プログラム開発推進本部 水野成夫(みずの・しげお)主査《撮影 高木啓》

新型マツダ『デミオ』の発表会で開発主査の水野成夫氏は、走りのチューニングとしてリアサスペンションのトーションビームアクスルを支えるブッシュの“スグリ”の方向を前後から斜めに変えて、ボディ剛性を高めたと述べていた。

ブッシュにスグリ=凹部を設けることで、負荷に対する弾性の剛柔に方向性を与えられる。けれども斜め方向ということは、コーナリング時などに横方向の応力の影響を受けてトー変化してしまうようなことはないのだろうか。

「横方向からの力には踏ん張るようにブッシュの形状を工夫していますから、それはありません。けれども斜めにスグリを入れたことで上下と前後の両方にたわむようになってしまった。その対策としてアッパーマウント付近のボディ剛性を高めたという訳です。またブッシュが動くことで耐久性の問題が出てきたので、ブッシュ自体の容量も増やしています」

ブッシュの強度を高めるためにゴム硬度を上げてしまうと乗り心地がゴツゴツして、しなやかな走りは失われてしまう。そこでゴム硬度はそのままに、ゴムを増量することで劣化に対する耐久性を確保したのだ。

ブッシュの容量を上げたとなると、トーションビームの形状変更で大きなブッシュが入るようにでもしたのかと尋ねると、水野氏は意外な解決策を明かしてくれた。「ブッシュを貫通しているボルトの形状を変更したんですよ」。

何と、ボルトの軸径を僅かに細くして、その分ブッシュの容量を上げたのだ。もちろんボルトは焼きを入れることで強度を高めて、安全性は従来と同等レベルを確保している。こうした工夫によって、よりしなやかな走りを得たのは理解できた。

しかし20kg重くなって、ホイールは細くなっている。このあたりはデミオ本来のハンドリング性能をスポイルしないのだろうか。

「燃料タンクも小さくしたので、リヤ荷重も減ってますますフロントヘビーになっています。理想を言うならバッテリーをトランクに持っていきたいところなんですが、ラゲッジスペースの関係なんかからも、それは今回は難しい。でも解決策はあったんです。欧州ではディーゼルエンジンを搭載したデミオを販売しているので、その足回りのデータが活かせたんですよ」

ディーゼルエンジンはエンジンやバッテリーが重くなりがちなので、国内仕様のデミオよりフロントヘビーなのである。しかしながら欧州市場でのクルマの評価ではハンドリングや高速安定性は日本以上にシビアだ。そこで高い評価が得られるまでディーゼル仕様の足をチューニングした実績が、この「13-SKYACTIV」で利用できたのだ。

「ホイールは確かにリム幅を細くしましたが、それに合わせた専用タイヤを組み合わせることでハンドリング性能は維持しています。あれは5.5Jのリム幅に合わせた縦バネの強さに設定したタイヤなんですよ」

何と、専用タイヤはてっきり低転がり抵抗と軽量化を目的にしていると思っていたら、ハンドリングの味付けにまで利用するほど、こだわった特性が与えられていたのだ。これはもう単なるエコカーの領域を超えている。さすが『ロードスター』を生み出したマツダらしいこだわりである。

ところで、走りと言うと我々はどうしてもハンドリングにばかり注目しがちだ。だが、水野氏は13-SKYACTIVの走りの魅力には「SKYACTIV-G」(ガソリンエンジン)の存在が大きいと言う。

「ガソリンエンジンはアイドリング時などの低負荷時にはスロットルを閉じているのでポンピングロスが大きく、燃料消費率が悪いんです。普通のエンジンはそこから中負荷まで燃料消費率が向上して、高負荷になるとまた悪くなっていく。けれどもSKYACTIV-Gは高負荷でも、あまり燃料消費率が悪くならない。だから、走りとエコを両立できたんです」

高負荷時とは、全開加速や上り坂での加速など、エンジンのパワーを最大限に利用する状態。そこで燃費を稼ぐにはハイブリッドは非常に有効なシステムだが、SKYACTIVはエンジンの力だけで克服しただけでなく、結果的に走りを存分に味わえる特性さえも得たのである。さらに空力に加えて遮音ガラスも、走りの感性を研ぎ澄ますためのチューニングだと言う。

「今回の13-SKYACTIVによって、このデミオは完成形になりました」。水野氏は自信を持って、そう言い切った。

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