ランチア・テーマ

★歴史遺産の維持管理が追いつかないイタリア

伊フィアットは2011年10月19日、新型ランチア『テーマ』の販売をイタリアで開始した。テーマは2011年3月のジュネーブモーターショーで公開されたもので、資本提携先である米クライスラーグループのクライスラー『300』をベースとしながらも、ターボディーゼル・エンジンやポルトローナ・フラウ製シートなど、イタリアおよび欧州圏内の需要や顧客趣向に合わせている。

「テーマ」の名称は、初代が生産終了した1994年以来、17年ぶりの復活である。これを機に筆者はイタリアで、フィアット系老舗ディーラーの最前線で働く、あるベテランセールスマンに各ブランドの最新状況を聞いた。

まずは新型テーマに関して。「たとえクライスラー300がベースでも、内外の質感はランチアと呼ぶに相応しい出来」と彼は胸を張る。主なターゲットはカンパニーカー(企業幹部に長期貸与する車両)需要で、そうした企業に車両を長期貸与するリース会社も重要顧客と見据えているようだ。

優良顧客限定の試乗会では、BMW『5シリーズ』やメルセデスベンツ『Eクラス』も用意し、乗り比べてもらう企画も用意しているという。そうしたライバルたちよりも「最大で1万5000ユーロ(約157万円)安い」こともセールスポイントだ。

いっぽうで不安もある。「イタリアで売れ筋となるであろうディーゼル仕様のATは、ガソリン仕様に用意されている8段ではなく5段ATのみ」であることだ。「全モデルにわたり多段AT攻勢をかけるドイツ勢を前に、セールス上きわめて不利」と指摘する。

さらに、アウディでさえメルセデスやBMWを前にときおり苦戦しているイタリア高級車市場で、マセラティ『クアトロポルテ』を除き数年空白だったイタリアブランドの大型セダンが、どこまで失地挽回できるかにも疑問が残るという。これは別の自動車販売店関係者のコメントだが、「いまやイタリア人が車において国内ブランドに誇りを感じるのはフェラーリだけ」という。

ところでランチアといえば、新型『イプシロン』の滑り出しは? その質問に対して、セールス氏は「今ひとつ」と答える。「景気が良いときならともかく、6月発売というタイミングは、夏休みをさんだおかげで、新型が出たことを人々に忘れさせてしまった」と彼は分析する。

いっぽうフィアット・ブランドでは、ダッジ『ジャーニー』の姉妹車『フリーモント』が、彼の働く店では好調という。

その言葉を証明するように、フリーモントの2011年7月のイタリア国内登録台数は1954台を記録した。SUVカテゴリーで日産『キャッシュカイ』(日本名『デュアリス』)、ダチア『ダスター』に次ぐ3位にランクインし、4位の日産『ジューク』を抜いた。彼の店では「期間によっては『500』の販売台数を上回ることもある」そうだ。「目下のところ新車効果が功を奏している」と彼は分析し、本当の勝負はそれから先と見ている。

別の課題も。「保証がトヨタは3年10万km、キアに至っては7年15万kmの保証を謳っているのに、フィアットは距離無制限とはいえ、いまだ2年」であるためだ(筆者註:いずれもイタリア国内市場)。保証はイタリア人がブランドを選定するにあたりきわめて重要なファクターであるので、外国メーカーの長期保証攻勢に気を抜けない。

加えて、フィアット500は長らく人気車種の座を保ってきたものの、当面大きな変更がなく、他社の新型車ラッシュのなかで埋没する危険性を彼は指摘する。

最後にアルファロメオについて。こちらは彼いわく「『MiTo』と『ジュリエッタ』だけが売れている状態」で、あとのモデル(『159』、『ブレラ』、『スパイダー』)は軒並み芳しくないという。

こうした話を聞くと、ディーラーがどのクラスも満遍なく売れるフルラインナップを求めているいっぽうで、メーカーはアバルト、ジープ、小型商用車も加えると計6ブランドを抱えてしまったにもかかわらず、要望には追いついていない現状が窺えた。

その様子は、歴史遺産を多く抱えるあまり維持管理が追いつかない、イタリアという国の姿と奇しくも重なってしまうのである。

アウトレットモールの一角を借りて地方販売店が行なったランチアYの展示。2011年7月 アウトレットモールの一角を借りて地方販売店が行なったランチアYの展示。2011年7月 フィアット・フリーモント アルファロメオ・ジュリエッタ。シエナのホテル駐車場にて。