SAPジャパン ソリューション統括本部 サスティナビリティ推進室 室長 松尾康男氏《撮影 宮崎壮人》

自動車業界やエネルギー関連事業をはじめ、世界120か国・10万社を顧客に、生産、会計、購買、人事といった多岐にわたる管理ソフトウェアを提供するSAP。EV、スマートグリッド分野にも積極的に参入していくという同社のねらい、そして強みとは。

SAPジャパンでサスティナビリティに関するソリューションの展開を担当する、ソリューション統括本部・サスティナビリティ推進室室長の松尾康男氏に話を聞いた。


----:SAPとしてEVビジネスとどのように関わっていくのでしょうか

我々は従来の自動車産業、自動車社会というものが変化して行く姿を「eモビリティ」と名付けています。自動車自体のエネルギーが石油燃料から電気へと変わって行くにあたり、単に生産プロセスが変わる、ということだけでなく自動車の使われ方が変わっていくであろうという点に注目しています。自動車は今後「所有する」ものではなく、移動サービスとしての要素が強くなっていくことが考えられます。SAPとしては、そうした「使われ方」の部分で支援をおこなっていこうと取り組んでいます。

例えば今は、ガソリンを入れる、高速道路で料金を支払うなどといった支払のやりとりがありますが、今後はカーシェアリングや、EVの充電、あるいはスマートグリッドなどを活用しEVが家とつながっていく、など移動だけでなくエネルギーのネットワークに取込まれていくにあたり料金の支払い方も変貌していきます。こうしたデータの管理や分析において、SAPが世界中の様々な業種に関わってきた経験が活かされて行くであろうと考えています。

----:EVビジネス、エネルギー分野に参入するきっかけとは

まず、自社の中でもEVを活用して行く理由があるということです。一企業としてもCO2排出量の削減は大きな課題です。SAPの製品はソフトウェアですので、生産におけるCO2排出はほとんどありません。それらを開発する人、使用する電力などありますが、大きな割合を占めているのが人の移動にかかわる部分です。全体の35%が飛行機での移動も含めた出張、そして社用車の利用によるものが24%を占めます。本社のあるドイツだけで約1万2000台が社用車として使われています。これらを減らす手段のひとつとしてEVによるカーシェアリングを導入しています。

ドイツの本社ではカーシェアリング用にEVを30台導入し、実際に450人の社員が利用しています。これはドイツが実施する実証実験の一環として参画しているもので、自社のCSR的な取組みというだけでなく、自動車のプローブ情報調査などもおこないながら、これがCO2排出量の削減に有効な手段であるのかといった検証の場としても活用しています。

そしてもうひとつが、幅広い業種に関わってきたSAPならではのソリューションやノウハウを活用できるということです。eモビリティ、つまりエネルギー網の一環として自動車が組み込まれて行く中で、既存の自動車業界だけでなくあらゆる業種が関わることになるでしょう。そして電力会社との関わりも必ず出てくる。SAPは特にヨーロッパを中心にエネルギー分野にはほぼ独占的な深い関わりを持っていますので、そうした知識が何よりの強みになります。

----:具体的に「強み」とはどういうものなのでしょうか

スマートグリッドに関わっていく中で、スマートメーターの活用が重要となります。ここで世界各国のエネルギー関連企業へ料金体系システムを提供している強みを活かすことができます。実はスマートメーター自体は15年程前から活用されていますが、では何が変わったのか。それはシステムからメーターに働きかける双方向性が生まれたことです。

エネルギー網が拡大していく中で、家の電力、充電ステーション、そして自動車もシステムで制御できる可能性が増えてきています。今の日本でいえば、電力のピークシフトの分散がその例でしょう。これらがどう使われているかを監視しながら、電力会社の大きなシステムでなく、より小さなユニットや機器単位で制御していくことが可能になる。例えば電力のピーク時などに、優先度の低い電源をシステムが自動的に停電させるような仕組みです。いわゆる「デマンド・レスポンス」という考え方です。

