プリウスPHVのEV走行はエンジン音はないが、風切り音、タイヤのパターンノイズ、路面の凹凸を拾うドラミング音などこれまで聞こえなかった音が聞こえる。

◆S/N比に優れるEV/PHVは何が聞こえるのか

プリウスPHVの長期リポート、今回は音に関するリポートである。というのも、自分が過去にEV、PHVを試乗するたびに開発者にお願いするのは音に関することばかりだった。エンジンからモーターに駆動が変わって劇的な変化を遂げたのはクルマの快適性を決定するノイズ(騒音)、バイブレーション(振動)、ハーシュネス(乗り心地)のうち、ノイズとバイブレーションに他ならない。モーター駆動のEVやPHVはどんな高価なクルマでも成し得なかったNVHを実現する可能性があるのだ。

実際に過去に試乗したEV/PHVにはそれぞれ強烈な印象が残っている。

三菱『i-MiEV』の試乗ではアクセルを踏み込んだ時に「ミー」という電車にも似たモーター駆動特有の音が、圧倒的な加速と共に飛び込んできた。同乗していた同僚と顔を見合わせて「ヤバイね。環境とかエコとかどうでも良くなるほど魅力的な乗り物だ」と笑った。そしてEVは時と共に普及すると確信した。

日産『リーフ』は、i-MiEVほど音による演出を施していないぶん静粛性という視点では、i-MiEVやプリウスPHVよりも高級感がある。レンタカーのリーフ密度が高く、急速充電スタンドの配置も十分な沖縄で行われた試乗会でのこと。秋の平日、名護地区は交通量も少なく穏やかな雰囲気だった。つられて窓を開けるとエンジン音がなく、窓からは波の音や鳥の声が聞こえたのだ。これがEVか。エコロジーというのは人がすこし控えめになり、自分を生かしてくれている地球の声に聞く耳を持つということではないか、と深く感じ入った。

似た話だが、プリウスプラグインハイブリッドのプロトタイプカーを借りて妻と日曜の午後に近所まで出かけたのだが、自分たちが住む街の静かな環境に改めて気が付き、妻は「こんど買うクルマは電気だね。ガソリン車がとたんに古臭く思えてきた」とぼそっと言った。妻の何気ない一言に、一般の人が思うエコカーの条件はCO2や燃費だけじゃないと気が付かされたのだ。


◆純正オーディオの音

初運転の感想は、「プロトタイプよりもずいぶん静粛性が上がっている。一方でタイヤが凹凸を乗り越えるときのボコボコというドラミング音が気になる」というもの。タイヤはミシュランのグリーンタイヤが装着されている。あとでディーラーに確認すると推奨値よりも若干高めの空気圧で納車してくれたそうだ。確かに高めの空気圧のほうが燃費がいいため、自分も高速を走らずとも高めを心がけている。

アクセルを踏んでも積極的な音の演出はなく、その背景で一生懸命に音を消していることが想像できる。春になって窓をあけるころがPHVにとって一番いい季節ではないかと想像する。その時は、これまで聞こえなかったいろいろな音が窓から飛び込んできて、我々を楽しませてくれるのだろう。

ところで、腰を抜かすほど驚いたのは純正オーディオの音の良さである。なんの変哲もないディーラーオプションのHDDナビゲーション『NHZA-W61G』と標準装着のスピーカーの組み合わせが、澄んだ音質で音楽を奏でるのだ。

理由を想像してみた。まず電源が良い。大容量のリチウムイオンが強力な電源となってヘッドユニットを駆動している。音にとって悪いはずがない。つぎにヘッドユニットのAV一体型HDDナビ『NHZA-W61G』があやしい(?)。NHZAの型番から製造はアイシンAW製だとわかる。7機種あるディーラーオプションナビの最上位として100GBのHDDやG-BOOKmX、スマートフォンで使われる静電式タッチパネルを使ったスライドを使ったUIなどが特徴のモデル。オーディオ部分はアルパインが担当しているらしいことが、タイムコレクションやパラメトリックイコライザーなどのマニアックなオーディオ調整と車種選択式の一発設定機能でわかる。

最後にスピーカーだが、これはおそらくノーマルのプリウスと同じだろうから、音質面で有利に働いたとは考えにくい。しかし、さすがに純正ナビゲーションのオーディオ部は純正スピーカーのポテンシャルを存分に引き出している。


◆プリウス専用交換スピーカー『SonicPLUS』を試す

周りに対してPHVの純正オーディオの高音質を吹聴していたところ、魅力的な提案をいただいた。以前、メルセデスベンツに純正採用された300万円オーバーのオーデイオコンプリート『Sound Suite(サウンドスイート)』を取材させてもらったソニックデザインからプリウス用の低価格セットを発売するので試してみないかと声をかけてくれたのだ。

