電気自動車のリーフが日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、東京モーターショー日産ブースでは受賞報告が行われた。《撮影 椿山和雄》

日産『リーフ』を初試乗したのは3月11日、東日本大震災の当日。あれ以後の日本社会の変化が、ボクがリーフに10点を入れる決断を促した。

リーフは10点か0点か…どちらかしかないと、ずっと考えていた。フル充電でも実用的な航続距離は140km程度。ガソリン車なら「そろそろ給油しようか」と思う頃で、しかも充電スタンドは限られている。クルマを「モビリティの自由を拡大する道具」と定義すれば、走り始めた直後から「どこで充電できるか」を思案しながらドライブするなんてクルマとして失格だ。0点が相応しい。

一方、地球の未来を守るために自動車の生産と使用をグローバルに抑制すべし、というのがボクの持論。新興国でモータリゼーションが拡大し、これまでクルマの悦びを知らなかった人がそれを享受できるようになるのは文明の進化だ。しかし資源や環境を考えれば、どこかで犠牲を払ってバランスをとらないとサスティナブルな未来はやってこない。少なくとも私たち先進国の住人は、「モビリティの自由」を自主的に規制すべきだろう。

乗りたいだけクルマに乗ってよい時代はもう終わった。乗る機会を減らし、乗る距離を減らす。それは私たちクルマ好きにとって、我慢だろうか? 我慢だとすれば、やっぱりリーフは0点なのだが…。

震災後の日本人は持ち前の忍耐強さを発揮しつつ、厳しい現実を乗り越えて希望を見出そうと、ありとあらゆる努力を重ねてきた。個人の欲求を抑えて絆を強め、調和を求めるパラダイムシフトが確実に進んでいる。この新しいパラダイムのなかで、「モビリティの自由の自主規制」は我慢などではない。子供や孫の世代にクルマの楽しさを伝えていくための、前向きで建設的な発想だ。

私たちがモビリティを縮小していく時代に、リーフが登場した。140km程度しか走れないけれど、その範囲であれば、ファミリーカーとして充分な機能性を備えるし、モーターのトルク特性と低重心レイアウトのおかげで電気自動車ならではのファン・トゥ・ドライブも味わえる。

地球のためにクルマに乗る機会と距離を減らしながら、でも楽しく快適にドライブしたい。リーフはそんな私たちクルマ好きのバランス感覚に応えてくれるクルマだ。そこを評して10点を投じた。震災後のパラダイムシフトがなかったら、0点にしていたかもしれないけれど…。


千葉匠|デザインジャーナリスト/AJAJ理事
デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。

日産リーフ 日産リーフ 2011-2012年日本カーオブザイヤーは電気自動車の 日産リーフ。《撮影 椿山和雄》 千葉匠氏