スズキ・ワゴンR FXリミテッド《撮影 太宰吉崇》

2012-2013年のCOTYでは、私はフルマーク(10点)をスズキ『ワゴンR』/『ワゴンRスティングレー』とした。

ここで「-2013年」と年時を記したのには多少のワケがある。このモデルは代を重ねて今回が5代目だが、初代のデビューは1993年の秋だった。今回は同車にとって、ハタチの記念イヤーでもあるのだ。

11月22日の投票日に、私が「ワゴンR/10点」の理由として記したコメントは、以下のようなものだった。


ーー「継承型」のモデルチェンジで、やや目立たないが、しかし内容は充実。今回は、同車史上、最も軽快かつシュアな挙動のモデルに仕上がり、省燃費への独自の提案も盛り込まれている。何より、1993年のデビュー以降、小型車の"パッケージング革命"の先頭に立ち続けた歴史は重い。その20年へのリスペクトもこめて、拍手とともに、2012年のイヤーカーに推すーー。


これに付け加えることは、あまりない。ただ、"パッケージング革命"という(私の勝手な)造語については、若干の解説風のメモが必要かもしれない。

"パッケージング"とは、クルマ(車室)が人(乗員)をどう包むか。クルマの中に、人がどのように収まるのか。そこから、どういうパッケージングなら、人の身体にやさしくなるのかということにつながる。要するに、日常的にクルマと接するときに、人体にストレスを与えず、乗りやすく、かつ使いやすいクルマの格好って、どういうものなんだろうということ。

この場合、クルマのハイト(全高)よりも重要なことがあり、それが「着座位置」である。座面は、地上からどのくらいの高さにあると、身体に与えるストレスが減るか。業界の設計用語では、これを「ヒップポイント(HP)」というが、初代のワゴンRは、それまでの乗用車の常識を果敢に打ち破り、これを「620ミリ」とした。

この新パッケージング(高いヒップポイント)の提案は、その後の軽自動車を劇的に変えた。これ以後、量販をめざす軽自動車はすべて"ワゴンRみたいな格好"になった。軽自動車のみならず、90年代後半以降のコンパクト車もこの影響を逃れることはなく、「HP600ミリ前後」の乗用車が各社から出現した。律儀なスズキはその後、自社の小型車である『SX-4』や『スプラッシュ』を、ワゴンRと同じHPに設定した(『スイフト』は例外)。

いいデザインや、こうすれば速くなるというアイデアがあって、それをカタチにしたクルマに、人が嬉々として乗り込む。(たとえば、フォーミュラのコクピットに潜り込む!)そうやって"いいクルマに、人の側が合わせる"のがクルマの楽しみなのだ……という意見が存在することは、私も知っているし、それを否定はしない。

しかしそれ以上に、人の生活を豊かにするものとしてクルマがあるのなら、人との「融和性」も、さらに深く探索されるべきであろうと考える。それがさらに究められたとき、クルマは"人類の友"として、これからも大切にされていくはず。……とは、まあ、ちょっとオーバーだけど(笑)。でも、私が「新パッケージング」にこだわって、クルマ世界をウォッチしているユエンは、こういう部分なのです。そして、この提案が、日本市場ならびに日本自動車界からの世界に向けての発信であることにも、ある種の喜びを感じていたりしますーー。


さて、今年の配点だが、ワゴンR以外は、以下のようにした。

10点:スズキ『ワゴンR』/『ワゴンRスティングレー』 
8点:マツダ『CX-5』
3点:レンジローバー『イヴォーク』
2点:日産『ノート』
2点:シトロエン『DS5』

……あ、ここに記したのは当初の予定で、10台を集めての最終選考(この日に投票)の際に、レンジローバーからの提案をより高く評価したくなり、同車を4点に変更し、CX-5を7点とした。他の3台はこのままである。

ワゴンRも含めて、この5台に共通するキーワードは"新提案"である。この視座からすると、BMW『3シリーズ』もトヨタ『86』/スバル『BRZ』も、ともに「提案性」が高くない。フォルクスワーゲン『up!』もまた、期待していたほどには、パッケージング面での新しさはなかった。

また、スバルとトヨタのこの2機種について言うと、2つのモデルの足は、BRZ仕様で共通にしておくべきだったと強く思う。現行86のような"敏感な"足は、市販の標準車とは別に、TRDバージョンなどとして設定すべきではなかったか。

家村浩明|ライター&自動車ジャーナーリスト
1947年、長崎生まれ。カー雑誌やムックなどの編集を経て、1983年頃よりクルマ関連を中心に執筆活動をはじめる。クルマは“時代を映す鏡”として興味深いというのが持論で、歴史や新型車、モータースポーツとその関心は広い。市販車では、近年の「パッケージング」の変化に大いに注目。
日本メーカーが日常使用のための自動車について、そのカタチ、人とクルマの関わりや“接触面”を新しくして、世界に提案していると捉えている。
著書に『自動車コラム大全1984〜1989』『最速GT−R物語』『プリウスという夢』(以上、双葉社)『ル・マンへ……』など。大久保力氏の著作『百年のマン島』(2008年・三栄書房)には編集者として関わった。

スズキ・ワゴンR FXリミテッド《撮影 太宰吉崇》 スズキ・ワゴンR FXリミテッド《撮影 太宰吉崇》 スズキ・ワゴンRスティングレー《撮影 太宰吉崇》 スズキ・ワゴンRスティングレー《撮影 太宰吉崇》 スズキ・ワゴンRスティングレー《撮影 太宰吉崇》