このセットは「SonicPLUS」(ソニックプラス)という名称で、ベンツ用、BMW用に展開しているシリーズの、トヨタ用にあたる。以前からも一部のトヨタディーラーに対して同社のカジュアルラインスピーカーをプリウス用のスペーサーと共に販売していたが、その発展形としてSonicPLUSシリーズの一員としてラインナップされた。ツイーターとフロントフルレンジの4ユニット構成のスピーカーパッケージは5万6000円(SP-P30E) 、リアスピーカーはフルレンジのみ2ユニット構成で3万3000円(SP-P30RE)となり、純正の6スピーカーをすべて置き換えても8万9000円である。

プリウスPHVは納車後の申請が無事通れば45万円のクリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金(以下クリーンエネルギー補助金)がもらえる。一方ノーマルのプリウスなどその他エコカーでも再開されたエコカー補助金10万円が後日支払われる。その帰ってくる10万円でソニックデザインのエンクロージュアー式スピーカーに一式交換できるという魅力的なコースである。

インストールについては別記事でフォトレポートしているので参考にしていただいて、本稿は音質に関するインプレッションを紹介したい。


◆たしかにソニックデザインの音

取り付け直後の第一声は「サウンドスイートの記憶が蘇った。この音はたしかにソニックデザインの音だ」。かたや400万円近くの弩級カーオーディオ。かたや10万円にも満たないスピーカーのみの交換。しかし、ブランドの音というものは存在するのだ。共通ポリシーであるエンクロージュアー一体型のユニットをつかったタイトな音のピラミッドは同じ響きを持っていた。

ノイズ、バイブレーションがない電気による駆動方式。ポテンシャルが高いクリーンなリチウムイオン電源。プリウスの室内の音場を徹底考慮してセットされたヘッドユニット(AV一体型HDDナビ『NHZA-W61G』)。これらに対して唯一のウイークポイントである純正スピーカーを、最廉価とはいえ高級カーオーディオブランドであるソニックデザインのスピーカーに置き換える。音楽好きならばワクワクする瞬間だ。

インストール後の帰路でのじっくりCDを聴くと「確かに良くなった」、良くなったのは音の陰影。彫りが深くなり音楽がただ明るく鳴るのではなくドラマチックな音楽表現になった。この音を聞けば10人中10人が素晴らしい音と喝采するだろう。だが、自分は純正スピーカーのジャストフィットの音を経験してしまっている。空間表現や音の響きなどに関しては、SonicPLUSインストール後はわずかに前に及ばない。おそらく、SonicPLUSの性能をまだ完全に引き出していないのだ。

機材の性能を引き出し、自分の音を作る。ここからが楽しい、オーディオタイムの始まりだ。


◆マイルーム機能でじっくり調整

翌日は土曜だった。

午前中、子供を車で習い事に送り届けると、そのまま車内に居座り音の設定をあれこれ試みることにする。ここで活躍したのが「マイルーム機能」。普通ならば車庫でアイドリングのまま車内に居続けるのははばかれる行為だが、PHVには充電中でもエアコンやカーオーディオなどの車内装備を使うことができるモードが用意されている。駐車中のプリウスPHVがわが家のもう一つの部屋として居心地の良い空間を提供してくれるのだ。

音のチューニングを考えるにあたって、SonicPLUSの場合は取り付けセッティングに工夫する要素はない。純正スピーカーと同じ、もっとも簡単な取り付け方法がユニットの100%の性能を引き出す設計となっているからだ。チューニングの要素はヘッドユニットのパラメーター変更のみに絞られる。幸いにしてディーラーオプションのHDDナビゲーション『NHZA-W61G』は、マニア的とも言える高度な設定項目を持っている。

ここで重要なのはSonicPLUSのリアスピーカーの役割である。前席重視のカーオーディオインストールでは、フィルターを用いることでリアスピーカーにサブウーハーの役割を与える場合がある。しかし、SonicPLUSは前後左右のドアに装着されるユニットにはすべて同じフルレンジの帯域を与えている。その理由をソニックデザインの佐藤社長は「純正カーオーディオのすべての機能を利用できることがコンセプト。リアスピーカーをウーハーにすると純正ヘッドユニットの設定項目が利用できなくなる」と語っている。


