トヨタ自動車 e-TOYOTA部 テレマティクス事業室の松岡秀治氏《撮影 北島友和》

カーナビゲーションは大きなトレンドの変化を迎えつつある。スマートフォンのアプリを車載ハードウェアで操作できるいわゆる「ディスプレイオーディオ」がこの夏、各社から相次いで発売された。トヨタからもディーラーオプションとして「DAN-W62」が登場した。

テレマティクスの新たな潮流が動き出そうとしている今、その取り組みについてe-TOYOTA部 テレマティクス事業室の松岡秀治氏に話を聞いた。


◆スマホと車載器の連携は、smart G-BOOK企画当初からの目標だった

----:2012年のディーラーオプションの新製品とした登場した「スマホナビ対応ディスプレイ(DAN-W62)」に、smart G-BOOKがさっそく対応しました。まずこの車載器とスマートフォンとの連携について、お話をお聞かせください。

松岡:この「スマホナビ対応ディスプレイ」は、いわゆるディスプレイオーディオと呼ばれるもので、当社から提供するiPhone向けアプリ 「AppCarConnect」を通じて、「smart G-BOOK」や音楽配信の「AUPEO!」などが車載ディスプレイ上で利用可能になるというものです。

----:ナビアプリについては「G-BOOK全力案内ナビ」「NAVIeite」に対応しました。

松岡:いずれも有料アプリですが、スマートフォン内蔵のものではなく車載器側に搭載したGPSを用いたり車速パルスにも対応していますので、自車位置精度という点ではかなり優れたものになっています。

----:いちはやくスマートフォン連携を実現した理由は。

松岡:スマートフォン単体での利用は画面が小さくて見にくく、運転中注視の危険性もあり、ドライバーが安全に利用することができません。トヨタがスマホナビ対応ディスプレイの開発や、そこに向けたタイプのテレマティクスサービスを提供していく目的は、車の中でスマートフォンを安全、快適に利用していただきたかったということです。

ディスプレイオーディオへの対応は、数年前のsmart G-BOOKの企画当初から目標としてありました。2012年に入り、3月にタイ、6月ではここ日本と、実際に製品として提供に辿りつけたことは非常に感慨深いです。


◆カーナビから徒歩ナビへシームレスに移行

----:今後のバージョンアップの予定と目指す進化の方向性に関して教えてください。

松岡:まずは近日提供予定の新機能からご紹介します。例えば、目的地を設定し近隣に車を停め、徒歩で最終目的地に向かうというシチュエーションがあるとします。そうした場合、徒歩で移動する際に徒歩ナビに切り替えるという機能です。

----:カーナビから徒歩ナビへの切替はどのタイミングでおこなうのでしょうか。

松岡:今回の新機能では、ディスプレイオーディオの電源がOFFにされ、接続が切れたということがスマートフォン側で判別し、徒歩ナビに切り替えますか?」とメッセージを表示しそのまま徒歩ナビモードに切り替わるというマルチモーダルな機能となります。

----:徒歩ナビに切り替わる判定は距離で行うのですか。

松岡:はい。目的地から2km以上離れていますと、車モードのままで、目的地まで2km以内で車最近の電源を切ると、切り替えるか聞いてきます。2kmと いう設定は、一時的に停まる、目的地に向かう途中でコンビニに立ち寄るというように、最終目的地ではないという状況を想定しています。

----:確かに2kmは歩きたくないですね(笑)。この徒歩ナビへの自動切り替え機能はスマホナビ対応ディスプレイ専用の機能でしょうか。

松岡:そうですね。ただ、ディスプレイを持っていらっしゃらなくても、車内ではスマートフォンを給電する方が多いかと思います。その給電がOFFになった場合でも切り替える、という機能は今後実装したいと思います。


----:スマホナビ対応ディスプレイはAndroid端末にも対応しているんでしょうか。

松岡:AppCarConnectは現状iPhoneへの対応のみです。Androidにつきましては、連携に関する仕様がある程度見えてきたら、取り組むという予定です。


◆プローブの相互活用でより高精度なナビゲーションを


松岡:一方、アプリではなくサーバ側の機能追加となりますが、今年の秋頃に具体化しようとしている追加機能としてトヨタのプローブ交通情報をG-BOOK全力案内へのアドオンとして配信することも考えています。


----:それは元々あったG-BOOK全力案内のプローブ情報と合体させるということでしょうか。

松岡:その通りです。G-BOOK全力案内には、従来からタクシープローブ、オプションでVICS情報の追加、という構成になっており、そこにトヨタのプローブを加えるという形になります。

