この工程が新規に追加されたのは、すでに発売されている電気自動車「i-MiEV」でいくつか発生していた電池の製品不良(満充電できなくなる)を防ぐのが目的だ。製品不良の原因は、製造工程中の電池内への異物混入であったからだ。

しかし三菱では、このスクリーニング工程を完全自動化できず、手作業で行われることになった。ちなみに、LEJ社による同リチウムイオン電池の生産は、同工程以外は、すべて自動化されていた。

ここでふたつのミスが発生した。ひとつは振動を与える検査機の強さの設定を誤り、既定値の数倍の力を加えてしまったということ。これにより電池内の負極板の一部が剥離、内部の微小短絡を発生させてしまったという。

そしてもうひとつのミスが電池の落下であった。1個の電池セルの大きさは、VHSビデオ程度で、重さは約1kgだという。それを手作業で測定機器に入れたりする中で落下させたというのだ。落下自体は、数十件発生しており、そのほとんどが取り除かれたが、わずかな数が、そのまま製造ラインに残り、製品になってしまったという。落としたのは約1.1mの高さからで、床はコンクリート。調査の中で測定したところ、落下によって電池セルには400〜500Gもの力が加わるという。これにより電池内で正極材と負極材をわけるセパレーターが傷み、その後の販売店による充電によって内部ショート=電池の一部溶損等が発生してしまったのだ。「アウトランダーPHEV」の電池の筐体が丈夫なステンレス製であり、落下により外観上の傷がつきにくかったことも、問題ある電池が製造ラインから取り除かれなかった一因でもあったという。

ちなみに、電気自動車などにリチウムイオン電池を搭載するときは、交通事故による衝撃に耐えることが求められる。しかし、三菱自動車によるテストによると、時速55kmによるフルラップ前面衝突時にかかる搭載電池への衝撃は約53G。時速50kmでのフルラップ後面衝突でも約32G。つまり、約1.1mの高さからコンクリート床へ電池を落とす衝撃度は、車両搭載時の衝突実験の6倍以上もの大きなものであったのだ。

また、水島工場内で発生した電池パックの火災の原因も落下による内部ショートであった。検査工程の作業性向上のために実車搭載時には密閉されるパックのフタを開けていたため、密閉状態の実車であれば加熱・発煙で済むところを、空気が流入したため、火災にまで事態が悪化してしまったのだ。


◆ヒューマンエラーを防ぐため工程をカット

調査の結果、原因はヒューマンエラーにあった。製品不良を減らすために追加した工程が逆に足を引っ張ってしまったという、なんとも皮肉な騒動であったのだ。

そこで三菱とLEJ社は、いくつかの再発防止策を導入した。まずは、問題を引き起こした「スクリーニング工程」を廃止。製造ラインに人の手が介在しないようにした。また、運搬などの作業をビデオで監視することに。万一の落下があれば、すぐに分かるようにしたのだ。また、そもそもの課題であった異物混入による製品不良を減らすために、製造スペースにおける集塵機能を強化。空気中のチリなどを減らすことで電池への異物混入を減らす。そして、完成後に行う異物混入判定のための観察時間を、従来の6日から2倍となる12日に延長。これにより判定の精度を高めて、製品不良を減らそうというのだ。

また、製造現場の安全性向上のために、燃えた電池を消火するためのプールも新規に用意された。水没させて酸素から遮断することで電池を鎮火させるためだ。

今回の騒動は結果的に、3月18日の水島製作所での火災を頭に、3月21日、3月23日、3月27日という3件の販売店での不具合、つまり合計4件のトラブルで収束した。1件が工場で、3件が販売店での発生であり、ユーザーの元でのトラブルはゼロ。人的被害の発生もゼロということで、ギリギリのラインで踏みとどまった。

アウトランダーPHEVは、この夏の夏季休暇後から生産を再開させるという。

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