トヨタ自動車 金子将一主査《撮影 益田和久》

トヨタ自動車が2012年1月にリリースしたプラグインハイブリッドカー(PHV)『プリウスPHV』。

石油エネルギー依存からの脱却をめざす次世代エコカーとして関心を集めている。プリウスPHVの商品化に関わった製品規格本部の金子将一主査に話を聞いた。(インタビュアー:ジャーナリスト井元康一郎、レスポンス編集長三浦和也)

◆EVよりも贅沢に耐久マージンを使う

井元:EVはエネルギー密度重視、ハイブリッドは出力重視と、電池に要求される特性が正反対です。チューニングは難しかったのでは。

金子氏(以下敬称略):もちろん簡単ではありませんでした。我々としても、とりわけ耐久性については相当神経を使い、かなりマージンを取っています。市販モデルのリチウムイオン電池パックは容量4.4kWhですが、そのうち7割弱を使用領域に設定しました。電池だけで航続距離を稼がなくてはならないEVよりもPHVのほうがマージンを取りやすいという現実があります。ユーザーの皆様にはいかように使っていただいても結構です。

三浦:リースモデルではまずEV状態で走って、バッテリーのEV走行分を使い切った後にハイブリッドモードに自動で切り替わるという仕組みでした。今回はEV走行時にハイブリッドモードを選択することもできるようになりました。私は自宅から高速道路インターまではEVモードで走り、HVモードに切り替えて電池を温存しつつ、高速道路を降りたら再びEVモードで一般道を走るというような使いこなしをしています。

金子:ありがとうございます。我々の意図通りに使っていただいて嬉しいです。ところで、この機能を使ってHVモード走行中にEV走行のためのバッテリー残量を回復させる裏ワザもあるんですよ。

三浦:えっ!? そんなことができるんですか? 教えてください!

◆電池利用の中央値を任意に選ぶ

金子:まず、HVモデルのプリウスは、モーターアシストと回生ブレーキ、そしてエンジンでの発電を制御しながらバッテリーの使用領域の中央値を保つような制御になっているのはご存知ですよね。モーターアシストしたときは残量が減り、回生ブレーキ直後は残量が増えますので、中央値を中心に波のような残量グラフとなります。

プリウスPHVの場合、EVモードに切り替え可能な電池残量であれば、設定された中央値はEVモード可能距離残である程度知ることができます。残り10.0kmの時点でハイブリッドモードに切り替えたら、その電池残量を中心に上下するように制御されますので、残りのEVモード可能距離が9.8kmとか10.2kmに随時変化します。

三浦:それで、残量をどのように回復させるんですか?

金子:HVモードに切り替えるタイミングを任意に選ぶことができるということは、中央値を任意に決めることができるということです。HVモード走行時、たとえば下り坂などでEVモード可能距離が増えるタイミングがありますよね。そこで一瞬EVモードに切り替えて設定された中央値を開放し、すぐにHVモードに戻します。すると、HVモードの中央値が再設定されます。先ほどの例だと、10.0kmだった中央値が10.2kmに移ります。

三浦:それを繰り返していけば、満充電に近づけることもできる、と。

金子:そうです。ただし、EVモード可能距離がゼロになった後は、(よほど長い下り坂で回生させない限り)EVモードとHVモードとの切り替えが任意にできませんので、やるなら残量ゼロになる前ですね。

井元:回生エネルギーを使わずに蓄える分、燃料を余計に消費するのでエネルギー収支を改善することにはならないのでしょうが、高速道路でバッテリーを回復させ、降りてから再び満充電からEV走行といった使い方ができるのは面白いですね。

金子:ノーマル『プリウス』では本当のところはわからなかった電池の状態が、航続距離残という形でわかるというのも、自分で充電できるPHVだからこそ関心を持っていただけるところではないかと思います。

三浦:PHVは電池が大きいのでたくさん回生充電したいという欲求に駆られます。たとえばシフトスイッチに「Dレンジ」と「Bレンジ」がありますよね。Bに入れるとスロットルオフ時の減速力が大きくなります。回生量を意図的に増やしたい場合にBを多用するのはいかがでしょうか。

