レクサス・LS600h version L

米国でのフェイスリフトモデル発表から2カ月余り、満を持して日本での正式発表が行われた最高級車レクサス『LS』。外観のみに限っていえば、普通の人はこのフロントを見てすぐに何を思い出すだろうか。

あのSTAR WARSに出てくるダース・ヴェーダーのマスク?短絡的な発想で申し訳ないが正直にいうと私は最初にそれを連想した(もっといえばプレデターも思い出すが、それはあまりにも例が悪すぎる)。


◆家の門構えに相当するフロントマスク

外国のメディアでは砂時計型と好意的に呼んでいるものもあるが、スピンドルとは糸巻きのことで、真ん中がくびれているのでそう呼ぶ事にしたのだろう。クルマのフロントといえば家なら正面玄関で、その家の品格はほとんどそこで決まる。

洋の東西を問わず人は昔から富や名声、あるいは社会的地位を誇示するために、その門構えには大変気を配ってきた。そう考えると、数あるトヨタの製品を代表する最上級車のフロントマスクがこれで良かったのか、という疑問がまず最初にくる。つまり、これ以外にないのだという絶対的な説得力が迫ってこないのだ。


◆Happy Face と Sad Face

短絡的な発想というのは、聞こえは悪いが実はファーストインプレッションであって、人間同士でも初対面の印象はその後の交際にも大きく影響する。人の顔には2種類あって、Happy Face と Sad Faceに分かれる。単にそのときどきの顔の表情ではなくて、基本的にその人の顔が持つ「相」というもので、遺伝によるところが大きいがその人の精神状態とか、世の中に対する姿勢とかがそれを形作る。そしてそれはそのままクルマにも当てはまるのだ。

マツダのクルマは笑い過ぎだとか、ホンダはその真面目すぎる顔つきに威厳をもたせようと、光り物に頼りすぎていないか。アウディがシングルグリルにしたときは衝撃的だったが、そのデザインを継承しつつ、最近はそのインパクトを和らげる方向のようだとか。案外直裁的な印象は正直で、そのままそれが一般の理解として定着してしまうので無視できない。


◆前後のデザインバランスに違和感

LSの設計主任は、このフロントデザインを『存在感と個性の発露』と表現したが、確かに存在感は強烈だ。だが個性となるとそれがSad Faceの側に寄る印象は否めない。他の例を挙げると、押し出しの強さで何かと話題になるメルセデスは、その点Happy Faceでは決してないが、陰気と陽気の微妙なバランスを保ったフロントデザインで、多くの顧客が求める「威厳」を保ちながら、人を不快にさせる一歩手前を落としどころにしていて、むしろ秀逸でサステイナブルなデザインだといえる。そこがデザイン文化の奥深さなのだろう。

LSでもうひとつ不思議なのは、ボディのサイドや後ろに回ってみると、その堂々たるボディサイズのためか、まったく普通のエレガントでおとなしい高級車に見え、とくにリアエンドのデザインからは、このクルマにあのフロントが付いているとは到底思えない。つまり一台のクルマを彫刻的な固まりとして捉えると、ちぐはぐな印象だけが残ってしまう。


白井順二|建築家/アーバンデザイナー
1938年生まれ、アメリカに30年居住、その間インドに1年、サウジアラビアに2年、大学で教鞭をとる。赤坂のアークヒルズ外構設計、シンガポール高島屋設計担当、大阪梅田北ヤードコンペ優勝、海外での環境問題の講演多数。クルマのメカニズムや運転が趣味で『カーグラフィック』誌などに寄稿多数。A級国内競技ライセンス所持。クルマでの北米大陸、インド、ヨーロッパ全域のドライブ数万キロ。

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