RCZ

●手強い新参者

プジョーの2+2コンパクトスポーツクーペ『RCZ』新型が日本で発表された。モデル名にプジョー伝統の3桁数字を近年で初めて外したのは、『308』シリーズの一員と言うことよりも新世代プジョーの先鋒であることを宣言したかったのであろう。

ボディーサイズは、全長4287mm×全幅1845mm×全高1359mmで、1.6リットルエンジンを搭載。156馬力6速ATの右ハンドルと、200馬力6速MTの左ハンドルとの2つのモデルバリエーションを持つ。価額はそれぞれ399万円と423万円となっている。

プジョー初のスポーツクーペだが、鬼瓦のような顔からプジョーの一員であることは直ぐ分かる。デザインとしては、アルミ光沢の弧を描くピーラーでボディから分離されたキャビンの双こぶのルーフに目がいく。サイドからリアビューに回るにつれて、猛獣の太もものように張り出したリアフェンダーに目が釘付けになる。

RCZはフランスらしいデザインを武器に、先発のドイツ車独壇場となっているコンパクトプレミアムスポーツクーペ市場に切り込みをかけたようだ。刺客の意気込みを感じさせる躍動感のあるフロントフォワードのプロポーションや、デコラディブなデザインディテールは、ユーザーを喜ばせそうだ。

●刺客の武器はデザイン

競合車に対して大き目の車体寸法は、勝つための常套手段だが、その真偽を含めてRCZの魅力を探る。

寸法から推測すると、車体寸法が大きいのは競合車に勝つための戦略と言うよりは、308のフロアを共用することによるコストメリットと考えるのが妥当のようだ。また競合車より小排気量のエンジンも、性能で競合車に対して優位に立とうという考えの無いことを示している。

最新のプジョーのフロントマスクを始め、『C3プルリエル』のアルミのサイドアーチやフランス風のデコラティブなデザインなど、RCZのアピールポイントがプジョーのデザインエッセンスの集大成にあることが判る。

加えるに、通称「ダブルバルブ」とも呼ばれる1957年フィアットアバルト『750ザガート』に似た双コブのルーフをも採用している。このクルマは、最後のミッレミリアでのクラス優勝や、イタリア国内のGT750クラスで連戦連勝を果たした名車だ。このように、社外のカッコよいデザインをも貪欲に取り込んだのが、RCZの特徴と言える。

●誇り高き生き方

イタリアの国際モーターショーがトリノのポー川縁で開催されていた頃のことだが、会場でクルマを取材していた折の出来事を時々思い出す。汗だくでフイルム装てんに悪戦苦闘していた矢先、近くで「ピアノ、ピアノ」と頻りに繰り返している声に気づいた。

突然見知らぬ外人から声をかけられ戸惑いながらも、フイルムをもっと「やさしく巻いたほうがよい」と言っているらしいことが理解できた。声の主はイタリアのカーデザイナーであった。話が進むうちに日本での仕事に興味を持っていることも分かり、近郊のお宅でデザイン論議をすることになった。

デザインをするときに、他所のデザインを見る必要はないと主張する彼は、多少誇張があるようだが、トリノからは近いフランクフルトやパリのモーターショーにも行かないと言っていた。彼が、デザイン調査でイタリアまで来ている日本人デザイナーに興味を示したのも納得がいった。

彼のような考え方は欧州のデザイナー共通のものであり、RCZのデザインもこのような環境で生まれたことを感じさせる。しかし、社外のアイデアも拝借してしまう貪欲さは、競争の激しい時代の所産であったとしても勧めたくない。自己の誇りだけではなく、ブランドイメージをも損なう可能性があるからだ。


筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』、2代目『マーチ』のプロデュースを担当した。東京造形大学教授を経てSTUDIO MATSUI主宰。著作に【D視点】連載を1冊にまとめた『2007【D視点】2003 カーデザインの視点』。

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