----:トヨタが持つG-BookやG-Linkのプローブデータを追加し、アルゴリズムはG-BOOK全力案内のものを使用するということになると、市街地中心のタクシーだけでなく行楽地などの情報も付加されて、データが一気に充実しますね。

松岡:タクシープローブ自体も現在は全国ではなく政令指定都市を中心とした一部都市になっているので、トヨタプローブの追加でカバーする地域が広がるのではないかと考えています。

----:プローブについては全力案内ナビを提供する野村総研と協業をしていますし、AppCarConnectではアイシンAWのナビアプリであるNAVIeliteを立ち上げる機能もありますが、今後こうした協業先がさらに増えていく可能性はあるのでしょうか。

松岡:元々テレマティクス機能と、ナビ機能を分けて設計しているのは、まさにそのポイントを考慮したもので、パートナーになって頂けるところは、積極的に広げていきたいと考えています。

----:ホンダが「インターナビポケット」としてカーメーカーが自らナビアプリを提供する例もでていますが、トヨタとしては純正アプリの制作の可能性はあるのでしょうか。

松岡:次期のiOS 6では、標準でナビ機能が無料で搭載されると聞きますし、今後無料ナビが増えてくると考えた時、それらを視野に入れる必要があり、独自の価値を持ったテレマ+ナビを提供していきたいですね。そこで、独自でアプリを制作したほうが良いとなれば作りますし、現状のようなパートナー戦略でやっていけると判断した場合は続けるという姿勢です。


◆情報プッシュとオペレーターの連携

松岡:もう少し先のお話をすると、走行中に周辺情報をプッシュできるようにしたいと考えています。トヨタはドライバーアプリを色々制作してますし、ドライブ中におすすめスポットをご案内するような、上手い連携を実現したいですね。また、当社が向かう方向性としては、情報のプッシュとセンター型音声認識を利用は視野に入れておく必要があると考えています。


----:オペレーターを介したサービスがG-BOOKの特徴ですが、音声認識と連携するイメージでしょうか。オペレーターサービスは使ってみるとすごく丁寧で頼りになりますが、丁寧すぎてテンポが悪いと感じる時があります。高精度な音声認識があれば気軽に使えるようになると思います。

松岡:そうですね。オペレーターならではの良さもありますが、より広く使って頂くという意味ではこのような組み合わせも必要でしょう。端的に済む用意であれば音声認識を利用し、そこで解決できないことはオペレーターに接続する、その最後のひと押しをご提供できることがG-BOOKの強みではないでしょうか。

----:先日トヨタが参画してスタートした「能登スマート・ドライブ・ブロジェクト」で提供される「ドリマッチ(DriMuch)」では、目的地につかなくても、現在位置周辺の地域情報や寄り道をプッシュで情報配信していました。

松岡:まさに能登でご利用頂いたその機能を、スマートフォンナビに組み合わせていくなど、我われの範疇でできることを実現できれば。そして、当社以外の情報をいろんな所からプッシュして頂けるという物を作って行きたい。とにかくお客様に有益なものは、直接でもやるし、パートナー様とも協力してやって行きたいと考えます。


◆グローバル展開に向けた仕様の共通化

----:もうすこし話題を広げたいと思います。ユーザー視点だと、スマートフォンの買い換えサイクルはおそらく2〜3年で、クルマの寿命が7年〜10年くらいとした場合、車載器がスマートフォンの新型に対応しておらず、使えないという心配があります。

松岡:スマートフォンの変更は今後益々増えてくるでしょうね。当社としては、接続性を保証する部分として、ソフトウェアのバージョンアップでしっかり対応していく必要があると考えています。具体的には接続方式が変わった場合でもファームウェアの更新で対応予定です。iPhoneの場合、接続はUSBの iPod outがベースで、そこに車速パルスと走行中に規制をかけるトヨタ独自仕様を載せています。今のところアップル社がiPod outの仕様を大きく変更することは無いと考えています。

----:Dockコネクタが変更されてもケーブルを用意するだけで、対応できるということですね。また、WWDCのiOS 6プレゼンテーションでSiriについての発表では、各自動車メーカーと共にトヨタのロゴも入っていたのですが、これは将来的にSiriに対応するということですよね。

松岡:事実を申し上げますと、その部分に関してまだ詳細な検討段階には入っていません。北米トヨタが中心となってクルマに関わる部分をやっていくのだと思います。iPhoneユーザーの方はこれから益々増えていくでしょうし、対応は必要になるでしょう。車内での利用という意味では、音声コントロールの認識率が上がるほど皆さんに使って頂ける機能だと思います。


◆ディスプレイオーディオは大きなトレンドになる

----:ディスプレイオーディオに代表されるナビゲーショントレンドの変化についてはどうお考えでしょうか?

