自工会豊田章男会長《撮影 郡谷謙二》

日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は6月4日、メディアとの共同インタビューに応じ、部品や資材などを含む自動車産業全体の構造を守るには、「日本に1000万台規模の生産現場が必要」との見解を示した。

自動車新興国が集中するアジア諸国との関係については「今後も各国の自動車産業の健全な発展に貢献していきたい」と述べ、環境・エネルギー問題への対応などで一層の協調を進めていく方針を強調した。

●アジアの健全な成長に、日本メーカーの使命は大

---:就任会見では、「競争と協調」の精神で、世界の自動車産業の発展をリードしていきたいと表明された。日本は、成長セクターでもあるアジア諸国や極東のロシアといった新興諸国と接しているが、これらの国々との協調にはどう取り組むのか。

豊田:自動車は世界的には成長産業であり、なかでも、今後の世界市場を牽引していくのはアジアである。アジア諸国には日本メーカーと長年、おつきあいのある国が多い。国によっては自動車を国の成長産業という位置付けにし、また、日本メーカーのクルマをいわば国民車という扱いで、しっかりご支援いただいている国もある。今後も各国の期待を裏切らないようにしたい。かつ、われわれが先に経験してきた環境・エネルギー問題への対応や安全対策、工場における省エネ、さらに未来のモビリティーではITS(高度道路交通システム)など、色々な意味で日本メーカーがアジアにおいて貢献できるテーマが多くある。アジアのより健全な自動車産業の成長に向け、日本メーカーの使命は大きいと考えている。

●ホームタウンには最小限の現場が必要

---:円高が進み、それに伴って世界的な株安にもなっている。自動車業界へのインパクトは。

豊田:現在の円高は日本の製造業には大変厳しい水準であり、「超円高」の状態にある。2011年以来、自動車メーカー各社は大変な企業努力を進めている。基本的には企業が一生懸命努力することが大切だが、私どもが国にお願いしたいのは、これだけ頑張っている企業や、そこで働く人が報われる健全な社会の構築に、リーダーシップを発揮していただきたいということ。株安については金融面での影響が出ているが、是非とも実体経済のなかで株価が評価されるよう期待したい。

日本では、すでに自動車は成熟産業と見る方もいるが、この20数年を振り返ると世界では年4%の割合で成長を遂げている成長産業だ。4%の成長が20年続けば市場規模は倍になる。実際に、この20年で3000万台拡大している。そのなかで日本メーカーの合計シェアは、約3割で世界トップだ。また、国別の生産規模では中国に次いで2番目であり、2011年は840万台レベルとなったが、1000万台の生産能力をもっている。米国やドイツよりも多くのクルマを、ここ日本で造っているということだ。

日本というホームタウンの存在が、日本の部品メーカーのみならず、設備や素材メーカー、さらに計測機器メーカーといった産業の発展につながり、日本車が世界に打って出られる源泉ともなった。(2012年5月の自動車工業会会長就任会見では)日本の自動車産業を守る気概で、会長職にあたりたいと申したが、産業全体の構造を守るためには、1000万台規模の最小限の現場が日本には必要だ。各社は石にかじりついてでも、国内生産を守ろうと、取り組んでいる。しかし、超円高が続くと石にかじりつけないという現実もある。

仮に今後100万台規模で海外への生産移管が進むと、雇用面にも影響が出る。決して私が業界の代表だからというのでなく、日本にとって自動車産業は必要であり、東日本大震災からの復興においても自動車産業を中心に据えていただくことが、この日本を元気に、笑顔にすることだとご理解いただきたい。

---:自動車産業を守るという観点では、消費税率の引き上げに伴う車体課税の問題もある。

豊田:自動車税制については志賀俊之(日産自動車COO)前会長から引き継いだ方針に変わりはなく、自動車ユーザーの負担を減らしていきたい。車体課税では、自動車重量税および自動車取得税の廃止に取り組む。取得税は(消費税と)2重課税になっており、消費税を引き上げるなら、取得税の存続はあり得ない。

●「クルマっていいよね」と感じていただけるよう

---:日本のTPP(環太平洋経済連携協定)参加をめぐっては、米国政府が日本の自動車市場について注文を付けている。

豊田:TPPは日米ともにメリットがあるものであり、自工会としては日本のTPP参加を支持する立場だ。日本は自動車への関税はゼロであり、輸入車を規制することのないオープンな市場となっている。米国側の主張する日本の非関税障壁とは何なのか、私ども自動車メーカーに、具体的な指摘は来ていないし、困惑している。また、販売台数やシェアは、商品力や販売努力など総合力に基づいてお客様が判断した結果だと考えている。いずれにしても日米でオープンな対話ができるよう期待している。

---:電気自動車の充電装置については、欧米メーカーが日本の「CHAdeMO」(チャデモ)とは異なる独自の規格案を進めている。この問題への取り組みは。

豊田:充電方式はその2系統だけでなく、中国も独自の方式を打ち出している。ただ、現在、実績でリードしているのはチャデモだ。大事なのは、それぞれが対決姿勢を出すのでなく、ユーザー目線で、将来的に一本化するにはどうするべきかという議論を進めること。長期的視点で、お客様に喜んでいただくには、規格の並立ではなく互換性の確保などで、双方が歩み寄っていくことも必要だ。

---:日本市場の活性化という課題については、志賀前会長が「業界1のカーガイ」だとして豊田会長への期待を表明している。東京モーターショーなどクルマファンづくりについての方針は。

豊田:会長に就任した日に、各社の社長および自工会の皆さん方とも話し合って、2012年は、東京モーターショーがないけれども、色々考えていこうということになった。2011年は会場を東京に移し、来場された方も増えて、いいショーになった。その流れが継続するように、お台場(東京都江東区)で、是非ともクルマに対する興味を盛り上げていただけるイベントを行ないたいと考えている。企画はこれからだが、「学園祭」のような催しものを行い、そして来年も学園祭に行ったら、モーターショーも開かれているといった具合になればいいと。世代を超えて「クルマっていいよね」と感じていただけるようアピールしていきたい。


●プロフィール
豊田 章男(とよだ あきお) 1956年愛知県生まれ。慶応義塾大学法学部卒、米バブソン大学大学院修了後に米国の投資銀行勤務を経て84年にトヨタ自動車入社。2000年に取締役に就任し、常務、専務、副社長を経て09年社長就任。10年自工会副会長、12年5月同会長に就任。「モリゾウ」のニックネームで「クルマ好き」を増やすためのブログを開設している。

自工会豊田章男会長《撮影 郡谷謙二》 自工会豊田章男会長《撮影 郡谷謙二》