トヨタ豊田社長(2012年2月、86発表会)

トヨタ自動車の豊田章男社長は22日、都内でメディア各社と懇談し、円高の修正が進む為替水準について「トヨタの(安定収益確保の)実力は、1ドル=90円から100円であり、円高が緩和された水準とはいえない」と語った。

そのうえで、来期(2013年3月期)の連結業績については、「どうオフセット(決算)するかというよりも、持続的な成長につなげること」と述べ、新年度は安定した収益力をつける体質強化の年との認識を示した。

また、昨年3位に後退したグローバル販売については「順位は結果であり、あまりこだわっていない。当分は世界のトップ5社あるいはトップ7社が入れ替わる時代が続くのではないか」とし、「いいクルマづくりで引っ張って行くのが私の役目」と語った。

懇談での主なやりとりは次のとおり。

◆「いいクルマ」づくりが収益回復への早道

---円高の修正が進み、いわゆる“6重苦”も緩和方向にあるのでは。

豊田 若干戻ってきてはいるが、円高が緩和された水準とはいえない。1ドル=70円台が長く続いたので感覚的なものもあるが、冷静に見れば是正ではない。常々100円レベルが妥当と言っており、90円から100円レベルで推移してくれればと思う。国内外での(安定収益を確保する)トヨタの実力はそのレベルだ。

---昨年3月に策定したグローバルビジョンでは1ドル=85円、トヨタ単体の販売が750万台で、連結営業利益1兆円の確保を掲げた。現行の為替水準が続けば、世界販売は850万台規模が見込めるので来期(13年3月期)には到達するのでは。

豊田 一定の前提で1兆円、利益率5%というのは分かりやすいので、どうしても皆さん注目される。ビジョンで掲げたのは、リーマンショックのようなことが起きても、このレベルを確保したいということ。仮に販売台数が2割程度落ちても確保できるような体質にもっていくことだ。株主の皆様や取引先のトヨタへの期待は、持続的な成長を維持するということだと受け止めている。

1兆円を狙うというより、あくまで多少のバラツキがあっても、その程度の利益水準を維持したいという目標である。来期の業績がどうオフセットするかというよりも安定した収益体質にしなければならない。一昨年に品質問題が起きた時に、「人材の育成が追いついていなかった」と申したように、人を育てることだ大事だ。幸い、さまざまなことが起きたこの3年間にも、着実に人材が育ってきていると思う。

各部門には目標があるが、私の役目は数値目標で引っ張ることでなく、「いいクルマ」をつくる環境を整えることであり、それが収益回復への早道にもなる。


◆中国ではHV普及で期待に応えたい

---グローバルビジョンでは環境技術とともに、新興国を「攻める分野」と位置づけた。トヨタの販売が伸び悩んでいる中国市場ではどう取り組むか。

豊田 とにかく中国に合ったクルマを提供することに尽きる。昨年、江蘇省常熟市に研究開発センターを開設したのもそのためだ。私どもは第一汽車、広州汽車をパートナーにしており、両社の自主開発をお手伝いするという狙いもある。トヨタへの期待はハイブリッド車(HV)の普及ということであり、中国でのHV開発も、このセンターで強化する。2社の発展はトヨタへの追い風にもなる。

最近のモーターショーを見ると、中国でもようやくHVの認知が進んできたと実感している。ただ、コンベンショナルなクルマとの価格差がまだある。手の届くところまで開発を進め、普及させることが、私どもの成長につながる。

---日産自動車が「ダットサン」ブランドを復活させるように、新興諸国では低価格車の導入が活発になっているが、トヨタの取り組みは。

豊田 私どもも(インド向けの『エティオス』など)、エントリー市場への対応は進めている。ただし、タタモータースのように50万円を切るクルマを造る実力はまだない。一方で、トヨタ車に求められるバリューは信頼度であり、期待される品質を確保しながら進めたい。(低価格車の導入は)今はやらないが、1年後は分からない(笑)。


◆「世界一」を、会社を引っ張るツールにはしない

---昨年はグローバル販売が、3位に後退した。世界一へのこだわりは。

豊田 順位は結果であり、あまりもっていない。トヨタが設立された1937年以前からGM(ゼネラルモーターズ)は世界一を続けてこられた。その間に、自動車産業を発展させ、市場を育て、クルマ文化も創られた。そうした企業がトップにふさわしい。トヨタは準備ができないままに(08年に)トップになった。

もちろん、従業員には勲章なので従業員のためにも狙って行きたいが、一人ひとりの努力や1台1台の積み重ねがあって、初めてその勲章は輝くものになる。少なくとも会社を引っ張るツールにはしたくない。世界の自動車業界では当面、トップ5社あるいはトップ7社の順位が入れ替わる時代がつづくことになろう。

---就任から間もなく丸3年。来年度に望むことは。

豊田 ボクシングに例えると、ずっとガードを固め、それでも倒れないようにとやってきた3年だった。いい年にならなくてもいいから、何も起こらない年になってと願っている。

トヨタ堤工場 中国の研究開発センターで定礎式(2011年10月) トヨタ・エティオス(2012年1月、デリーモーターショー12)《撮影 土屋篤司》 トヨタ・カムリSE(2011年11月、広州モーターショー11)《撮影 土屋篤司》