松岡:日本のお話をすると、トヨタの車をお買い上げ頂いている方の6割から7割の方はメーカーオプション、または販売店オプションのナビを付けて頂けています。その一方で、恐らくコンパクトカーや軽自動車などのお客様は相対的に純正ナビ装着率が低い。そのセグメントに対しては、ディスプレイオーディオやスマホナビなどが適していると考えています。

こういったトレンドの流れは、既存のものから急激に切り替わって行くものではないでしょう。その一方で、今までご利用頂けなかった方に対し、ディスプレイオーディオは新しい選択肢として十分魅力的に感じて頂けるのではないでしょうか。

----:もう一声安く、5万円を切るくらいの価格だと見方も変わってきますよね。

松岡:まずはこのモデルをお客様に評価頂けるよう頑張って、数を増やし、原価低減を進めたいですね。日本に関してはまだ純正ナビの装着率が高いですが、す でに展開しているタイやその他新興国ではスマートフォンの普及率が日本よりも高いところもあり、ディスプレイオーディオは大きなトレンドになる可能性があります。当社もタイへの導入を急ぎましたし、商品をグローバル展開して行くためにも、しっかりと取り組んでいきたいです。

----:純正ナビを使っていながらも、ネットラジオを聞いたり、スマホアプリのナビを使いたいという要望もあると思うのですが、スマートフォンのアプリ対応はディスプレイオーディオだけでなくナビゲーションのラインナップでもぜひ行なって欲しいです。

松岡:2012モデルのナビで、各メーカーさん仕様のスマートフォン連携は少しずつ入ってきています。トヨタとしてはアプリをもっと戦略的にご提供できるようハードウェアも進化させたいですね。


◆スマートフォンは行動を拡張するデバイス

----:カーライフにおけるスマートフォンの位置づけをどう見ていくかご意見をお聞かせください

松岡:急速に普及しているスマートフォンが、人びとの生活に欠かせぬ存在になることは疑いようがありません。車内でスマートフォンを利用してゆくというだけでなく、スマートフォンで情報を得て車で行動する。そう言った具合に、スマートフォンがカーライフに繋がるシーンを増やしていく、行動を拡張するデバイスとして期待しています。

スマートフォンアプリは自分の車のリモコンであり、ビューワーにもなるので、DCM(通信モジュール)が付いている従来型テレマティクス利用者の方にも価値を生むものです。一方、ディスプレイオーディオ連携のテレマティクスにおいても非常に重要であることは言うまでもありません。いずれのパターンにおいて も、スマートフォンは当社にとって非常に重要デバイスでありグローバルに展開を加速させていきたいと考えています。

----:グローバルという要素は自動車メーカーとして取り組みやすさに繋がりそうですね。

松岡:そう。スマートフォン自体がグローバル設計になっていますので、日本で制作したものは海外展開、今後制作していくものはグローバル展開を視野にいれて設計をしていきます。

----:他社製アプリを採用していくにあたり、基準や求めるイメージのようなものはございますか。

松岡:今でもできることとしては、smart G-BOOKのメニューの中にガイドや情報プロバイダーさんのアプリへの入り口を作って頂いて、各アプリで検索頂いた情報をそのままG-BOOKに転送できるような仕様に合わせて手を加えて頂ければ、G-BOOKと繋がります。

このような取り組みはsmart G-BOOKの魅力アップという意味でやって行きたいです。また、車載機上でも同じく実現したいとは思っていますが、まずはsmart G-BOOK上で繋がって頂くということを優先して進めます。

----:smart G-BOOKから連携するアプリは国内に限らずグローバルに連携してゆくイメージでしょうか

松岡:そうですね、smart G-BOOKを展開させて頂く国にいっしょに進出する、それもスマートフォンの魅力だと考えています。

《聞き手 三浦和也》

G-BOOK全力案内ナビをスマホナビ対応ディスプレイに表示する《撮影 北島友和》 スマホナビ対応ディスプレイ(DAN-W62)《撮影 北島友和》 トヨタ自動車 e-TOYOTA部 テレマティクス事業室の松岡秀治氏《撮影 北島友和》 スマホナビ対応ディスプレイ(DAN-W62)《撮影 北島友和》 G-BOOK全力案内ナビ《撮影 北島友和》