村橋庸元・三菱自動車タイランド社長《写真 福田俊之》

日系自動車メーカー各社が東南アジア諸国の中でもインドネシアとともに自動車生産の拡大が見込めるタイ戦略を加速させている。

その背景には税制面での優遇がある。タイ政府は、条件を満たした環境対応車にかかる法人所得税を8年間免除するほか、生産設備の輸入にかかる関税も減免。また、タイは自動車生産の歴史がアジア新興国の中で最も古く部品メーカーの集積度が高いことも有利な条件となっている。

このうち、三菱自動車は、バンコク市郊外のラムチャバン工業団地の既存工場(第1、第2)に隣接する第3の新工場が2012年3月に本格稼働する予定で、タイでの車両生産能力を現在の年20万台から一気に年45万台に増強する方針である。新工場建設のための総投資額は約450億円とされている。

7月中旬、タイ国投資委員会から「名誉投資アドバイザー」に任命され、その授与式などに出席するため、バンコクを訪れた同社の益子修社長は「タイは水島製作所に匹敵するほどの最重要戦略拠点」と鼻息も荒い。

折から、日本は“6重苦”ともいわれるほど経営環境が悪化し、中でも急激な円高と電力不足は輸出型のものづくり企業にとっては致命傷。三菱自動車は国内生産の正常化に伴い、国内工場の従業員を9月末までに約800人増員する一方で、長期的な視点から「日本での生産をこのまま維持することがベストの選択なのかどうか?」(益子社長)とのジレンマを抱えていることも事実。

そこで、三菱自動車のタイにおける製造・販売を統括するMMTh(ミツビシ・モーターズ・タイランド)の村橋庸元社長にタイ事業戦略の狙いと今後の課題などを現地の経営者の視点から語ってもらった。


●タイ工場に部品を最優先、震災の影響はゼロ

--- 東日本大震災から4か月が経過。タイの生産にどんな影響がありましたか。

村橋 3月11日午後、私自身はバンコクにいましたが、こちらのテレビでもリアルタイムに被災現場の悲惨な状況が流れて、これは大変なことになったと……。ただ、震災後の日本からの部品調達では、益子社長からも話があったように「プライオリティの順でタイは最優先」という方針が出され、お陰様で、タイの工場ではほとんど減産もなく、フル稼働の状態を維持することができました。

--- むしろ、前年比を上回っているとか?

村橋 タイ全体の生産では、他社の工場が部品調達難から減産を余儀なくされ、4〜5月は大幅減少となりました。が、弊社の場合は昨年の倍以上の増産で、勤務時間も昼夜23時間態勢で対応しましたが、それでも台数が追い付きません。

--- 20年以上の歴史のあるラムチャバン工場は2010年に累計生産200万台を達成しましたが、大半が輸出向けですか。

村橋 この6月末で221万台、年末までに233万台の生産を計画しています。このうち、輸出は147万台、輸出車両の累計生産台数では現時点でタイでナンバーワンです。工場がタイ唯一の貿易港に隣接しているという立地条件にも恵まれており、周辺のASEAN向けが大半を占めています。


●「グローバルスモール」への期待感

--- 来春には、新しい小型車の「グローバルスモール」を生産する新工場が稼働しますね。

村橋 新工場の施工は竹中工務店さんにお願いしていますが、まさに日進月歩、すでに、建物の骨組みも出来上がり、工事は順調に進んでいます。来年3月には、この新工場からピカピカの「グローバルスモール」が誕生します。「低燃費」「低価格」で、塗装も従来の溶剤型とは違う水性塗料を使用するなど、環境に優しい“世界戦略車”をお披露目することができます。初年度は15万台規模の生産を見込んでいますが、日本を含め世界各国に投入する計画でもあり、ご期待ください。

--- まさに社運を賭けての新型車の投入ですが、今後、タイでの新車の販売計画は?

村橋 現在、タイ国内での三菱自動車は月販6000〜7000台ですが、来年以降、できるだけ早い時期に月販1万台以上に引き上げる計画を練っているところです。2010年度のタイ国内の総需要が84万7000台余りで、このうち、三菱は4万7000台強。シェアは5.6%です。それが月販1万台を目標にすると、シェアは14~15%になる計算です。「グローバルスモール」などの商品のラインナップとともに、現在150店舗(バンコク市内42店舗)ほどある販売網のさらなる拡大も視野に入れています。


●タイで i-MiEVの実証試験開始

--- ところで、今回、タイの電力会社と電気自動車(EV)の実証走行試験を実施することで合意しましたね。

村橋 東南アジア地域ではシンガポール政府に続いて、昨年12月にタイ政府と実証走行試験に向けての共同研究に合意しましたが、今回はその一環としてタイのMEA社(首都圏配電公社)とPEA ENCOM社(地方配電公社子会社)という電力会社2社とタイでのEVの受容性、市場性、充電インフラ調査など、EV普及に向けた具体的な検証を行うことになりました。期間は8月から開始して、約3か月から6か月間を計画しています。そのため、すでに、日本から『i-MiEV』を8台運んできました。

--- タイ市場でも電気自動車を販売する計画は?

村橋 今回のタイの電力会社との走行試験は、EV普及に向けた大きな一歩であり、弊社にとっても喜ばしいことだと考えています。EVの車両実用性評価ばかりでなく、将来のスマートグリッド社会におけるEVの役割についても協議するつもりで、実証走行試験の結果次第では、タイでもEVを販売したいと思っています。


村橋庸元……1952年生まれ59歳。タイ国立チェラロンコーン大学卒、駆け出し時代は三菱商事が手がけるタイのいすゞ販社に長い間赴任するなど、タイの自動車事情に精通。フランス三菱自動車社長を経て2009年5月から三菱自動車タイランド社長に就任。趣味は音楽。東京都出身。

建設中のラムチャバンの新工場を視察する益子修社長ら《写真 福田俊之》 フル稼働中のタイのラムチャバン工場《写真 福田俊之》 バンコク市内の三菱の販売店《写真 福田俊之》 水性塗料を使った塗装作業の実習現場《写真 福田俊之》 三菱ブース、表は来場者で賑わう(バンコクモーターショー11)《写真 福田俊之》 三菱グローバルスモールコンセプト(バンコクモーターショー11) 三菱グローバルスモールコンセプト(バンコクモーターショー11) 三菱グローバルスモールコンセプト(バンコクモーターショー11) 三菱グローバルスモールコンセプト(バンコクモーターショー11) 三菱i-MiEV(バンコクモーターショー11) 三菱ランサーEX(バンコクモーターショー11)