ホンダ NC700X《撮影 太宰吉崇》

ホンダの世界戦略車「ニューミッドシリーズ」の国内販売第1弾『NC700X』は、期待以上の出来だった。

270度位相クランクを採用した62度前傾パラレルツインの生み出す豊かな低中速トルクと鼓動感は、常用スピード域で流れていく街並みや遠くの風景を楽しむ余裕を与えてくれる。この余裕は、ライダーの視野をカメラのレンズでたとえるならかなり広角で、それぐらい広く見えるほどの“ゆとり”があるのだ。

直径73mm、長さ80mmという異例のロングストロークエンジンは、決して遅くない。スポーティに走ろうとスロットルを大きく開けると、アッという間にレッドゾーンの6500rpmに達してしまい、レブリミッターが効いて慌ててシフトアップするほどだ。

ワイドレシオの6速ミッションなのだが、その2〜5速で早め早めにシフトアップすると、加速はかなり速い。回転上昇も、減速特性も、フリクションを感じさせず、スムーズでかつ常にフラットトルクだ。贅沢を言えば、あと1000rpm回れば完璧だと思うが、ツーリングで流すなら2500〜4500rpmで充分。クルマの後ろに付いてもストレスを感じさせないのが良い。

そして、270度クランクの270度-450度不等間隔爆発のトラクションは素晴らしい。2気筒ながらスロットルボディは1つで、エキパイもシリンダーヘッド内でポートを集合させているので1本だ。この270度クランクと1スロットル&1エキパイという構成で左右気筒に同じ仕事させるために、カムはちょっと工夫され、左右気筒で吸気タイミングが5度ずらされている(点火時期も左右で異なる)。シンプルにかつリーズナブルに作りながら、低中速の心地よいフィーリングと低燃費を両立したマジックである。

超前傾エンジンと低いフレーム(アンダーボーンほど低くはないから、ミッドボーンと言うべきか)は、確かに低重心だった。極低速のUターンでも、タンデムでもグラッとこない。オプションのパニアケース類を装着しても、多分この感じなのだろう。低重心過ぎるとバイクを寝かせにくくなる場合があるが、このバイクではそんなことはなく、交差点でも高速コーナーでも思い通りに軽くバンクしてくれる。

オンオフモデル、ツアラー、スポーツネイキッドをオーバーラップするクロスオーバーコンセプトのNC700Xの良さの1つは、前後ともに約150mmストロークを持つサスペンションの吸収性だ。

荒れた舗装路でも難無くこなし、タイヤは前後17インチだがフロント19インチのような安心感もある。また、ダミータンク部のラゲッジスペースは21リットルの大容量で、これなら1DAYのタンデムツーリングでもバッグいらずだ(2人分のレインウエアや、ランチなどが余裕で入る)。

これから、同じフレームとエンジンを持つ、スクータースタイルの『インテグラ』やネイキッドスポーツの『NC700S』が登場してくるが、どれを選ぶかはライフスタイル次第。そして、どれを選んでも心配はない。それほど、このニューミッドシリーズの基本ユニットは良くできている。そして高回転・高出力のスーパースポーツとは対極にある、この個性と性能は、とても新鮮だ。

石橋知也|バイクジャーナリスト
1956年東京生まれ。70年代にアメリカ文化好きが高じて海を渡ってバックパッキングやツーリングを行なう。帰国後バイク/レース雑誌編集者を経てフリーランサーに。レース、メカニズム、旅などバイクに関しての記事を専門誌中心に執筆中。

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