◆オーディオ設定を追求する

『NHZA-W61G』のオーディオ的な最大の特徴は「車種設定」の機能だと思う。トヨタ純正らしくトヨタ車の中から該当する車種を選ぶことによって、予め測定された補正値を呼び出して一発で車種に最適な室内空間に補正する機能である。その徹底度は侮れない。新車種が出るとホームページに新車種用の設定ファイルが用意され、SDカードやCD-R経由で『NHZA-W61G』に読み込むことができるのだが、なんとプリウスのマイナーチェンジ後の設定ファイルがアップされていた。

今回自分はあれこれ試聴した結果、「タイムコレクション」の設定と「パラメトリックイコライザー」の設定はこの配布ファイルの補正値を採用した。

「EUPHONY」というサラウンド設定機能はOFF、CSE(Clear Sound Effector)とBASSの設定は、CSEはポジション[1]、BASSは低音の立ち上がりや減衰をコントロールするDYNAMICSを[+1]に、低音の広がりやしまりをコントロールするHARDNESSを[+2]に設定することで落ち着いた。

学生の時にコントラバスという低音弦楽器を弾いていた自分にとってはBASSのパラメーターの設定は最高に楽しかったと付け加えておきたい。通常のBASS設定は低音の量感のみをコントロールするものが多く、なかなか積極的に使えるものではないが、HARDNESS設定を組み合わせることで自身の音楽観をも反映したセッティングに追い込めることがわかった。

自分はやはり、低音をベースとしたピラミッド状のバランスを求める。その低音はまるで楽譜が見えるように音程がわかり、タイトな量感を持っていて欲しい。

そんなわがままな要求を求めてゆくと、さすがSonicPLUS、純正スピーカーの箱庭的な性能下での良い音とはスケールが違う。飽和して音が割れたり、ドア部品や内装に振動が伝わってビビリ音がすることはない。よって設定の限度が機材の限度とならず、あくまで音楽的な要求を設定に反映させることができる。ウッドベースのソロやJAZZトリオを聞いて質感を設定し、つぎにショパンやモーツァルトのピアノ曲で音の透明度と同時に高音弦のキラキラした響きの再生を試みる。女性ボーカル曲を聞いて中音域の実在感を確かめて、最後はバッハの無伴奏バイオリンソナタとオーケストラ曲を交互に再生することで空間再現性を確認した。

オーディオ的なスイートスポットは、あらゆる音楽を魅力的に再生するポイントにあると思う。今回、自分が到達した設定はまさにツボにはまり感動的ですらある。SonicPLUSのポテンシャルを十分に引き出すことに成功して、ダイナミックレンジは広大になりオーケストラ曲であっても音が濁らず見事なピラミッドバランスと楽器一つ一つが聞き分けられる解像度を共存させた。一方で、漆黒の空間にポッカリと浮かぶバイオリンやウッドベースのソロが、まるでそこにいるように響く。


◆音空間として魅力的な車内

EV走行時やマイルーム機能の利用、またはHVモードでも信号待ちのアイドリングストップでは、これまでのエンジン車と比べると格段のS/N比(シグナル/ノイズ)を得られるようになった。この環境が車内の音楽環境を激変を感じさせた。自分もその一人だったが、部屋ではオーディオで音楽を聞き、外ではiPodと多少値の張るイヤホンを組み合わせるような音楽好きが、自動車の車内をあらためて音楽空間として魅力的に感じるようになったのだ。

ディーラーオプションのHDDナビゲーション『NHZA-W61G』が高音質で驚いた。アイシンAW製だがアルパインがオーディオ部に協力をしている。 ディーラーオプションのHDDナビゲーション『NHZA-W61G』専用にホームページで配られたマイチェン後プリウスのパラメトリックイコライザー設定 同タイムコレクションも車種別設定値が配布される マイルーム機能をつかうと、充電中に、エアコン、オーディオなどの室内装備が利用できる。 これは東京に雪が降った日のプリウスPHV。この日ではないが、マイルーム機能をつかって車内に閉じこもりオーディオの設定に集中した。ご近所さんと目があってご挨拶も。 左側:ツイーターとフロントフルレンジの4ユニット構成のスピーカーパッケージは56,000 円(SP-P30E)と右側楕円:取り外した純正スピーカー。 77mm口径でもバスレフ方式エンクロージュアーの工夫により締まった低音を再生する。 自分が追い込んだ設定では「EUPHONY」はOFF 「FAD/BAL」も初期設定のまま。後席でも前席同様オーディオを楽しむことができる。 「CSE」は1にセット。OFFだとBASSの設定ができない。 「BASS」はDYNAMICを+1に、HARDNESSを+2に設定。自分好みの低音になった。 HVモードでの走行は基本はマイチェン後プリウスと同じ。自分には60kgの車重の差はわからない。エンジン音はかかり始めは気になるが、走行中は気にしない。