◆日本企業固有のハンディに

日本の製造業は、国内で「6重苦」と表現される経営環境に置かれているが、海外オペレーションでも新たな苦境が台頭してきた。日系のエレクトロニクス工場や自動車ディーラーなどが襲撃に遭った中国である。だが、日本企業は何としてもこの試練を乗り越えねばならない。単に巨大市場というだけでなく、産業界は経済の強固なつながりを築くことで、政治の機能不良を補うこともできるからだ。

いま表面化している事象の背景には、日中間の歴史があり、欧米や韓国の企業にはない日本企業固有の苦境といえる。ただでさえ舵取りが難しい中国でのビジネスで、日本企業は第3国のライバル社に対しハンディを背負う格好だ。

もっとも、中国の対日感情を冷静に見る眼も必要となる。暴徒と化して日系企業の施設や車両を破壊し、略奪する輩には憤懣が募るものの、そうした行動が中国人のメンタリティーを代表するものではない。首相官邸周辺で反原発のデモを行う人々の意見が、原発に対する日本人の部分的な見解にしか過ぎないのと同じである。ましてや中国は、デモすらも政府によって一定の制御ができる国なのである。

◆「新エネ車」の普及に欠かせない日本車の技術

自動車産業についていえば、中国政府が今年策定した電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)など「新エネルギー車」の普及計画を遂行するうえで、世界で先行する日本企業の環境対応技術は不可欠な存在となっている。

このため、日本企業と合弁を組む中国パートナーが、日本側からの技術移転を求める姿勢はとみに強まっている。ある日本メーカーの関係者によると、合弁会社では技術移転をめぐる日中の意見対立はごく普通であり、中国人スタッフからは「あなたは(母体の日本企業、または合弁企業の)どちらの人間なんだ」と迫られるのだという。

愉快とはいえない職場だろうが、裏を返せば日本企業の技術は無視できないということだ。中国の自動車市場では、VW(フォルクスワーゲン)やGM(ゼネラルモーターズ)の存在が大きいのは事実だが、乗用車では日系ブランド合計で約2割のシェアを占めている。個々の消費者レベルの支持は決して小さいものではない。

◆近くて遠い隣国との距離を縮めるには

中国人デモ隊の破壊行為を映像で見ていて、スケールはまったく異なるものの、1980年代初頭に米国の労働者が日本製の乗用車やラジカセをハンマーで破壊していたシーンと2重写しになった。当時の日本製品は「失業の輸出」として敵視され、米国では真珠湾攻撃に重ねる向きもあった。

日本車はその後、81年度から乗用車の輸出自主規制(93年度まで継続)を行うとともに、各社による現地生産へとシフトしていった。その結果、日本車は米ビッグ3の合計に匹敵するシェアを獲得するとともに、販売網を含む関連企業は雇用創出に寄与して、米国経済にしっかりと組み込まれた存在となった。そこに至るには自動車産業に従事した先人たちの、決して諦めない姿勢があった。

米中の政治・経済体制は大きく異なるし、同様の境地に至るのは容易ではない。だが、産業界は不便やハンディはあっても、不退転で臨むことだろう。とりわけ、自動車をはじめとした消費財メーカーは、製品を通じて個々人と緊密な接点を築くことができる。近くて遠い隣国との距離を縮める役目には重いものがある。