電力の不足時に、さらに発電することで需要に対応してきたのがこれまでのやり方です。しかし、自分で何にどれだけ電力が使われているのかがわかれば、効果的に節電することもできる。そして、それすらも人の手を介さずにICTで制御することが可能となるのです。精神論ではなく、システムが介入することで自動的に節電をおこなっていく。これにより、必要以上に発電所を増設する必要もなくなるでしょう。

これらは全く新しい取組みに見えますが、SAPが従来持っている製品、ソリューションのパッケージを流用し、使い方を変えて提案することができるという点が大きなメリットです。EV向けのソリューションについても、生産から、料金請求のしくみ、設備管理、プローブ情報の処理など既存のシステムを活用することができるのです。

例えば、充電ステーションの管理者や電力会社はいつも同じとは限りません。しかし料金を請求する場合、走行データや充電データは必要。こうした場合に、EVにIDを設定してまとめて請求できる仕組みを作ることも可能です。海外では既に電力、ガス、水道やヒーターなどのホームエネルギーの料金を一括して請求する仕組みがあります。ゼロから作り上げるのではなく、ノウハウをそのまま活かすことができるのです。

----:今後、強みを活かしていくにあたっての課題とは

重要なのは、こうして得られた大量のデータを、いかに早く正確に処理していくことができるかです。これはeモビリティだけでなく、SAP全体の課題でもあります。システムのアーキテクチャはクラウドへ移行していく、ユーザーのインターフェースはモバイルが主流となるという中で、より“リアルタイム性”が求められて行くことになります。

これに対し我々は「インメモリ・コンピューティング」を推進し対応します。これは「SAP HANA(High-Performance Analytic Appliance)」として提供しているもので、分析処理をこれまでハードディスク上でおこなっていたものから、メモリ上でおこなうことができるようにしたものです。これにより、「“リアル”リアルタイム」での処理を可能としました。

特に日本ではこれまであまり語られていませんが、EV普及やスマートグリッドを考える際に、リアルタイム性は最も重要なひとつとなります。実際にEVが何万台、何十万台と普及し、それらがエネルギー網とつながる。そうした時にきちんと制御できるのか、データを処理できるのかということです。こうしたシステムを活用するための整備が今後の課題となっていくでしょう。

----:日本での活動について展望をお聞かせください

現在、三井不動産が主体となり千葉県で実施している「柏の葉キャンパスシティプロジェクト」に参画しています。エネルギーソリューションの分野で、SAPのシステムを街づくりに組み込んで行くことを検証しています。その他のプロジェクトにも積極的に関わって行けたらと考えています。

特に日本では震災をきっかけに、スマートグリッドに関わるビジネスが目に見えて増えてきています。エネルギーの有効活用は、今世界で最も必要なものであると同時に、今日本で最も必要とされているものです。電力がひっ迫した際も、どこでどれだけの電力が使われているか、それがどのような影響を及ぼすかをリアルタイムで把握することができれば計画停電を実施する必要もなかったでしょう。

今後も、エネルギー活用の観点から、スマートグリッド、そしてEVへの関心は高まっていくと思います。多くの企業がこの分野でのビジネスを考えていることでしょう。新しいプレイヤーも次々と参入してくることが予想されます。そうした新しいプレイヤーに対し、SAPは既存のシステムを活用したソリューションをアウト・オブ・ボックスで提供できます。また、グローバルで展開していますので、日本でのビジネスだけでなく、世界展開を考えている方々にとって強いサポートをおこなうことができるでしょう。これが我々の強みだと考えています。


松尾氏は、9月7日、8日に開催されるEVビジネスに関するカンファレンスイベント「PHEV・?EV Infrastructure and Businessジャパン2011」に登壇予定。SAPが描くEVビジネスの現状と将来についてプレゼンテーションをおこなう。

■PHEV・?EV Infrastructure and Businessジャパン2011
会場:ヒルトン東京(新宿)?
日程:9月7日〜8日
担当:島田(電話:03-3464-8541)

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