VW・up!《撮影者 松下宏》

『up!』はフォルクスワーゲンが気合いを入れて開発した新しいコンパクトカーで、いろいろな意味でとても良くできたクルマであると同時に、欠点もいろいろ合わせ持つ。良い意味でも悪い意味でも特徴的で印象的なクルマである。

外観デザインは明快な個性が表現されている。フロントグリルにちょっとクセがあるものの、単なるコンパクトカーにとどまらない存在感を持つ。鉄板をむき出しにした部分もあるシンプルなインテリアは、今の日本車では軽自動車でも珍しいくらいである。

ボディの幅や高さは『マーチ』や『ミラージュ』とほぼ同じだが、全長はミラージュよりも150mm以上、マーチと比べたら200mm以上短い。ホイールベースも2車に比べて30mm短く、とてもコンパクトなクルマであることが分かる。

up!はボディ骨格がしっかり作られているので、サイドシルが太い。そのことやドアの開口部自体が余り大きくないことと合わせ、2ドアだけでなく4ドアでも後席への乗降性は良くない。乗ってしまえばそこそこの広さがあるが、幼児や老人などは乗り降りするのが大変だ。

ただ、このしっかりしたボディが、後述する走りの安定感や乗り心地の良さにつながっている。ボディをしっかり作ることが大切というクルマ作りの基本に忠実なクルマだ。

使い勝手の面でも左右のパワーウインドーのスイッチがそれぞれのドアに設けられているため、運転席から左側のパワーウインドーを操作するのが難しい。また左右のリヤウインドーは、2ドア車では全く開かないいわゆる“はめ殺し”の状態で、4ドア車でも上下には開かずわずかに隙間が開くだけだ。

走りに関しては、まずエンジンのデキが相当に良い。3気筒エンジンはとかく振動が出やすいが、up!の3気筒エンジンはそれが良く抑えられていて不快な振動は感じない。

55kW/95N・mの動力性能もup!のボディに対して十分に見合ったもので、けっこう元気良く軽快に走らせることができる。

フットワークもなかなか軽快だ。ワインディングをイメージしながら首都高の都心環状線を走らせても、すいすいと気持ち良く駆け抜けていける。しっかり仕事をする足回りの良さはフォルクスワーゲンなどの欧州車ならではの部分である。剛性感の高いボディによって、低速域での乗り心地の良さも確保されている。

ASGと呼ぶセミATのトランスミッションは何とも物足りない。変速時にトルク抜けの症状が出るのが大きな難点で、負荷のかかる登り坂などで急に加速しようと思ったときなど、そのままエンストするのではないかと思うくらいにアクセルレスポンスが返ってこない状況が生じることもある。

普通にアクセルを踏み込んで加速していくときも、ギアが切り換わるごとにトルクが抜けるので、これに慣れることが要求される。

up!でもうひとつ素晴らしいのは、シティ・エマージェンシーブレーキと呼ぶ低速域での追突軽減ブレーキが全車に標準装備されていることだ。もちろん横滑り防止装置のESPも全車に標準である。

今年発売されたミラージュや『ノート』などが、わずかなタイム差で規制をかいくぐって横滑り防止装置を標準装備せずに発売したのに比べると、安全なクルマ作りという志の違いがはっきりしている。

up!のシティ・エマージェンシーブレーキは欧州でもオプション設定だったりするから、日本で標準装備にするのはフォルクスワーゲンの商売の仕方であるのだが、安全装備で手抜きする日産や三菱よりもずっとカッコ良い商売の仕方といえる。日本人としては情けなく思うと同時に、悔しい限りである。

追突軽減ブレーキやESPなど最新の安全装備を標準で備えながら150万円を切る価格を設定した2ドアのmove up!は、国産のコンパクトカーだけでなく、軽自動車とも競合するくらいに割安な価格設定といえる。

フォルクスワーゲンとしては2ドア車ばかりが売れることを望んではいないようだが、どうせ一人か二人しか乗らないのだから、リーズナブルな価格設定の2ドアが断然お勧めである。

松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。

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