金子:いえ、Bは回生量を増やして減速するのではなく、単にエンジンブレーキを使うというだけですので、回生量はむしろ減ってしまいます。回生量を増やしたい場合は、あくまでフットブレーキを使うのがいいでしょう。プリウスの回生協調ブレーキは、ある程度までは通常のブレーキはローターを掴みに行かず、発電の抗力だけで減速します。プリウスPHVの場合、大型リチウムイオン電池の採用で回生受け入れ性がノーマルに対して2割ほど向上していますから、機械ブレーキを使わない領域もそれだけ増えています。回生充電を示す「CHG」ゲージを目一杯つかいながら減速してください。エンジンブレーキが必要な局面以外はDレンジで運転していただきたいと思います。

◆電池の劣化が心配だが

三浦:ところでEV走行を繰り返すプリウスPHVだけに、バッテリーへの負担もプリウスよりずっと大きそうですね。耐久性はどのくらいなのでしょうか。

金子:5年後の容量低下2割以内を想定しています。リチウムイオン電池は容量低下のペースはどんどん穏やかになっていくという特性がありますので、その後も同じように劣化するわけではありません。容量が低下し、普通のハイブリッドカープラスアルファのような使い方しかできなくなるまでには、相当過酷な使い方をしても20年はかかると思います。

三浦:寒い時期に納車されて気づいたのですが、子供を送り迎えする場合など、シートヒーターが無い後席のために暖房を使います。エコランを考えると暖房のためだけにエンジンがかかるのがとてももったいなく感じられます。何よりもせっかくPHVを買って充電も終わっているのにEVモードで走れないのは非常に残念です。

金子:実は電動ヒートポンプを市販モデルに装備するという案もあったのですが、3つの理由で断念しました。コストが高いこと、冷媒の関係で氷点下になるとほとんど機能しないこと、そしてエネルギー効率が低いことです。とくに重大なのはエネルギー効率の低さで、エンジンを空転させて暖をとったほうがエコなのです。

三浦:エンジンを空転させるくらいなら、いっそ発電機を回して充電してくれればいいのにと思ってしまいますが。

金子:そのように思われがちなのですが、エネルギー効率の面では、みだりに発電させることはかえってロスが大きくなってしまうんです。交直流変換やバッテリーへの充電で生じるエネルギーロスというのはかなり大きく、実はエンジンを空回しさせたほうが効率がいいんですね。

三浦:なるほど。前席に標準装備されているシートヒーターが後席にも装備されると、ユーザーとしてはとてもありがたいのですが。

金子:ぜひ考えさせていただきます。そもそも暖を取るのに空気を温めるというのは非効率的なんです。人間の体温は35〜6度ですが、人間がエアコンの気流を暖かく感じるためには、吹き出しの温度を44〜5度にしなければならない。そのために必要なエネルギーは3000〜4000W分になってしまう。一方でシートヒーターならば、80W程度で済んでしまう。クルマのエネルギー収支を考えると、空気の温度ばかりに頼らず、触れて暖かいものを積極利用するのは重要なことです。今後もどうすればさらに効率が良くなるか、いろいろと試していきたいと思います。

トヨタ自動車 金子将一主査《撮影 益田和久》 月別燃費履歴 EV走行比率 ハイブリッドシステムインジケーターで確認できる電池残量の増加。HVモード走行時、EVモード可能距離が増えるタイミングで一瞬EVモードに切り替え、すぐにHVモードに戻すとHVモードの中央値が再設定される 午後4時54分には10.3kmのEV走行が可能に 午後5時4分には12.0kmのEV走行が可能に 午後5時14分には13.1kmのEV走行が可能に 午後5時25分には14.0kmのEV走行が可能に 午後5時48分には15.2kmのEV走行が可能に 午後5時52分には15.4kmのEV走行が可能に 午後5時59分には17.1kmのEV走行が可能に トヨタ・プリウスPHV《撮影 太宰吉崇》 トヨタ・プリウスPHV トヨタ・プリウスPHV トヨタ・プリウスPHV《撮影 太宰吉崇》 トヨタ・プリウスPHV《撮影 太宰吉崇》